アマゾンギフト券、突然「すべて没収」続出…アマゾンと仲介業者、抜本的対策取らない理由
「ある日突然、アマゾンギフト券15万円分が使えなくなるなんて信じられない。補償もないんですよ」――。
アマゾンギフト券を仲介業者から購入し、高級カメラを購入しようとした自営業の30代男性はこう憤る。ツイッター上でも同様の事例が多く報告されており、数百万円が使用不可になった事例もあるといい、一部では被害者の会も結成されている。
割安なギフト券はもはやギャンブル
アマゾンギフト券はネット通販世界最大手アマゾンのサイト内で現金同様に買い物ができるオンライン上のギフト券だ。コンビニで売っているギフト券番号が書かれたカードか、アマゾン上でクレジットカードを通して購入する。ギフト券は購入額の数%程度がサイト上で現金同様に使えるポイントがつくこともあり、近年、個人客だけでなく、飲食店や企業による大量買いなどに使用するケースも増えており、すそ野が広がっている。
今回問題となっているのは、仲介業者経由で購入したギフト券。アマゾン側がクレジットカードのスキミングなどの不正利用で購入されたと把握しているものが、金額にかかわらず少しでも使用された場合、購入者のアカウントが保有するギフト券すべてが没収される。同じアカウントで繰り返されたり、悪質性が高いとアマゾン判断した場合は、アカウントそのものが停止に追い込まれることもある。アマゾンのサイトにも明記されている。
仲介業者サイトでは、ギフト券の所有者が実際に売れた額の2~3%の手数料を仲介業者に支払う形で売りに出すことができる。そのギフト券は概ね、額面の1割程度割安な価格でサイト上で売られる。10万円分のアマゾンギフト券が8~9万円で買えるのだから、確かにお得感はある。
ただ、このギフト券のなかには違法なものが含まれているかは消費者側からわからないため、数万円得しようとして運が悪いと全額没収されるという、まさにギャンブル状態になっているというわけだ。
キャッシング枠の現金化利用も
ここまでの話だけを聞くと、セコい消費者の自業自得と思われるかもしれない。しかし、取材を進めるにつれてアマゾンと仲介業者の間のもたれ合いが、消費者が一方的に損をするグレーな状況を生んでいることが明らかになった。
そもそも仲介業者にギフト券を販売するのはどういう人々なのだろうか。クレジットカード会社関係者はこう解説する。
「いらなくなったギフト券を現金化したいという素朴な売り手のほか、借金返済のためにクレジットカードのショッピング枠を現金化する手段として使われている部分が多いと推測されます。実際、仲介業者のサイトでは毎月10日とか25日の前になると、値引率が上がっているのがその証拠です。数万円損をしてもなんとしてもすぐに現金がほしい人間がギフト券を売るため、いつもより安売りになるというわけです。
仲介業者側にとっては客が持ってくるギフト券を左から右に流すだけで売却額の⼿数料が⼊ることになる。2%だとすると本来10万円のギフト券が8万円で売れれば場合、2000円程度が仲介業者側に⼊ることになる。例えばこれが月に1万回取引があれば、月にほとんどコストをかけることなしで月2000万円の利益を上げられる計算になり、ボロ儲けというわけです」
キャッシング枠の現金化はアマゾンギフト券によるものだけでなく、ダイレクトに業者が買い取る形もあるが法的にはかなりグレー。カード会員とクレジットカード会社の規約違反となる上、場合によっては詐欺罪が成立する可能性もある。本来アマゾン上で買い物をするためのギフト券がカネに困った人間たちの「錬金術」に利用されているとは、なんともおかしな話ではある。
アマゾンは完全無視も余録に預かっている
アマゾンはこの仲介業者については、先の規約の中で、業界最大手のアマテンなどを名指しで「未承認サイト」として、ギフト券を購入しないように呼び掛けている。確かにアマゾンの立場からすれば正規ルートで購入したギフト券以外に責任を持たないのは当然だ。しかし、問題は現状、アマゾンしか不正な手段で購入されたギフト券番号がわからないという点である。仲介業者側に不正に購入されたギフト券の番号が共有されない限り、延々と消費者側の「ギャンブル」が続くことになるのだ。
実際にアマテンで購入したギフト券が没収された情報提供者には、アマゾンに没収されたギフト券について、アマテンにクレームを入れると自動返信で以下の返答があった。
