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キリン、ミャンマー国軍企業と合弁、軍クーデター後も…国内で不買運動、問われる人権意識

文=編集部
キリン、ミャンマー国軍企業と合弁、軍クーデター後も…国内で不買運動、問われる人権意識の画像1
キリンホールディングス本社のある中野セントラルパークサウス(「Wikipedia」より)

 ミャンマー国軍がクーデターで権力を握ってから半年。8月1日、ミンアウンフライン最高司令官が首相に就任した。市民の抗議デモを弾圧し、人権団体によると、この半年間で940人の市民が殺害されたという。

 ノルウェーの通信大手テレノールグループは7月8日、ミャンマーで携帯事業を行っているテレノール・ミャンマーの全株式を売却すると発表した。レバノンの投資会社M1グループに1億500万ドル(約110億円)で売却すると一斉に報じられた。

 テレノールは民政移管後の経済開放を受け、14年に現地で携帯通信事業に参入した外資の一角。KDDIや住友商事が組む国営のミャンマー郵電公社(MPT)に次ぐ第2位の携帯事業者で人口の約3分の1にあたる約1800万人のユーザーを抱える。

 テレノールのシグベ・ブレッケ最高経営責任者(CEO)は「ここ数カ月、規制や人の安全などの面でミャンマーの状況は悪化している。あらゆる選択肢を考えた結果、会社の売却が最善であると判断した」とコメントした。

 2月の国軍によるクーデターの直後に、市民の抗議活動を抑え込むため、国軍はフェイスブックの遮断を通信各社に指示。テレノールは「国際人権法に照らして必要性があるとは思えない」と批判しながらも従った。その後も国軍はSNSやネット回線の遮断、制限を続けた。影響は通信各社の業績にも及び、テレノールはミャンマー事業の21年1~3月期決算で約810億円の減損損失を計上している。

 5月には仏エネルギー大手トタルと米の石油メジャーのシェブロンがミャンマーで運営する天然ガスのパイプライン事業会社の株式配当を停止すると発表した。株主にクーデターを起こした国軍が影響力を行使するミャンマー石油ガス公社(MOGE)が含まれ、国軍の収入を遮断する狙いがある。人権団体などはクーデターを起こした国軍が石油ガス公社を通じて収益を得ていると問題視していた。トタルは「ミャンマーとタイの地元住民に不可欠な電力供給を中断させないため、ガス田の生産は維持する」としている。

 欧米企業でミャンマーからの撤退を表明したのはテレノールが初めて。「テレノールはミャンマーに投資する欧州企業の象徴的な存在。各社はクーデター後、事業を継続すべきかどうかの見極めを急いでいる」(ミャンマー情勢に詳しい大手商社)。

キリンと国軍系企業の合弁企業が不買運動の標的になる

 米国や欧州連合(EU)は国軍に厳しい態度で臨んでおり、すでに国軍関係者や企業に制裁を科した。一方、日本企業の大半は身動きが取れずにおり、日本政府も軍政に厳しい姿勢を取ることを避けてきた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によるとミャンマー日本商工会議所に加入している日系企業の数は20年12月末時点で433社に上る。ヤンゴン近郊のティラワ地区には三菱商事、住友商事、丸紅などが工業団地を造営。スズキが工場をもち、トヨタは新工場を予定していた。KDDIと住友商事は国営企業と合弁で通信事業を展開している。

 キリンホールディングス(HD)は国軍系企業とビールを生産。イオンも現地企業とスーパー「イオンオレンジ」を運営している。大和証券と日本取引所グループはヤンゴン証券取引所に出資している。

 クーデター後、国軍系企業の関連商品は激しい不買運動にさらされた。真っ先に批判されたのは国軍系企業と合弁でビール事業を展開しているキリンHDだった。キリンHDは合弁形式で、同国ビール最大手ミャンマー・ブルワリー(MBL)を運営している。MBLは国軍系複合企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)との合弁会社。クーデター後、不買運動の標的になった。

 キリンHDが5月12日に発表した決算説明資料によると、MBLの第1四半期(1~3月)決算は、売上高にあたる売上収益は前期比47%減の57億円、原価と販売管理費を差し引いた事業利益は50%減の25億円だった。販売数量は46%減少した。

 年初時点では、通年目標の売上収益は前年比21%増の386億円、事業利益が16%増の160億円を見込んでいた。しかし、不買運動が広がり、大幅な下方修正は避けられないだろう。キリンHDとMEHLはMBLのほか、第2の都市マンダレーでマンダレー・ブルワリー(MDL)を経営している。

 クーデター後、キリンHDはMEHLとの提携を解消する方針を明らかにしたが、「現時点では(ミャンマーから)撤退することを考えていない」という。事業を継続するには国軍系企業から株式を買い取る必要がある。結果的に国軍に資金が流れるため、「国軍を助ける」との批判が浴びる恐れがある。難しい問題にどう対処するかについてや、現時点でMEHLとの交渉が進展しているのかなど、詳細を明らかにしていない。

株価にも影響

 ミャンマー事業はキリンHDの株価を直撃した。発行済み株式の53%を握る、医薬品・バイオの協和キリンに今年5月6日、株式の時価総額で初めて親子逆転を許した。足元では時価総額1.8兆円で、キリンHDと協和キリンは肩を並べている。

 アトピー薬など新薬開発の期待から、協和キリンの株価は7月13日に年初来高値の4080円へと、1月の安値から51.8%上昇した。キリンHDの株価は、1月4日の年初来高値2430円から8月4日の年初来安値1984円へと18.4%下落した。「キリンHD株はミャンマー事業の業績悪化や健康事業の収益性の低さから投資家に敬遠されている」(外資系証券会社のアナリスト)。

 キリンHDは8月10日、21年12月期中間決算(1~6月)を発表する。2月のクーデターによるミャンマーの経営環境の急変について、どう説明するか。MEHLとの提携解消の交渉は進んでいるのか、ミャンマーからの撤退はありうるのか。

 中国・新彊ウイグル自治区の問題もあり、企業がグローバルに関係する人権問題への視線は厳しくなっている。軍政に協力的だと見られれば、ミャンマー国内だけではなく欧米から強く批判されるリスクがある。国軍協力企業と見なされ不買運動にさらされたキリンHDの人権尊重の本気度が問われている。

(文=編集部)

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