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世界初、レッカー車のDXを実現…進化するレッカー車と意外なレッカー業界の現状

文=二階堂運人/物流ライター
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世界初、レッカー車のDXを実現
変化するレッカー車(「Getty Images」より)

 レッカー業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)によって、安全革命が始まろうとしている。このDXの肝となる世界初・業界初の新システムが、5月12日からパシフィコ横浜で開催される『ジャパントラックショー2022』で発表される。その画期的なシステムとは、どのようなものか。また、それによってレッカー業界にどのような革命を起こし、何を導くのか。

業界初・世界初のデジタルトランスフォーメーション

 レッカー業界初、世界初のDXとなる「PTOモニタリングシステム」を開発したのは、神奈川県横浜市に本社を構える、株式会社ヤマグチレッカーだ。

 ヤマグチレッカーは1984年の創業以来、レッカー車販売及びロードサービスを主な事業としており、主要納品先には首都高速道路株式会社、首都高パトロール株式会社、阪神高速パトロール株式会社首都高など数多くの顧客を持つ、レッカー納入実績日本一の、いわば“レッカー業界の雄”である。

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株式会社ヤマグチレッカー代表取締役山口喜久雄氏

 世界初のレッカー車DXの肝となる「PTOのIoT化」とは、どういったものなのか。PTOとは「パワーテイクオフ」の略であり、トラックに搭載されるレッカーなどの作業用装置をエンジン動力で動かすためのシステムのことをいう。PTOにより、レッカー車はクルマをレッカーすることができるのだ。

 今回開発された新システムは、PTOをIoT(モノのインターネット)化し、常にPTOを遠隔管理(モニタリング)できるようにした。レッカー業界にとって初のDXの実現である。

PTOのIoT化で何がどう変わるのか?

 ヤマグチレッカー代表取締役山口喜久雄氏は顧客視点、そして社会課題の解決の思いからPTOのIoT化に着目した。

 PTOの仕組みは、エンジン動力を「油圧」という油の力へ変換するものだ。変換されたエネルギーは、「PTOシャフト」と呼ばれる装置によってレッカーなどの作業装置を動かす。油圧の原動力である油に、異常をきたしたり摩耗したPTOシャフトを放置しておくと、思わぬ故障につながることもある。

 レッカーなどの作業装置には、車検のような定期的に点検をする義務はない。だが、しばらくメンテナンスをせず、PTOに異変を感じた時には手遅れになることもある。レッカー車が故障で修理となれば、当該車両のレッカー活動を中止せざるを得なくなる。場合によっては、修理に半年かかることさえあるという。 

 また、レッカー車に想定外の故障が起これば、レッカー車を使う顧客に、大きな時間や費用の損失が発生するだけでなく、事故にも即応することができなくなり、社会的な損失ともなる。

 だが、PTOの稼働状況をモニターし、メンテナンス時期を事前に予測できるようになれば、リスクを回避することができるようになる。それを実現するのが、PTOのIoT化だ。山口氏は、誰も思いつかなかったDXへの糸口を見つけたのだ。

 PTOのIoT化は、山口氏の発案から開発に至るまでのスピードが早かった。IoTデバイスの製作を請け負ったITベンチャー、株式会社ハイパータッチの開発部長鈴木慶一朗氏は山口氏の提案を受け、小型デバイスによる機能実証機(プロトタイプ)を開発製作した。

 そしてヤマグチレッカーは2022年の4月に世界初のPTOのIoT実証テストを行い、PTOの稼働状況をリアルタイムで取得することに成功した。

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PTOモニタリングIoTの機能実証機(プロトタイプデバイス)

 ヤマグチレッカーの、大手企業にはない軽快さと独創性が、スピーディーな開発を可能にしたのだ。現在、IoTはまだ開発途上ではあるが、多様なセンサーを取り付ければ可能性は無限大だ。

 IoTで得られたデータがビッグデータとして蓄積されていけば、レッカー車の稼働頻度から、どのような場所や時間帯、気候変化などで事故が発生しやすくなるかをAIによって分析し、レッカー車の配置を予測できるようになるかもしれない。また、一般ドライバーに対して事故の多発予測データを提供することで、事故抑止にもつながることも期待できるだろう。

 レッカー車のDX化が加速すれば、我が国の交通事故抑止に多大な貢献をする可能性がある。そういう意味でもヤマグチレッカーのDXへの挑戦は、極めて大きな意義があるといえるだろう。

レッカー・ロードサービス業界の現状

 ヤマグチレッカーが製作するレッカー車の性能進化も加速している。

 コロナ禍により発表が遅れたが、『ジャパントラックショー2022』では、ヤマグチレッカーが製作し世界に先駆けて開発された、日本最大の75t大型レッカー車の発表もある。

 この車両によって、これまで牽引困難だった超大型クレーンのレッカーや、トンネル内で発生する横転事故等への対応も可能となるのだ。近年大型化するトレーラーの事故対応や、災害時に求められる大規模な緊急対応など、広範囲な活躍が大いに期待される。

