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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第17回 下義生氏(日野自動車社長)

日野自動車、トラックへのAI活用で「日本の物流」に革命…ドライバー不足解消へ

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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下義生(しも・よしお):日野自動車代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)。1959年生まれ。81年に早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、日野自動車入社。04年米国日野販売副社長、北米事業部長などを経て11年に執行役員。その後、常務役員、専務役員を経て16年にトヨタ自動車常務役員。17年6月から現職。

 

 自動車産業は100年に一度の大変革期にある。影響を受けるのは、商用車も同じである。激しい変化の時代に、トラック、バスメーカーの日野はどこに軸足を置き、何を目指すのか。17年6月に日野自動車社長に就任した下義生氏に聞いた。

ソリューションビジネスの強化

片山修(以下、片山) 昨年打ち出した「Challenge2025(以下、2025)」では、新車ビジネス、保有ビジネスと並び、新たな領域へのチャレンジである「ソリューションビジネス」を掲げています。

下義生氏(以下、下) 現状、売上・利益率は、新車ビジネスと保有ビジネスで、ほぼ半々です。これに、ソリューションビジネスが乗るイメージです。

片山 新車と保有のビジネスだけでは、伸びしろに限界があります。その意味で、ソリューションビジネスへの取り組みは欠かせませんね。

下 お客様や、社会の困りごとの解決に取り組みます。18年6月に「ネクストロジスティクスジャパン」を立ち上げ、物流業界が抱える問題解決の方策を検討しています。

 例えば、積載効率の向上です。トラックの積載率は平均約4割です。行きは満載でも、帰りは荷物が少しだけというケースが少なからずあります。そこで、荷物と空いたトラックのマッチングを試みています。積載量には、容積と重量の規制があります。例えば、飲料を運ぶ荷主さんは、容積は空いていても、重量で規制がかかります。一方、お菓子を運ぶ荷主さんは、重量は軽くても容積がいっぱいになります。混載すれば、トラック3台必要だったところが、2台で済むケースも考えられるんですね。荷主さんは、自社内の効率化は進めていらっしゃいますが、もっと広く全体を俯瞰すれば、より効率化を進められます。

 まず、効率向上については、拠点間輸送で実現しようと考えています。イメージ的には、荷主さん、運送事業者さん、メーカーが一緒になった「協同組合」で、いちばん最適な物流を行う計画です。荷物の組み合わせの最適化や、ルートが成立するかどうかといった机上の検討はほぼ終了し、実証実験を行っているところです。

片山 社会的ニーズが高まっている、安全技術に関してはどうですか。

下 商用車の場合、トラックのドライバーが犠牲になる事故は少なくなっていますが、高速道路の渋滞に突っ込んでしまったり、関係のない方を巻き込んでしまうなど、加害者になる可能性がある。安全装備を充実させ、ぶつからないトラックをつくることは、われわれメーカーの責任だと思っています。私どもは、2020年代に高速道路、30年代に一般道で、それぞれ交通死亡事故ゼロを掲げています。

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片山 それは、画期的な目標ですね。高齢ドライバーのペダルの踏み間違いなど、操作ミスによる事故は、乗用車で問題になっていますよね。

下 安全に関する技術開発は、とにかく先頭を切って取り組んでいきます。プリクラッシュセーフティ(追突被害軽減ブレーキ)で歩行者などを検知して、警報ブザーを鳴らす、ディスプレイで危険を知らせる、自動でブレーキをかける、あるいは車線逸脱警報など、これらはすでに全車両で標準搭載しています。大型、中型トラック、大型観光バスでは、車両ふらつき警報やドライバーモニターなども標準搭載です。ドライバーの安全運転の支援と同時に、いざというときは、クルマそのものが止まる技術も開発しています。