「当社はあくまでも個人間売買の場をご提供させていただいているものとなりますため、エラー報告につきましては、原則として、売買契約者となる出品者様と購入者様によって、解決していただくようお願いしております。また、当社が買取、販売のサービスを行なっているものではないため、当社がギフト券の有効性を判断するものではございません。ご了承ください。
お客様がご申告いただいている内容では、ギフト券登録後、お客様に事前の許可無くアカウント内の残高を没収されているのはamazon様であり、詳細についてはamazon様へご確認いただき、その内容をもって出品者様と問題を解決いただく必要ございます」
つまり、アマテンなど仲介業者の立場はあくまで売り買いの場を提供しているだけであり、もし購入したギフト券がアマゾンに没取されるような性質のものであっても責任はとらないということだ。当事者同士で話し合ってほしいとも書かれてある。
どうだろうか。確かに一見してもっともらしく聞こえるが、自分たちの扱っている商品の一部は犯罪収益のロンダリングに利用されていることを考えれば、都合の良すぎる話にも聞こえる。不正に購入されたギフト券の持ち主のアマゾンアカウントも他人のクレジットカードなどでつくられているとみて間違いないので、ババを引いた場合、泣き寝入りになる可能性が高い。
アマテンの場合、不正なギフト券を購入したと気づいた買い手が購入から30分以内にエラー報告を出せば、売り手に代金が渡るのは阻止できる仕組みにはなっているが、売り手と買い手の交渉中、ギフト券の代金はアマテン管理下に置かれる。もし、この状態で売り手か買い手のアカウントが失効した場合や、売り手が交渉に応じない場合、アマテン側が代金をどのように扱っているかにも疑問が残る。もし企業の資産に位置づけているとしたら、トラブルが起きれば起きるほどプラットフォーマーであるアマテンの資産が膨らむということになりはしないか。
アマテンはホームページ上で「⼿厚いカスタマーサポート」を謳っているが、売り⼿や買い⼿に警告を出すことはあっても、補償など本格的な問題解決に動くシステムはなく、実態とはほど遠い。
アマゾンが不正利⽤されたギフト券の番号を共有しないのは、「未承認サイト」であるアマテンなどの仲介業者の存在を公式に認めたくないということに加え、前述のようなキャッシング枠の現⾦化であれなんであれ、ギフト券を通して収益が流れ込んでくる
構造が背景にある。ただ、これでは客観的には「⿊いカネでも⽩いカネでもカネはカネ」という姿勢に⾒られても仕⽅ないだろう。
急成長するオンラインギフト券市場
実際、このギフト券業界の成長はすさまじい。矢野研究所の調査によると、2014年度は82億円の規模であった市場は、18年度では約1167億円と4年で約14倍に急成長しており、23年には2492億円と倍増するという。業界最大手アマテンが19年に公開したホワイトペーパーによると、12年に設立された同社は16年から収益は約45%の成長を遂げており、10万人を超えるユーザー数は年に平均2割増加。取引数量は2020年内に150万件に到達することが見込まれる。
今や、日本のオンラインギフト券流通市場の6割以上のシェアを占め、年間100億円以上の取り扱い高を上げ、20年8月にはドバイにも進出したというから、この成長の波に見事に乗ったというわけだ。業態としても、ギフト券を売り買いしたい顧客同士をつなげるだけなので、実際のコストはクレーム対応などのカスタマーサービスの⼈件費くらいで、かなり低く押さえられるとみられる。コロナ禍でインターネットショッピングが伸びるなかで、今後も成長が予測される業界であるといえよう。
アマゾンの立場からしても、これだけの成長市場である。最有力商品のアマゾンギフト券を通して、相当の収益が流れ込んでいるとみられる。この状況下では、仲介業者と本格的に争うよりは、消費者に責任を押しつけられる現在の仕組みのほうが経済合理性があるのは間違いない。
アマゾン、アマテンの返答は
アマゾンはGAFAの一角を占めるグローバルプラットフォーマーの一角を占める。にもかかわらず、どのギフト券が不正なものかを明らかにせず、顧客のアカウント内のギフト券をすべて没収するというのはプラットフォーマーの横暴とはいえないだろうか。オンラインギフト券市場が小さかった時代ならいざ知らず、超巨大企業として顧客保護の観点からより積極的な取り組みをすべきだろう。
アマテンにしても取扱⾼が100億円を超える企業規模になった以上、犯罪防⽌の社会的責任が生じるため、「売り買いは⾃⼰責任」という言い分は常識的に考えて通⽤しないように思われる。
