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小林敦志「自動車大激変!」

新型ヴェゼル、最上級「PLaY」の納期遅延を招いたホンダの誤算と“隠れ高額車”人気とは?

文=小林敦志/フリー編集記者
新型ヴェゼル、最上級「PLaY」の納期遅延を招いたホンダの誤算と隠れ高額車人気とは?の画像1
ヴェゼル|Honda公式サイト」より

 前回、4月23日に正式発売されたホンダの新型「ヴェゼル」の販売事情について述べた。販売面だけで見れば、新型ヴェゼルの最大のライバルはトヨタの「C-HR」より「ヤリスクロス」になりそうだが、より強力なライバルはホンダ車の中にいるという状況だ。

 新型ヴェゼルはデビュー直後で魅力的なモデルではあるものの、売れ筋のハイブリッドでのベースグレードとなるe:HEV Xが265万8700円、最上級グレードの「e:HEV PLaY(以下、PLaY)」では329万8900円にもなる。

 PLaYでは、パノラマルーフやカーナビ機能も備わるホンダコネクトディスプレイが標準装備されるので、損得勘定が分かれるところではあるが、全般的には割高イメージも目立っている。ショールームを訪れる前にメーカーのウェブサイトで“予習”をしていれば、「新型ヴェゼルはいいけど高いなあ」という印象を持ちつつ、ショールームに「フィット クロスター(SUV風仕様)」が置いてあれば「これでいいや」ということにもなりやすい。

 多くの人は、SUVを購入したからといって積極的に降雪山岳路やオフロードなどを走ることはない。事実、予約受注のタイミングでホンダカーズにてヴェゼルの売れ筋を聞くと、「よほどのことがない限り4WDを選ぶ人は少ない」とのこと。そうなれば、“なんちゃってSUV”となるフィット クロスターでも十分なのである。

 正式発売のタイミングでホンダもコメントしているようだが、新型ヴェゼルの中で最上級のPLaYの納期がずば抜けて遅れている。ホンダは発売日のタイミングで注文を入れても納期は12月末としているようだが、筆者が4月上旬にホンダカーズで聞いたところでは、すでに納期は2022年、つまり年明けになるとしていたので、増産でもかけて多少短くなったのだろうか(PLaY以外については、4月上旬時点で納期は7月になるとのことであった)。

 これについては、単にPLaYにオーダーが集中したことで納期遅延となったわけでもないようだ。事情通は「ホンダとしては売れ筋グレードがZになるとして、e:HEV Zの生産比率を最も高めていたそうです。ところが、予約受注の段階からPLaYへのオーダーが目立ち、PLaYだけ納期遅延が長期化してしまったようです」とのこと。

コロナ禍で“隠れ高額車”が人気に

 2020年春から新型コロナウイルスの感染が拡大し、ある意味非常時が続いているが、新車販売は一時的な落ち込みから急回復を見せた2020年6月以降、絶好調が今も続いている。その中でコロナ前と明らかに異なる購買行動が、“隠れ高額車”がよく売れているということ。今もなお納期遅延が続いているトヨタ「ハリアー」は、最上級グレードに本革シートなどフルオプションに近い仕様の納期遅延が、より長期化傾向にあるとのこと(生産の都合などもあるようだが)。

 海外渡航ができず、緊急事態宣言など政府による行動自粛要請が断続的に続き、レジャー支出も大幅に減り、飲食店の時短営業もあり外食もままならない。このような中で、富裕層を中心に貯蓄が増える家庭が目立ってきており、数少ない贅沢が“新車購入”なのである。

 しかし、見た目にも“高額車でござい”というモデルは世間体もあり選べないという人も多く、“プチ贅沢”として、それほど高額ではないモデルの最上級グレードをフルオプションで購入する傾向が目立っている。

 新型ヴェゼルはコロナ禍になって1年が経過しようかというタイミングでの発売なので、PLaYの生産比率を最も高めても良かったのではないかと思うのだが、メーカーとしてコロナ禍の販売現場のリアルな現状をそこまで把握しきれていなかったのならば、それは残念なことである。“プチ贅沢”や“隠れ高額車”の購入がトレンドの今、ボディタイプにそれほどこだわりがなければ「それならN-BOXのカスタム系の最上級グレードでフルオプション」という選択をする人がいてもおかしくないだろう。

 購買行動の変化として、リセールバリューを意識して購入車種を決める人も目立っているとのこと。そうなると、むしろ軽自動車の方がリセールバリューはよく、その中でも「N-BOX」はよりリセールバリューがよいので、“賢い買い物”ともいえるのだ。

