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昔の人はよく言ったものだと思う。この意味は、商売で成功して大金持ちになっても、3代目ともなると、本業はそっちのけで習い事に励み、贅沢に慣れ、難しい文字は書けるが、家業は潰れて家を売る羽目になるということである。
東京地裁は10月10日、子会社から無担保で50億円を超えるお金を借りて海外でのバカラ賭博でつくった借金返済などに充てたとして特別背任容疑に問われた、大王製紙前会長の井川意高被告に対して、懲役4年(求刑・懲役6年)の実刑判決を言い渡した。裁判長は「背任の程度は大きく悪質。動機や経緯に照らして厳しい非難を免れない」と指摘した。
この事件の概要は週刊誌など多くのメディアが報じているので、詳細は省くが、井川被告は、大王製紙の創業者から数えて3代目に当たる。なんの苦労もなく育ち、祖父や父が苦労して大きくした会社に損害を与え、ブランドイメージをも大きく傷つけた。全額弁済しているが、それは自分の力で弁済したのではなく、実父らに尻拭いしてもらったものだ。ボンボンの火遊びにしては、創業家も会社も大きな「代償」を払わされてしまったということだ。
この「大王製紙のバカ息子事件」は世の中で顕在化したが、世間の人が知らないで、創業家の御曹司が会社経営をかき乱している事例は数多くある。その代表格がトヨタ自動車の豊田章男社長であろう。章男氏は、トヨタを創立した豊田喜一郎氏から数えて3代目である。
●バカラとモータースポーツは「同罪」
今のトヨタの現状に、元役員はこう言い放った。
「大王製紙のバカ息子のバカラと同じものが、章男の『モータースポーツ』。収益が出るか否かもわからないものに、多額の資金を投入している。株主から見れば、これも立派な『背任』ではないか」
そしてこう付け加えた。
「大王製紙もトヨタも、これは結局、親子の教育の問題だ」
その意味は、能力とは関係なく、創業家というだけで大企業のトップになった「世襲」を謙虚に受け止めると同時に、継がせた親は日ごろから家庭の中でも経営者とはどうあるべきかの「帝王学」をしっかり学ばせておけということである。
章男氏の父はトヨタ名誉会長の章一郎氏。母は三井財閥の令嬢、博子さん。章一郎氏の父、喜一郎氏は終戦直後、トヨタが倒産寸前に陥り、労働争議も起きて失意のまま社長を退任してすぐに死去した。章一郎氏も「ボンボン」と言われるが、竹輪屋で働かされたこともあり、人並みの苦労はしている。筆者は、章一郎氏がトヨタの会長や経団連会長時代に取材をしたことがあるが、最初に受けた印象は「人の話をよく聞く人」だった。
トヨタOBもこう評する。
「章一郎さんは自分の影響が大きいことを知っているので、あえて発言を控えたり、考えを示したりしないことがあります。1982年にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が合併して新生トヨタができる際、初代社長に章一郎さんが就任しましたが、当時のトヨタには『アンチ章一郎派』もいっぱいいて、権力を完全掌握できていなかっただけに、周囲の声に耳を傾ける癖がついたのではないでしょうか」
しかし、「生まれながらにして将軍」の章男氏は、完全な独裁者となり、聞く耳を持たない。暴走を始め、トヨタ自体が北朝鮮のような会社になりつつある。
●IR説明会から逃避の幼稚さ
09年6月に社長就任した章男氏は、投資家が大嫌いである。社長に就任してIR説明会は1度だけしか出席していない。これには開いた口が塞がらないし、トヨタのようにニューヨークにも上場している会社のトップがIR活動をしないというのは異常なことだ。
ある証券アナリストがこう説明する。「社長になってすぐの頃、IR説明会に章男氏が来ましたが、ゴルフの事例を挙げてさまざまなことを説明するので、会場から『アナリストは忙しくてゴルフをする暇がないので、ゴルフのことを事例に出されても意味がわからない。もっと直接的に説明してください』とクレームをつけました。これに章男氏はむっとしていました」
それ以来、IR説明会に出なくなった。まるで子どもがすねているようだ。新聞やテレビ局は広告やCMをちらつかせれば屈服するケースもあるが、アナリストにはスポンサーからの圧力はかからないので、厳しい質問も出る。ヨイショしてくれない。章男氏は、それが嫌になったのであろう。
アナリストは数字に基づく合理的な説明も求めるが、その頃から章男氏は「俺は数字で会社を引っ張らない」と言い始めた。そして、「街の魚屋さんや八百屋さんのように、皆に慕われる会社になる」といった企業像を語り始めた。「世界のトヨタ」のトップとして、何と幼稚な経営目標であることか。
それでもイエスマンだらけの周囲は、章男氏のご威光を恐れて、誰も忠告をしない。まずい状況だとわかっていても、豊田家の「ご威光」にひれ伏すのみ。ご注進しようものなら、お手打ちに遭うリスクすらあるからだ。
(文=井上久男/ジャーナリスト)
※次回へ続く