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ヤマグチレッカーが製作した、日本最大の75t大型レッカー車

 ところで、現在のレッカー業界を取り巻く環境は、どのような状況だろうか。

 一般的な認識では、若い世代をはじめとする“クルマ離れ”で交通量が減り、車両の性能も向上しているので、車両トラブルは少なくなっているのではないか、と思われがちだ。しかし、「レッカー出動回数は、以前よりもむしろ増えています」と山口氏は言う。

 現在の車両は、昔の車両に比べ壊れやすい。いや、壊れやすいというより止まりやすくなっているという。意外な事実だ。

 現在の自動車は、複数のマイコン(超小型コンピューター)で制御されている。最大で100個以上のマイコンを搭載する自動車もある。そのうち一つでも異常が出れば、クルマは止まってしまう。一旦、車両に故障が発生すると、原因特定に時間がかかるため、その場での修理が難しく、修理工場などにレッカー車で運ばざるを得ない。

 また、損害保険の付帯サービスとしてロードサービスが一般的なものとなり、レッカー車を気軽に手配できようになったことで、レッカー車の出動依頼が増加するようになった。

 このような理由から、レッカー車はまだまだ不足しているのが現状だ。

未来の笑顔のためには、国の整備が急務

 次に、レッカー・ロードサービス業は、国としてどのような位置づけにあるのか。

 実は、レッカー・ロードサービス業は、業種として確立されておらず、『その他のサービス業』として分類されているのだ。これは一体どういうことなのか。

 昨今、地震や台風、異常気象による大雨や大雪などの災害により、交通麻痺が起こることがしばしばある。大雪の中で車両が身動きを取れず、ドライバーが長い間車内に取り残された事案など記憶に新しいだろう。

 これは当時の法律の縛りで、公道上の放置車両をすぐに移動させることができなかったため、救急車や消防車、自衛隊などの救護車両が通行できずに招いた事案であった。 

 なぜ、スムーズなレッカー作業がされなかったのか。それは、レッカー・ロードサービス全体を管轄する省庁がないことが最大の要因だ。管轄省庁がなければ、自治体の災害復旧体制との連携もうまくいかず、必要な法整備も進まない。

 このような状況で、レッカー・ロードサービス業が、いまだに「その他のサービス業」に分類されている現状を憂慮して山口氏は、レッカー業界黎明期から関係者と共に国へ法整備等を訴えてきた。

「災害時の救護体制など、業界がスムーズに連携するためにも、国の統制が必要です。レッカー作業をスムーズに行うことができれば、救急車やレスキュー車が、現場まで早く行くことができ、今まで助からなかった命が助かるかもしれません。日本は今、大規模な災害が増えています。一人でも多く、尊い命を救うためにも、国にはまず法整備を進めていただきたいです」(山口氏)

「災害対策基本法」は改正されてきたが、レッカー・ロードサービス業界にとっては、まだ課題が残る。何よりも急務なのが、管轄省庁がつくことだ。国による認定登録業者化、教育・資格制度など、法を整備することにより、より迅速で安心なサービスが提供できるようになる。

 社会活動を円滑にし、かけがえのない命を守るために、レッカー・ロードサービス業は、「道路啓開(けいかい)業」を担う大きな存在であることを、我々も認識すべきだ。
※啓開(けいかい)…障害物、危険物などを取り除いて進行を可能にすること。

 山口氏率いるヤマグチレッカーをはじめ、レッカー業界の絶え間ない努力により、迅速で安心・安全なレッカー活動の土台は揃っている。あとは法整備のみである。

 また、山口氏は近年、インフラ整備で交通量が増大している東南アジアにも注目している。特にインドネシアからレッカー車の受注が拡大しているという。ヤマグチレッカーは日本で培った「安心・安全」を、東南アジアにも広げていく。

 ヤマグチレッカーの経営理念の一節にある「社会活動の永続的円滑化」の実現のため、そしてレッカー・ロードサービス業界全体の改善に取り組むために、山口氏はこれからも奔走し続ける。

(文=二階堂運人/物流ライター)

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『ジャパントラックショー2022』
「ジャパントラックショー」は、物流・輸送企業150社、5万人を超える来場者が集まる、日本最大のトラック関連総合展示会。2016年からスタートし、3回目の2020年がコロナ禍により中止を余儀なくされたため、今年が4年ぶりの開催となる。今回のテーマは「物流、新時代へ」。最先端技術を搭載した新型トラックや、高い技術力を誇るトレーラー、迫力のある特装車や作業車など、“働くクルマ”が集結する。

二階堂運人/物流ライター

二階堂運人/物流ライター

建設業・広告業・不動産業を経た後、最大手宅配便会社に勤務。宅配ドライバーとして集配に携わる。宅配業界で得たネットワークをもとに宅配業界の現状、未来を現場の視点から発信し続ける。現在、モノから人に運ぶものを変え、タクシードライバーとしても世間のつぶやきを収集中。運輸、物流の底からの視点で世の中の動向などを伝えている。

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