近年では、犯罪収益のロンダリングの⼿段として、NTTドコモのオンライン決済サービス「ドコモ⼝座」のスキを利⽤した犯罪も起きている。政府も市場が急増するオンライン市場での消費者の安全確保に全⼒を挙げてほしいものだ。
本件についてアマゾンに問い合わせたところ、以下回答が寄せられた。
Q.1)不正に購入されたアマゾンギフト券について、そのギフト番号を公開ないし仲介業者と共有して、利用者保護の動きを強める予定はございますでしょうか。また、そのご予定がない場合、理由をご教示いただけますでしょうか。
【回答】
今後の予定についての詳細はお答えいたしかねますが、お客様に安心してAmazonギフト券をご利用いただけるように、Amazonギフト券に関する制限および禁止行為を行うこと、またはAmazonギフト券細則に反してAmazon ギフト券を使用することに対して、ギフト券の登録や利用の停止、ギフト券の残高の無効化、またはギフト券細則に基づきアカウント閉鎖等の措置をとる場合があります。Amazonギフト券の細則はこちらをご確認ください。
Q.2)不正に購入されたアマゾンギフト券について、仲介業者を介して入手した利用者が、不正に購入された旨を知らないまま当該アマゾンギフト券を利用しようとし、その利用者のアマゾンアカウントが保有する全ギフト券が没収されることについて、消費者保護上、不適切ではないかという指摘も出ていますが、貴社の見解をご教示いただけますでしょうか。
【回答】
Amazonは常にお客様を第一に考えております。Amazonでは、今後もお客様に安心してお買い物をお楽しみいただけるよう、サービスの向上に努めてまいります。
また、アマゾンが「未承認サイト」としているアマテンの運営会社にも質問状を送付したが、期日までに回答は得られなかった。ちなみに同社はホームページ上で電話番号を開示しておらず、NTTの番号案内サービス「104」にも登録されていなかった。そのため、質問状をホームページに記載された住所に「配達証明」で郵送するかたちをとった。
Q.1)貴社サイトで売買が仲介されたオンラインギフト券について、貴社は、売買は売り手と買い手の自己責任という立場を取られています。しかし、アマゾンギフト券を不正な手段で購入した売主から、貴社サイト上でそのアマゾンギフト券を購入してアマゾン上で利用しようとした顧客が、当該アマゾンギフト券を没収される事象が発生しています。また、盗難など不正に入手されたクレジットカードによってアマゾンギフト券が購入され、それが貴社サイト上で売買され、アマゾン上で利用される可能性も指摘されています。利用者保護の観点より、プラットフォーマー企業として何か対策をお取りになるご予定はございますでしょうか。
Q.2)これまで不正な手段で入手されたアマゾンギフト券をめぐる対応について、貴社からアマゾン側に協力を求めたことはございますでしょうか。また、今後求める予定はございますでしょうか。
Q.3)貴社サイト上で不正なギフト券を購入したと気づいた買い手が、購入から30分以内にエラー報告を出せば、売り手に代金が渡るのを阻止できる仕組みになっています。売り手と買い手の交渉中、ギフト券の代金は貴社サイト管理下に置かれますが、もし、この状態で売り手か買い手のアカウントが失効した場合や売り手が交渉に応じない場合、貴社サイトが管理する代金はどのような取り扱いになりますでしょうか。もし貴社の資産として計上されている場合、顧客の金を貴社がトラブルに乗じる形で資産計上するかたちになるのでないかという指摘がありますが、貴社のご見解をご教示いただけますでしょうか。
質問状は六本木ヒルズの本社に確かに届いたものの、回答はなかった。
まず、アマゾンは「お客様を第一に考えております」と返答しているものの、事実上のゼロ回答。これでは、消費者から「顧客ファースト」ではなく「ベゾス・ファースト」と批判されても文句は言えまい。アマテンに至っては回答なしと、質問状を誰かが受け取っている以上、対応が誠実とは言いがたい。消費者を納得させるような対応が必要ではないか。
アマゾンもアマテンも違法な行為をしているわけではない。しかし、このままではオンラインギフト券の市場規模が拡大するにつれて、消費者だけが極端に損をするギャンブルが延々と広がり続けるだろう。喜ぶのはアマゾンとアマテンなど仲介業者だけではないのか。犯罪収益のロンダリングの温床となっている現状を考えれば、業界や政府当局が動くのが筋だろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)