 それから、観光バスに「EDSS」をつけて、ドライバーの体調に異常があった場合に乗客が非常ボタンを押せば安全に停車できる仕組みも、世界で初めて商用化しました。

片山 その分、クルマの値段は高くなりますが、その点はいかがですか。

下 高くなりますが、逆にいうと、思い切って標準装備化して台数を出さないと、サプライヤーさんも価格を下げられないので、方針として決めて取り組んでいます。トヨタグループから、乗用車で開発したものを横展開で提供してもらうものもありますが、ただ、トラックは大きく重いですから、止まるにも乗用車より時間がかかるんですね。センシングは乗用車より先を見ていないといけません。したがって、サプライヤーさんにも、商用車としての要求を申し上げています。

 日野だけでは数が限られますから、トレイトンさんとの提携、あるいは隊列走行ではいすず(「ず」の正式表記は踊り字)さんなどと一緒に、開発を行っています。

片山 トヨタグループでありながら、VWグループの企業と提携したときには、正直、驚きましたが、そのような背景があるんですね。

下 商用車が直面している課題は、トヨタグループのなかにいるだけでは解決が難しい部分があります。

 私は、安全技術は商品差別化の要素にしてはいけないと思っています。いい技術であれば他のメーカーさんにも使ってほしいし、他のメーカーのものでも使わせていただきたい。同じ技術を使った同じ製品をたくさん出して、廉価にして普及させ、より安全な物流や人の移動を実現することは、絶対に取り組まなければならない問題です。

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片山 量を増やして価格を下げるという戦略は、EVについても同じことがいえますね。

下 そうですね。日野は低燃費のディーゼルはもちろん、電動車も全方位でやっていきます。現在、欧州などのディーゼル規制には、大型トラックはほとんど入っていません。が、随時、環境対応への要求は出てきますから、欧州メーカーはEVに積極的なんですよね。バッテリーの技術のブレイクスルーがあれば、大型トラックのEVもあり得ます。備えはしておかないといけません。

「2025」では、50年にディーゼルエンジンのみの車両は廃止し、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)、燃料電池車など電動車をフルラインナップに拡大するとしました。この6月、世界初の大型トラックのハイブリッドも出しました。

片山 「日野プロフィアハイブリッド」ですね。なぜ、大型トラックにハイブリッドを採用することになったんですか。

下 やはり、CO2削減効果が大きいからです。国内自動車の燃料消費の6割は、走行距離の長い大型トラックです。従来、高速道路を走行する大型トラックは、発進停止が少ないため、ブレーキを踏む回数が少ないですから、ハイブリッドは効果が低いのではないかといわれてきました。

 しかし、日本の高速道路は坂道が多いので、高速道路を走っていても、下りで減速すれば充電できるんですね。そこで、100キロ先までの地図データを読み込み、10キロ先のデータを常時更新しながら、その時、いちばん最適な状態で走行するシステムをつくりました。

 例えば、現在の上り坂を上り切ったら、下り坂があることがわかっている場合、可能な限り電池でアシストして上り切る。すると、下り始めると同時に、充電を開始できます。これを、AI(人工知能)でコントロールする。

 実証実験では、15%ほど燃費がよくなりました。全体の6割の15%ですから、大型トラックがすべて置き換われば、約10%のCO2削減が見込めます。

CASEを推進

片山 「CASE」の実用化は、商用車のほうが早いといわれますが、どうでしょうか。

下 そうだと思います。「商業CASE推進部」というチームをつくって、トヨタグループからも人を出してもらい、対策を進めています。

片山 そのなかで、改めて日野の強みを教えてください。

下 トヨタグループに属していることもあり、改善や、社員の真面目さ、チームでモノを考えるなど、トヨタ本体と同じようにそれらが強みだと思っています。他の企業とアライアンスを進めるほど、それは感じますね。

片山 原価低減に力を入れているそうですね。具体的にはどんな取り組みをしていらっしゃいますか。

下 われわれの最終商品は、ホイールベースが何種類もあるなど、すごく派生種が多いんです。かつて上司に、「100通りの荷物があったら100通りの運び方があるのが物流だ」といわれたことがありますが、トラックにはさまざまなニーズがあります。

 ですから、ユニットの種類を削減しながらも、組み合わせによってさまざまなトラックをつくれるようにしていきます。例えば、1モジュールあたりの数をまとめて、原価を下げる。また、アッセンブリラインについては、大型トラックと中型トラックについて1ラインで混流生産を実現しています。部品を仕入れるところから、最終商品がお客様に届くところまでを俯瞰すると、クルマの滞留をはじめ、まだまだムダが多いんですよ。効率化を進めることで、原価低減につなげます。

