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独フォルクスワーゲン(VW)の13年の世界新車販売台数(大型トラックのMAN、スカニアを含む)が973万台だった。中国を含むアジア太平洋地域では14.7%増、米国を含む北米地域では5.6%増となった。VWグループはトヨタ、米ゼネラルモーターズ(GM)と激しいトップ争いを繰り広げており、12年は3位だった。そして13年はGM、VWともトヨタに及ばず、トヨタが2年連続で世界一となった。VWが2位、GMが3位で両社の順位が入れ替わった。
1月7日、ホテルニューオータニ(東京・千代田区)で行われた経済3団体の賀詞交換会。過去最高の1850人が集まった。一番目立ったのはトヨタ自動車の豊田章男社長。ホテルの車寄せは黒塗りの高級車で埋め尽くされたが、豊田氏は明るいピンク色のクラウンで乗りつけた。ピンクのクラウンはトヨタ再生のシンボルだ。1月3日付産経新聞の新年企画『2020年、111人の予想』で豊田氏は「学生向けの講演で学生から『あなたが死んだ後のトヨタはどうする』なんていわれたばかりだから、まずは生きることを考える(笑)」と回答。証券専門紙である1月14日付NSJ日本証券新聞に掲載されたコラムは、トヨタについて次のように触れている。
「生産台数はグローバルで1000万台突破という前人未踏のレベルとなり、今期の業績も営業利益2兆円超えが見込まれ、過去最高益の可能性も出ている。このトヨタにリスクはないのか?」
「良くも悪くも、豊田章男社長の一挙手一投足でトヨタは変わる。その意味では章男さん自身がトヨタの最大のリスクだろう」(愛媛のトヨタウォッチャー)
「豊田社長はマスコミのインタビューなどで『自分は3つの役割を持っている』と語っている。1つ目はトヨタの社長。大企業の経営の舵取りをする役割だ。2つ目は日本自動車工業会の会長の役割。これは業界全体の利益追求と調整。そして3つ目が『モリゾウ』なのだという。モリゾウとはレース活動で使っているニックネーム。レース活動を通じ、クルマの楽しさを普及させるのが自身に課せられた3つ目の役割なのだと」
「命のやりとりをしかねないレース活動を超大企業のトップが行うことには批判が多い。しかし豊田社長は『ほかの上場企業の社長は平日からゴルフをやっていても騒がれない。なぜ、自動車メーカーのトップがレースに参加すると批判されるのか』と語っており、その批判が大いに不満なのだという」
「そもそもレース活動は道楽ではなく『いいクルマ作りに必要な自分のセンサーに磨きをかけるため』と主張している」
「そんなわけで、『社長がそこまでやっているのだから』ということで、トヨタ社内でもレース活動に取り組む社員が増えているという。それは社員だけでなくマスコミにも広がっている」
「『名古屋のトヨタ広報のスタッフとトヨタ番の記者の一部が一緒にカートレース活動を行っている。土日にレースをするだけでなく、平日の夜も練習している。ときには泊まり込みで合宿をするほどの入れ込みようだ』(トヨタ担当記者)」
「この状況を懸念する意見もある。『社員のレース活動は、レースを推奨する社長をいただく会社のサラリーマンとしてのお追従なのだろう。記者の方も、トヨタに食い込むためにやっているのでしょう。章男さんの周りは茶坊主だらけだ』(前出トヨタのウオッチャー)」
平日夜にカートレースの練習をする新聞記者が出てきたということが、メディア関係者の間では驚きをもって受け止められている。
●危険の高いカーレースへの参加
カスタムカーの展示会「東京オートサロン2014」が1月12日まで幕張メッセで開かれた。豊田氏はトヨタ・ブースのトークショーに登場。昨年はニュルブルクリンク24時間耐久レースにレーサーとして出場したが、今年はチーム代表の立場でハンドルは握らない。それでも、24時間耐久レースで走らせた新型レーシングカー「レクサスLFAコードX」を展示し、カーレーサーと記念撮影をするなど、自らハンドルを握り続けることに強い意欲を示した。
ニュルブルクリンクは高低差が大きく路面も荒れた過酷なコースで、世界中の自動車メーカーやクルマ愛好家の“聖地”とされている。レースはクラスごとに分かれており、ドライバーの国際C級ライセンスを持つ豊田社長は高級スポーツカー「レクサスLFA」とスポーツカー「86(ハチロク)」で出場した。トヨタの社員も整備担当やドライバーとして加わったが、「レースを通じて人材育成の場として活用する」と広報担当者は説明した。
これ以前に豊田氏がトヨタチームのドライバーとして参戦したのは、09年5月21~24日の同レースであり、一周25キロメートルあるサーキット場で開催されるアマチュア最高峰の耐久レースである。豊田氏が率いるレーシングチームは「GAZOO Racing」といい、07年にニュルブルクリンクのレースに挑戦するために立ち上げられたが、当時から「耐久レースに出る暇があったら、会社のことをもっと考えてください、と苦言を呈する部下がいないのが問題だ。周囲にいるのはイエスマンばかり」と危惧するトヨタの有力OBもいた。
13年の豊田氏のレース参加は、リスク管理の面から見て深刻だ。豊田氏は09年にトヨタ社長に就任し、13年で4年になったが、レースで事故でも起こしたらどうするのか。豊田氏に自重を促す幹部がいないということに懸念を抱く声も、同社関係者の間で上っている。国内外問わず有力企業では、代表権を持った会長と社長は同じ飛行機に乗らない。もしもの事態を想定して、リスクをヘッジするためである。自動車業界内では「豊田家の御曹司である豊田氏は周囲をイエスマンで固め、苦言を呈する骨のある役員は経営陣に一人もいなくなった」との見方も強い。
●強いトヨタが抱えるリスク
そんな豊田氏が率いるトヨタ自動車の14年3月期の連結営業利益(米国会計基準)は、6年ぶりに過去最高になる。これまでの最高だった08年3月期(2兆2703億円)を上回り、2兆4000億円(前期比82%増)を超える見通しだ。この数字は、トヨタの稼ぐ力がリーマン・ショック前を上回ってきたことを意味する。同期には円安を追い風に、マツダや富士重工業、スズキも営業最高益を更新する。
JPモルガンは今年の10大サプライズ(国内編)の4番目でこう予言した。自動車産業で空前の合併フィーバーが起こり、日本を代表する真の最大手、自動車メーカーが誕生する。実際にトヨタが他社に合併を仕掛けるという情報も一部では流れているが、こうした情報が流れるくらい日本経済におけるトヨタの重要性が高まっていることの証しでもある。そんなトヨタの大きな懸念材料のひとつが豊田社長であるとするなら、日本経済全体の観点から豊田社長続投を疑問視する声が、今後、強まっていく事態も考えられる。
(文=編集部)