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小林敦志「自動車大激変!」

米国の年間販売台数で「現代自動車がホンダを抜いた」新車販売の裏側

文=小林敦志/フリー編集記者
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現代自動車の「ジェネシスG70」(「Wikipedia」より)
現代自動車の「ジェネシスG70」(「Wikipedia」より)

 アメリカの2021暦年締めでの年間新車販売台数を調べていると、「現代自動車(以下、ヒョンデ)がホンダを抜いた」というニュースがあった。しかし、統計を調べると、ホンダが130万9222台に対し、ヒョンデが73万8081台となり、大差でヒョンデの方が少なくなっている。おかしいなあと思っていたら、ブランドではなくグループ単位での話であることがわかった。

 韓国ブランドとしては、ヒョンデの他に起亜(キア)が有名だが、起亜はヒョンデの子会社となる。さらに、アメリカではヒョンデにおけるレクサスのような存在となる“ジェネシス”ブランドがあり、ヒョンデ、起亜、ジェネシスを合算したヒョンデグループが、ホンダだけでなく“アキュラ(ホンダの上級ブランド)”を合算したホンダトータルでの販売台数に勝った、ということなのである。

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 1975年に韓国初のオリジナル国産車となるコンパクトハッチバック車「ポニー」を発売したヒョンデ。そのヒョンデが世界的に注目を浴びるようになったのは、1986年からの北米市場への本格進出開始だろう。正式には、ポニーの後継車となる「エクセル」(ポニー エクセルから改名)がアメリカ市場でデビューし、進出直後から大ヒットしている。

 アメリカでブランド別に新車アルバムを作る際にはアルファベット順で掲載されるため、ヒョンデはホンダの次に紹介されることが多い。それもあったのか、北米進出当初は限りなく“HONDA”に近いアクセントの発音で“HYUNDAI”と発音したテレビCMが使われており、一部のアメリカ消費者からは“ホンダの新型車”と間違われることもあったようだ。

 ちなみに、このエクセルは日本にも「ヒュンダイXL」として少量輸入販売されている。

日本車が苦手な欧州でも存在感を見せるヒョンデ

 2019暦年における世界の自動車メーカー販売台数ランキングにおいて、ヒョンデグループは世界5位(日系で最高はトヨタの2位)となり、8位のホンダより上位に入っている。

 日系と同じく北米市場が得意なだけではなく、日系ブランドが苦手とする欧州市場でも存在感を見せているのが大きな特徴。ただ、中国市場では、2017年に韓国にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)が配備されると、韓国製品の不買運動が起こった。今もその余波が残っているとされ、中国市場はここ数年、販売苦戦傾向が目立っている。

 また、新興国市場では“どぶ板営業”ともいわれるタフな売り込みが得意技となっている。日系メーカーが二の足を踏むような政情不安定地域でも、ニュース映像を見ると、ヒョンデや起亜のモデルが多数、街なかを走っている。

 また、まずはタクシーなどへのフリート販売を進めて、販売シェアを増やして知名度を上げようとの動きも目立っている。中国でも、まずはタクシー車両販売を積極化させたのだが、これが少々行き過ぎたのか、「タクシーでよく走っているので嫌だ」という反応を示す消費者も目立ってしまったという話もある。

 アメリカにおいては、進出後しばらくした頃からレンタカー会社へのフリート販売を熱心に行っていたのだが、筆者の体験からいくと、レンタカー会社のカウンターで「韓国車でいい?」と聞かれるような扱いが続いていた。アメリカの景気が良いときには日本車がよく売れているのだが、景気が悪くなると、日本車を選んでいた消費者が日本車より割安な韓国車を選んでいるような様子を、筆者は現地で感じ取ったこともある。つまり、“日本車の格下”イメージが、アメリカでは長い間目立っていたのである。

 しかし、2009年にミドルセダンの「ソナタ」の6代目(YF型)がデビューすると、様相が一変する。日本車ではそこまで踏み込まないような、コストのかかるプレスラインを多用したエッジの効いたエクステリアデザインがウケ、アメリカでもバカ売れとなったのである。その後、カローラクラスのセダン「エラントラ」もYFソナタの流れをくむデザインを採用し、ヒョンデ車が注目されるようになった。

 その頃には供給体制の問題もあったようだが、店頭では常に在庫が不足するほどの売れ行きとなり、レンタカーに回す余裕もなくなり、レンタカーは日本車ばかりが目立つようになった。大手レンタカー会社には“買い戻し特約”というものがある。これは、比較的短期間となるが、レンタカーとして販売した車両がその役目を終了した際に、メーカーなどが買い戻しをするというもの。これもあり、GM(ゼネラルモーターズ)やフォードは財務的余裕がないとしてフリート販売を手控えるようになり、結果的に日本車が多くなった。

 アメリカなどで好評となったYF型ソナタだが、本国韓国では「欧米に媚びすぎている」とか「エッジがききすぎている」との不満の声も多く、マイナーチェンジではずいぶんおとなしい印象のエクステリアとなってしまった。そして、ちょうどその頃、ヒョンデと起亜はアメリカでの燃費偽装問題が発覚し、約400億円ともされる巨額の制裁金を払う事態となった。当然、新車販売への悪影響も避けられず、その後しばらく、アメリカ市場では販売不振に苦しんでいた。

日本車人気が米国市場で高い理由

 多少の浮き沈みはあるものの、アメリカ市場でもジワジワと存在感を高めてきたヒョンデおよび起亜。その昔、起亜のクルマは“安物ブランド”のような存在であったが、最近では個性的で上質なモデルラインナップとなり、またFR(後輪駆動車)のフラッグシップモデル(スティンガー)もラインナップし、起亜に比べトラディショナルさが目立つヒョンデ車に対し、起亜ブランド車ではカジュアルなイメージが目立ってきて、差別化も行われるようになった。

 さらに、2008年にはアメリカで上級ブランドとなる“ジェネシス”の展開もスタート。2019年には、「ジェネシスG70」が韓国系自動車メーカーでは初めて北米カーオブザイヤーを受賞している。

 日本車が北米市場で人気が高い背景には、そのリセールバリューの高さがある。リースで乗る際には残価が高いので、その分月々のリース料金が安くなる。ローンで購入した際には、アメリカでは完済せずに、乗っていたクルマの残債を新たに購入する新車のローン元金に合算して返済を続ける、いわゆる“借り換え”をして乗り替える人が多いと聞く。そのときには、当然ながらリセールバリューがよければ残債も少なく済む。

 ところが、韓国車は長いことリセールバリューが伸び悩んでいたので、魅力的なリース料金などを宣伝することができない代わりに、手厚い保証をアピールしていたが、ここ最近はテレビCMなどでも魅力的なリースプランなどをアピールするようになってきた。つまり、それだけ北米市場における韓国車のステイタスが上がってきているのは間違いないのである。

 そして、ヒョンデは2022年2月8日に日本市場での乗用車販売の再参入を発表したのだが、それについては次回に詳述したい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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