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「何のためのGo To トラベルか」利用者が高級ホテル等に偏り、中小旅館に恩恵薄く

文=編集部
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サイト「Go To トラベル」より

 安倍晋三政権の置き土産、というより菅義偉・新首相が強力に推進している政府の観光支援事業「Go To トラベル」を利用した宿泊者数が8月末までに1339万人に達した。赤羽一嘉・国土交通相(菅内閣でも再任)が9月5日の閣議後の記者会見で発表した。18日正午から東京発着の旅行商品で補助を適用した販売が始まることも明らかにした。東京は10月1日から事業の対象に追加される。

 Go To トラベルは新型コロナウイルスの感染拡大で需要が激減した観光業界の支援策として7月22日に始まった。宿泊旅行で7300万人分、日帰り旅行で4800万人分の1.3兆円の予算を確保している。国内旅行の代金を半分まで補助する。1泊あたり1人2万円を上限に7割を旅行代金の割引、3割を旅先の飲食店や土産品店で使えるクーポンとする。クーポンは10月1日から利用できる。

 東京を目的地とした旅行や都内在住者の旅行は感染拡大の影響で、7月の事業開始時点で対象から除外していたが、10月1日から東京が事業の対象に加わる。東京除外によってGo To トラベルの個人消費の押し上げ効果は1年間で約1.5兆円減るとの見方(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)があった。東京発着が適用されることで相当額の個人消費の押し上げ効果が期待されるわけだ。キャンペーンに参加する宿泊事業者は9月13日時点で計2万1836社。業界全体の約6割に達している。

 だが、課題も見えてきた。業界団体の調査で利用者が高価格帯の宿泊施設に偏っている傾向がわかった。このままでは低価格帯の中小宿泊施設の利用者が少ないまま予算を使い切ってしまう可能性がある。農水省は中・小規模の宿泊施設を確保する方針を固めた。

訪日外国人の4.8兆円が蒸発した

 観光庁がまとめた2019年(暦年)の訪日外国人数は前年比2.2%増の3188万人、旅行消費額は6.5%増の4兆8135億円。いずれも過去最高を記録した。費用別に消費額をみると、買い物代が34.7%と最も多く、次いで宿泊費(29.4%)、飲食費(21.6%)の順。宿泊費は1兆4151億円にのぼった。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、インバウンド需要は蒸発した。訪日客数は4月以降、ほぼゼロの状態が続いている。年間の旅行消費は4.8兆円、宿泊費は1.4兆円が消える。

 帝国データバンクの調査によると、新型コロナ関連倒産は527件(9月15日時点、事業停止を含む)。業種別では飲食店が76件と最も多く、次いでホテル・旅館が54件。全国の飲食店の数は67万店だが、宿泊施設は5万施設と1割にも満たない。それなのにホテル・旅館の倒産が突出している。ホテル・旅館が受けたコロナの打撃がいかに大きかったかがわかる。廃業に追い込まれたホテル・旅館はもっと多いとみられる。

 6月19日、県をまたぐ移動の自粛要請が解除され、Go Toトラベルが実施され、本格的な国内旅行の再開が期待されている。ここから先、旅行・観光業界は、どのようにアプローチすれば、国内需要を回復させることができるのだろうか。

車で30分~1時間で行ける地元エリアの観光を提唱

 苦しい現状を乗り越えようと、星野リゾートの星野佳路代表は20年5月、マイクロツーリズムを提唱した。新型コロナウイルスの治療薬やワクチンができるだろうと想定し、18カ月後までを、どう生き延びるかを考えた対応策だ。

 星野代表は、ウイズ・コロナ状況下では「旅を目的とした遠出や都道府県をまたぐ遠距離移動は得策ではない」との判断のもと、車で30分~1時間で行ける地元エリアの観光を推進することによって、「ウイルス感染予防と地域経済の活性化が両立する観光を目指すべき」とした。その旅のスタイルが、すなわちマイクロツーリズム(小さな旅)だ。「国内旅行・観光業の第一歩にしょう」と呼びかけた。大都市圏からの観光は、その後で、インバウンドは最後になる。

 星野氏は長野県軽井沢町の温泉旅館で育った。夏は東京など遠くからのお客で賑わうが、それ以外の季節は農閑期の農家の人々など近隣客が泊まりに来た。こうした近隣需要が日本の観光を支えてきた。しかし、新幹線や航空路線、高速道路の整備で大都市から地方を訪れる客が増え、近年は外国人観光客が急増した。「もっと遠くから」という流れが続くなかで、近隣のお客さんに来ていただくという意識が薄れてきた。観光が、こうした本来の姿を取り戻し、サービスを強化する時間をもらえたらと考えるようになったという。

 日本の観光市場は約29兆円。このうちインバウンドは4.8兆円だけ。8割以上は日本人による国内の観光だ。日本人が海外旅行に使っていた金額も2兆円から3兆円に達する。こうした分が国内旅行に戻る可能性がある。今後1年半、国内需要を伸ばし新たな市場をつくることができれば、外国人需要を失っても、十分に乗り切っていけるのではないかと星野氏は考えた。「アフター・コロナを見すえた足腰の強い観光をつくれるのか。今後18カ月間が勝負の時だ」と星野氏は語っている。

菅政権の訪日客の目標は30年に6000万人

 マイクロツーリズムは地元で楽しんでもらうのが狙いだ。これがのちのちインバウンド誘致にもプラスに働く。地元の魅力を再発見してもらい、地元と旅行客の間の信頼を築くことが今後いっそう重要になる。まずは近場の小さな旅から再開し、少しずつ多彩な旅の楽しみ方を取り戻していこうという提案である。

 だが政府としては、そんな悠長なことは言っていられない。菅首相は官房長官時代に観光戦略を話し合う会議で、「2030年に訪日客を年6000万人とする目標を実現したい」と述べた。コロナ前の2倍だ。この実現に向けての第1弾が、Go To トラベルの実施であった。だが、利用者は特定の観光地に集中。安く泊まれるとあって高額のホテル・旅館に偏る傾向が強まった。有名な観光地にない中小のホテルや旅館からは、「何のためのGo To トラベルか」との不満の声があがる。

 その意味では、まず近場の客に力を入れるといいう星野氏のマイクロツーリズムの提唱は説得力があるのかもしれない。しかし、残された時間は、あまりにも少ない。

(文=編集部)

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