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小林敦志「自動車大激変!」

現代自動車、なぜ今12年ぶりに日本市場に参入?感じた本気度&狙っている商機とは

文=小林敦志/フリー編集記者
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現代自動車の「NEXO」
現代自動車の「NEXO」

 前回韓国ブランドである現代自動車(以下、ヒョンデ)および起亜(キア)が北米市場で存在感を高めていることについて述べた。

 2020年10月14日、ヒョンデグループの会長はチョン・モング氏から創業家3代目となるチョン・ウィソン氏に代わった。そして、2021年になると、ヒョンデから、まるでコンセプトカーがそのまま市販モデルになったようなミニバン「スターリア」がデビューする。「このモデルは、新会長肝いりのニューモデルともされています。世代交代したことで、今後ヒョンデはスピーディに進化し、そして新しい動きを見せていきそうです」とは事情通。

現代自動車の「スターリア」
現代自動車の「スターリア」

 ウィソン氏は会長に就任する数年前より、事実上実権を握っていたとされており、ここ数年のヒョンデや起亜車は「YFソナタ」の再来のような、アグレッシブであったりファッショナブルなモデルラインナップとなっているが、これも新会長となったことが影響しているともされている。

 人口などから、自動車に限らず、韓国の市場規模はざっくりいって日本の半分とされている。日本の自動車市場は2位のアメリカとは大差があるものの、世界第3位となり、なまじ一定の規模があるので、国内市場だけを見た“ぬるま湯的”ともいえるモデルも散見されるが、韓国では自国市場の規模が小さいので、海外市場での失敗は許されない。

 その点では、海外のトレンドを貪欲に取り入れるだけではなく、“できないものはできない”として、メカニズムなら欧州サプライヤーから積極的な供給を受け、デザインについては欧州ブランドなどで腕をふるっていた外国人デザイナーを招聘するなどしている(この動きは中国メーカーも同じ)。日本メーカーのように“純日の丸ニッポンだけで”などと、悠長なことはいっていられないのである(最近はそういっていられない状況も見られる)。

 エクステリアでは、存在感のあるデザインを演出する、日本車ではなかなかお目にかかれない複雑なプレス加工(コストがかかる)などが施してある。インテリアでは電子制御シフトレバーや、計器盤などに大画面ディスプレイをあますことなく多用するのが当たり前のようになっている。世界の最新トレンドの取り込みについては、そのスピード感も含め、日本メーカーを超えているのは間違いないだろう。

 かつては日本市場でもヒョンデブランドの乗用車が販売されていたが、2009年に撤退していることもあり、日本人の多くは最新の韓国車がどのような存在なのか想像もつかない状況となっているのだが(韓国車自体よくわからない人が多い)、販売規模こそトヨタには及ばないものの、世界を代表する自動車メーカーのひとつとなっているのである。

日本市場再参入で感じたヒョンデの本気度

 そのヒョンデが、2022年2月8日に日本市場での乗用車販売の再参入を発表した。前会長時代には日本市場への乗用車販売の再参入は行わない姿勢だったともいわれており、新会長の肝いりで実現したのではないかとささやかれている。

 ちなみに、ヒョンデの日本現地法人が“ヒュンダイ モーター ジャパン”から“ヒョンデ モビリティ ジャパン”となったことも、新会長下での新しい動きとされている。

 日系メーカーとガチでぶつかる内燃機関車ではなく、FCEV(燃料電池車)の「NEXO(ネッソ)」とBEV(バッテリー電気自動車)の「IONIQ 5(アイオニック5)」の2車をオンライン販売で5月からオーダーを開始するとのことだが、日本車が苦手とするBEVやFCEVといった新エネルギー車でオンライン販売に特化するという、いわゆる“韓国アレルギー”が皆無ともいっていい日本の若い世代へのアピールを強めているように見えるあたりは、ヒョンデの本気度を感じずにはいられない。

 ヒョンデは、日本市場での乗用車販売の再参入を前にして、クロスオーバーSUVスタイルのFCEVネッソを日本の一部モータージャーナリストや専門媒体に試乗してもらったり、カーシェアリング車両として一足早く日本に導入して一般ドライバーも試乗できる環境を整備するなどしていた。再参入前に入念なマーケットリサーチを行ったようにも見える。

 また、前述したコンセプトカーのようなミニバン・スターリアも、サンプルというか試乗車をすでに日本に持ち込み、さまざまな業界関係者などに密かに試乗してもらっているとの情報もある。

 ミニバンこそ日本メーカーのお家芸ともされていたが、最近ではいわゆる“オラオラ系”ともいわれる、押しの強い顔つきのモデルばかりが売れている。しかし、ミニバンに乗りたいと思っている消費者すべてがオラオラ顔を気に入っているわけではない。そのいい例として、過去には「エスティマ」が根強い人気を保っていた。ヒョンデは、日本で人気の高いミニバンクラスにあえて“隙間商品”的モデルを投入することに商機があるのではないか、と考えているのかもしれない。

 日本と韓国というと、政治的対立が続いており、両国とも年齢が高い層ほど“反日”もしくは“嫌韓”という人が多いとされている。逆に、若い世代ほど両国のサブカルチャーに高い興味を持っており、日本の若者はK-POPや韓流スター、韓国の食品や雑貨に親しんでおり、前述したネッソのカーシェアリングでも、若い世代はまったく抵抗なく利用しているとのことである。まだ若い世代が消費の中心となっていないので、時期尚早ともいわれているが、日本における韓国車販売のハードルは、以前より低くなっているように見える。

中国車の高級ブランド旗艦店がオープン

 先日、大阪で中国のFAW(中国一汽)の高級ブランド“紅旗(ホンチ)”の旗艦店がオープンした。すでに購入している人もいるようだが、オーナーは日本でビジネスを行っている華僑の人ばかりとのこと(計器盤などが日本語対応していないこともあるようだ)。

 中国車のディーラーがオープンし、ヒョンデが日本での乗用車販売再参入が話題となっている。まずは、日本車では手薄なカテゴリーや隙間商品的モデルからというのは、新たな市場参入(再参入でも)を図る際の常套手段。

 日本車は世界的にはまだまだ優秀とはされているが、かつての隆盛を極めた頃に比べると劣化も激しいといわれている。日系ブランドで国内において満足に売れるのは軽自動車やミニバン、コンパクトカーなど極めて限定的とされるが、それは魅力的でワイドなバリエーション設定が確立できていないからともされている。日本はいまだに輸入車販売台数が少ない市場ではあるが、最近の日本車はBEVに代表されるように手薄なカテゴリーや分野、ボディタイプが目立つ。つまり、海外ブランドから見れば“つけ入る隙”が拡大している。

 格差社会も拡大しているので、薄利多売する必要はなく、日本車に幻滅気味で何か“新しいもの”を求めている、所得に余裕のあるクルマ好きを引き込むことができれば、台当たり利益は十分期待することができるからである。その意味では、日系以外の外資ブランドから見れば、日本市場はその市場規模は縮小の一途をたどっているように見えるが、数少ない“残された有望市場”と見られているのは間違いないようである。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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