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小林敦志「自動車大激変!」

新型ヴェゼル、ヤリスクロスではない本当のライバルとは?N-BOXに食われる人気のホンダ車

文=小林敦志/フリー編集記者
新型ヴェゼル、ヤリスクロスではない本当のライバルとは?N-BOXに食われる人気のホンダ車の画像1
ヴェゼル|Honda公式サイト」より

 4月23日に2代目となる新型ホンダ「ヴェゼル」が正式発売となった。2月18日にワールドプレミアされていたのだが、正式発売のタイミングで、ホンダは予約受注台数が1万7000台(月販目標台数5000台)になったと発表している。

 新型ヴェゼルは先代に比べると、威風堂々とした顔つきなどを採用し、質感も高められているが、ボディサイズはほとんど変わっていない。そして、ライバルとしては、トヨタ「C-HR」、トヨタ「ヤリスクロス」、日産「キックス」などが挙げられている。

 そこで、サンプルとして、C-HRとヤリスクロスのデビュー時の売れ行きを見ると、C-HRは発売後1カ月時点での累計受注台数が4万8000台となったことを、トヨタはリリースで発信している。ヤリスクロスはリリース発信こそ確認できなかったものの、多くのメディアでは発売後1カ月での累計受注台数が4万台になったと報じていた。

 新型ヴェゼルの1万7000台はあくまで予約受注段階の数値となるので、これに4月23日から1カ月間の受注台数が加わり、C-HRの4万8000台やヤリスクロスの4万台と同条件となるが、人気車の発売直後とはいえ、さすがに1カ月で3万台を上乗せできるとはなかなか考えられない(「N-BOX」の月販台数を軽く超える)。予約受注台数で見ると、新型ヴェゼルは比較的静かな正式発売を迎えたという印象を筆者は受ける。

 初代ヴェゼルは2013年12月に正式発売されている。クロスオーバーSUVの中でも、クーペのような流麗なスタイルを採用する“クーペSUV”と呼ばれるカテゴリーに属しており、それは2代目でも継承されている。

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 C-HRは2016年12月に発売されており、ヴェゼルよりもさらにクーペSUV色の強いキャラクターとなっている。2016事業年度締め(2016年4月から2017年3月)の年間販売台数は、先代ヴェゼルが7万3583台なのに対し、C-HRは4万3600台だった。ただし、先代ヴェゼルは年間でフル販売しているが、C-HRは2017年1月から3月の3カ月しかフル販売していない。このあたりを考慮して月販平均台数を見ると、C-HRがヴェゼルの2倍強の勢いで販売していることになる。

 2017事業年度締めはC-HRの圧勝となっているが、その後はC-HRの販売状況が比較的短期間で落ち着いてしまったこともあり、2018事業年度締め、2019事業年度締めでは、僅差でC-HRの方がヴェゼルより売れていた。ただ、ヴェゼルがモデル末期となった2020事業年度締めでは、20台という僅差であるが、ヴェゼルがC-HRを抜いている。

 これは、ヤリスクロスの登場でC-HRがヤリスクロスに食われてしまったことも大きく影響しているようにも見えるが、ヴェゼルも月販平均台数で2342台となっており、今時は「月販で2000台超えればヒット車」とも言われているので、末期モデルにしては大健闘していたといっていいだろう(特価セールも積極的に行われたようだ)。

 圧倒的な販売力を持つトヨタで2020年5月からスタートした“トヨタ系ディーラー全店での全車種(一部除く)併売化”以前より、C-HRはトヨタ系ディーラーすべてで購入できたのだが、先代ヴェゼルが販売面で健闘できたのは、C-HRが極端なクーペSUVスタイルを採用した結果、後席居住性や積載性能で不満が出ていたことも大きい。先代ヴェゼルは、“C-HRより使えるクーペSUV”としての強みを持っていたといえる。

N-BOXに食われる人気のホンダ車

 販売面だけで見れば、新型ヴェゼルの最大のライバルはC-HRよりはヤリスクロスとなりそうなのだが、より強力なライバルはホンダ車の中にいる。

 先代ヴェゼル、N-BOX、「フィット」「フリード」の2020事業年度締めの各単月の販売台数推移をグラフにしたものを見てもらいたい。この4車はホンダ車の中でも人気の高いモデルとなるので、あえてグラフ化した。

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 グラフを見てわかるように、N-BOXが群を抜いている。しかし、N-BOX は2020年12月にマイナーチェジを行っており、2020事業年度の大半は末期モデルとなっていたので、決して絶好調というわけでもなかった。

 この4車について、2020事業年度における月販平均台数を見ると、月販目標台数に対して、N-BOXは約109%、フィット約78.5%、フリード約101%、ヴェゼル約46.8%となった。

 注目すべきはフィットである。フィットは2020年2月に正式発売となっているにも関わらず、2020年4月から2021年3月までの各単月すべての販売台数が月販目標をクリアできていないのである。月販目標台数1万台というのが少し高めにも見えるが、とにかくメーカーの期待を裏切る結果となっている。

 フリードの月販平均台数が100%をほんの少しオーバーしているが、これは「ステップワゴン」の2020事業年度締めの月販平均台数が約3007台で月販目標台数に対し約60.1%となっているのを見ると、ステップワゴンを見に来たが結局フリードになった、というパターンが顕著だったことを物語っている。

 フィットについては、N-BOXに食われてしまっているのは否定できないだろう。N-BOXに食われるのはフィットだけではなく、ステップワゴンやフリードユーザーが「3列シートを使わなくなった」などの理由で「N-BOXで十分」ということで、かなり大きいホンダ車からのダウンサイザーもN-BOXが吸収してしまっている。前述した先代ヴェゼルの今ひとつ勢いがない販売台数の推移も、単にC-HRが登場しただけでなく、N-BOXの存在が招いた結果といっていいだろう。

 先代ヴェゼルの頃、あるホンダカーズ(ホンダ系ディーラー)のセールスマンは「ヴェゼルを見に来られたお客様がフィットのクロスター(SUV風モデル)になるというならまだいいですが、N-BOXを契約していくことも珍しくありません」と嘆いていた。

 また、別のホンダカーズのセールスマンは「新型ヴェゼルが登場したこともあり、モデルの古さがさらに際立ってしまい、これでCR-Vはますます売れなくなる」と語ってくれた。

 ホンダカーズでは、トヨタのようにバランスよく新車を“売り分ける”ことが苦手な傾向があると筆者は感じている。セールスマン自らお客へ売りたいクルマをプロモーションするのではなく、お客の希望するクルマをそのまま売っているようにも見える。ショールームを訪れて「今日は何を見に来られましたか」とセールスマンに聞かれれば、ついつい知名度の高い「N-BOXを見に来た」と言ってしまうことも多いだろうが、そのまま商談が進んでしまうようである。そこで積極的にお客の趣向性やクルマの使い方を聞いて勧めるクルマを選べば、違った販売実績となっていたかもしれない。

 また、ホンダはディーラーがストックしている在庫車販売がメインなので、“卵が先か鶏が先か”ではないが、なかなか売れないモデルは受注生産となり、納期が延びるだけでなく、値引きも伸び悩むことになる。結果的に、在庫状況の良い一部の人気車(軽自動車やコンパクトカーメイン)を集中して売ってしまうことにもなるようだ。「オデッセイはほぼ受注生産となり、4カ月ほど納期がかかる」との話も聞いたことがある。

 新型ヴェゼルでは最上級グレードの「PLaY」にオーダーが集中し、納期が遅延しているのだが、そのあたりの事情については次回に詳述したい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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