ヴェゼルとヤリスクロスのCM戦略の違い

 テレビCMでは、新型ヴェゼル、ヤリスクロスともに若者を意識したと思えるポップなものだが、複数の芸能人をキャラクター(若い世代が目立つ)として起用した新型ヴェゼルに対し、ヤリスクロスは若者に人気のある有名バンドの楽曲を採用しているものの、クルマのみで人物は登場しない。

 SUVには、セミリタイアやリタイア層のユーザーも多い。トヨタのように、若者が新車に乗りやすくなる「KINTO」(個人カーリース)のような仕組みが用意してあっても、300万円前後するSUVを若者がホイホイと購入できる社会状況にも思えない。どちらかといえば、日本の新車需要は年配層が支えているといっても過言ではない。どっちのCMがいいかは個人の好みもあるが、ジェンダーフリーも声高に叫ばれる今日この頃では、CMにクルマのみ登場するヤリスクロスの方が、妙な先入観を与えることなくアピールできているように思える。

 ヤリスクロスはすべてのバリエーションで、納期がすでに年末もしくは越年しようとしている。単に「あのクルマいいねえ」として売れまくっているわけではない。ヤリスクロス登場前には、ダイハツからのOEMとなるSUV「ライズ」が大ヒットしていた。しかし、ライズにはハイブリッドの設定がないので、購入を控えるお客が目立ったとのこと。そのようなお客に「今度登場するヤリスクロスにはハイブリッドがありますよ」とアプローチして、受注につなげることが多かったそうだ。

 また、前回の記事で述べたように「C-HR」はスタイルを優先したので、後席居住性や積載性に不満が出ていた。そこで、販売現場ではC-HRユーザーへもヤリスクロスへの乗り替えを積極的に勧めているようだ。さらに、3代目「プリウス」は空前の大ヒットとなり、かなりの台数が売れたのだが、今もなお乗り続ける人が多く、しかも現行4代目プリウスはアクが強すぎるとして、次に乗りたい新車がなく、乗り替えに躊躇している人も多いようで、トヨタでは新型車が発売になるたびに3代目プリウスユーザーにも積極的にアプローチしているようである。

 ヴェゼルは世界的にも人気の高いモデルであり(海外ではHR-Vとして販売している)、新型はかなりの意欲作にも見えるが、クルマの出来がいいからというだけで大ヒットするほど新車販売の世界は甘くない。自社で管理している既納客にどれだけ多くアプローチして乗り替えに結びつけるか、というのも大切なのである。

 幸いなことに、先代ヴェゼルユーザーによる新型への評価は高いようなので、先代からの乗り替えはある程度期待できるが、それ以外のホンダ車ユーザーは依然としてN-BOXへの乗り替えが目立つ。ホンダ全体では車種ラインナップ数は多いのだが、現実的に見れば、その中で売れ筋モデルはほんの数車種という状況だ。そのため、自銘柄(ホンダならホンダ車)ユーザーへの乗り替え促進だけでは、なかなかトヨタのように台数は積み上がらないのである。

 ホンダはキャンペーンとして、1.9%の低金利ローンを新型ヴェゼルに設定している。これは、トヨタのディーラーローン金利が4.5%などと高めになっているので、差をつけるためのものと考えられ、ヤリスクロスあたりを相当意識している様子もうかがえる。

トヨタは「カローラクロス」を国内販売か?

 一部情報では、トヨタは9月あたりに、すでに海外で販売している「カローラクロス」(カローラを名乗るクロスオーバーSUV)の国内発売を予定しているとのこと。ホンダ車でいえば、ヴェゼル以上、「CR-V」以下の車格といっていいだろう。カローラクロスが発売になればヤリスクロスすらのみこまれるともいわれており、新型ヴェゼルの販売についても何らかの影響が出るのは必至と考えていいだろう。

 この情報が正しければ、新型ヴェゼルはヤリスクロスという強敵だけでなく、カローラクロスも意識しなければならなくなる。また、ライバル車だけでなく、N-BOXへ流れがちなホンダ車からホンダ車へのダウンサイズ乗り替えが顕著なことも、販売の足を引っ張りかねない状況となっている。さらに、そのプロモーションから、ターゲットは若者もしくは若々しさの目立つミドルではないかとの先入観を年配ユーザーに持たれやすくなり、PLaYへのオーダーの集中も読み切れなかった様子に見える。

 新型コロナの感染拡大が収束しない中、“ニューノーマル”という言葉が頻繁に使われるが、ホンダはコロナ禍での販売現場のニューノーマルな購買行動を捉えきれていない様子が伝わってくる。それが新型ヴェゼルの売れ行きの勢いを弱めてしまうのではないかいう不安が、ぜひ“余計なお世話”であってほしい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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