片山 台当たり原価の低減はいかがですか。

下 茨城・古河工場では、架装(トラックの用途に合った装備)を担当する100%子会社のトランテックスの工場を同じ敷地内に置くことにしました。従来、古河でつくったシャシを、わざわざ石川県・金沢市の架装工場まで運んでいたんです。シャシ生産から架装までを一貫して行うことができれば、運ぶムダを省けます。なるべく広く、ビジネス全体を俯瞰して、無駄をなくしていきたいと思っています。

片山 では、逆に日野の弱みはなんですか。

下 一つは、社員が内向きになりがちなことです。社内では学ぶ相手が限られる。社外から刺激を受け、発想を変える機会があまりないので、最近、あえて外の人たちと仕事をする機会を増やしているんです。

 外を見ていないと、グローバル市場における自分たちの技術レベルや、立ち位置もわからない。欧州勢とのアライアンスや、中国でのビジネスの機会などを通して話を聞き勉強を重ねる。それによって、担当者レベルまで危機感を共有、理解し、会社全体が変わっていけると思います。

「社会やお客様に貢献し続ける」

片山 下さんは16年に1年間、トヨタに出向されていましたね。いかがでしたか。

下 日野を外から見て感じたのは、何を考えているのかわかりにくいということです。理念や方向性はハッキリしているんですが、今何をしているのか、1年前から何がどう変わったのか、よくわからない。

片山 確かにそうです。乗用車メーカーに比べるとニュースが少ないから、よけいにそう感じますよね。

下 例えば、商用車のモデルチェンジは約15年サイクルです。新しい商品が出るまで何も発信しなければ、当然、周囲からは「日野、大丈夫?」と思われてしまう。その意味で、取り組みをしっかりと発信していきたいですね。

 トヨタのトップの発信力を見習って、私も株主総会で社長就任が決まった翌朝に幹部職に集まってもらって、「HINO:Road to 100」という冊子を配りました。日野は一昨年、創立75周年を迎えました。2042年の創立100年に向けて、日野が目指すべき方向性を示したものです。「Challenge2025」は、これに沿った展開です。

片山 まだまだ、やることはたくさんありますね。

下 ええ。日野の規模感だからこそ、考えなければならないことは多い。日野は、トラック・バスの専業メーカーとして、「社会やお客様に貢献し続ける」という軸がないと、会社の存在意義はありません。お客様の求めるものに対して感度を上げる。同業他社を気にする前に、お客さんたちが何で困られているのかにフォーカスすることです。

 それから、われわれの商品は所有していただく時間が長いので、今日買っていただいた1台は、15年後まで使われます。その頃には、当然、僕は社長ではありません。だからこそ、次の時代につながる人材育成をしていかないといけないと考えています。

【下さんの素顔】

片山 好きな食べ物、嫌いな食べ物はありますか。

下 何でも旬の食べ物を食べるのが好きですね。嫌いなものは基本的にないです。激辛は、得意じゃないですが。

片山 ストレス解消法はありますか。

下 毎月、歌舞伎を見にいくことでしょうか。

片山 最近読んだ本はありますか。

下 最近、弘法大師空海に関連する本を読んでいます。思想と実行力を見習いたいと思っています。

片山 ご自分の性格を一言でいうと、いかがですか。

下 バランスはあると思うんですけどね。何でも自分事ととらえるので、ちょっと厳しくなってしまうのかもしれないと思って、気をつけています。怒っても後は引かないですけどね。いい意味での良い加減さが大事だと思っています。

片山 いってみたい場所、再訪したい場所はありますか。

下 いってみたい場所は、バルセロナです。じつは、スペインにいったことがなくて、ガウディの建築を見にいきたいですね。再訪したいのは、東洋と西洋の文化がつながる場所、トルコのイスタンブールです。

片山 最後に、経営とは何ですか。

下 人づくりですね。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

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片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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