本田技研工業(ホンダ)が「派生車の数を現行の3分の1に減らす」と発表したのは、4月のこと。それがようやく具体的な生産システムとして稼働を開始したというニュースを耳にした。
発表の骨子は、世界で販売する主力の5車種について派生車種の数を減らすというものだ。
派生車とは、ひとつのプラットフォームをベースにしながら、グレードやオプションによってさまざまに変化させたモデルのことだ。
これまでメーカーは、ユーザーの求める価格帯やさまざまな好みに対応するために、多くの派生モデルを取り揃えてきた。それが当面の販売に貢献してきたのは間違いない。大量生産こそが近代自動車産業の大きな武器であり、効率という名を大義名分に業績を伸ばしてきた。
そんな日本のメーカーにとって、派生モデルを減らすことは、これまで培ってきた大量生産方式の否定を意味する。
さまざまなボディカラーを準備し、多くのエンジンバリエーションを揃え、好みによってトランスミッションや駆動方式や、あるいはカーナビや本革シートの有無、それこそ電動ミラーやシートヒーターの装備などまでユーザーが指定できるとなれば、それはもはや「量産車」ではなく「特注モデル」の性格を帯びる。
だが、それは一方で生産コストを高めることになっていた。主力5車種の派生モデルは数千パターンに達するというから、それがコスト増を招いていることは、今さら論じるまでもない。
そういう意味では、ホンダの発表は「今さらですか?」と思えなくもない。それが証拠に、ホンダの自動車事業の営業利益率(2019年3月期)は1.9%と低迷している。ライバルのトヨタ自動車は8.2%というから、その差は無視できない。比較的高価な大型モデルや、レクサスといった高級車を抱えるトヨタと比べると、そもそも営業利益率で不利な体質である。その状況下で、さらに派生モデルが足を引っ張っていたというわけだ。
ちなみに、バブル経済崩壊直後に日産自動車は、今回のホンダ同様の派生モデル削減に取り組み、利益率を高めたことがある。
ある日、ハンドル取り付け工場の視察に訪れた当時の日産社長に、生産管理担当者が胸を張ってこう言ったという。
「ご覧ください。組み付けるべきハンドルが瞬時に判別できるように、ランプが点灯するのです。これで取り付け間違いはありません」
それを聞いた社長は、こう質問したという。
「ところで、ハンドルは何種類あるんだ?」
「40種類です」
「そうか、すぐにハンドルの数を減らしない。そうすればランプの必要もなくなる」
その逸話は今でも残る。かつては、まったく流用の効かないエンジンやトランスミッションなどを開発していた時期もある。プラットフォームは専用設計だった。1台のモデルの開発に、数百億円という膨大な資金を投入していた。それでも月産数百台でも採算がとれていた。だが、それは遠い昔のことだ。今では原価管理は厳しく、営業利益率の競い合いでもある。
「派生車を3分の1にするといっても、2025年が目標ですけれどね」
ある業界関係者は、そう言った。ホンダがようやく重い腰を上げたが、時すでに遅しなのか、逆襲への狼煙となるのか、興味深い。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)