日本企業の53%が注目する「NaaS」とは?ネットワークは“持たない時代”へ

●この記事のポイント
生成AIの普及により企業ネットワークの負荷と複雑性が急増する中、国内企業の約53%がNaaSに関心を示している。NaaSは回線・機器・セキュリティをサービスとして提供し、帯域の柔軟拡張や運用負担の軽減を実現する。人材不足やゼロトラスト対応の観点からも導入が進む一方、レガシー統合やベンダーロックインが課題となる。ネットワークは「所有」から「戦略基盤」へと転換している。
「回線が遅い」「VPNが不安定」「拠点ごとにネットワーク設定がバラバラで管理が煩雑」――。こうした課題は、多くの企業の情報システム部門が抱える“慢性的な痛み”である。
こうしたなか、ネットワークのあり方そのものを見直す動きが広がっている。MM総研の調査によれば、国内企業の約53%が「NaaS(Network as a Service)」に強い関心・期待を寄せているという。サーバーやソフトウェアに続き、ネットワークまでもが「所有するもの」から「利用するもの」へと転換しつつある。
背景にあるのは、2026年に入り加速した生成AIの全社導入だ。大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIの業務活用が広がる中で、従来のオンプレミス型ネットワークはトラフィック増大や柔軟性の欠如といった限界を露呈し始めている。ネットワークはもはや裏方のインフラではなく、企業競争力を左右する「ボトルネック」にも「加速装置」にもなり得る存在となった。
●目次
- NaaSとは何か──「インフラを持たない」という選択
- なぜ今、NaaSなのか──3つの構造変化
- 導入が進む主要領域
- 専門家が指摘する「戦略インフラ化」の本質
- 普及に向けた課題とリスク
- NaaSは「標準インフラ」となるのか
NaaSとは何か──「インフラを持たない」という選択
NaaSとは、ネットワークインフラを自社で構築・保有するのではなく、クラウドのようにサービスとして利用するモデルを指す。ユーザー企業は、回線やルーター、スイッチといった物理機器を保有せず、必要な帯域や機能をサブスクリプション形式で利用する。
その特徴は、単なる回線提供にとどまらない点にある。仮想ネットワークの構築、トラフィック制御、セキュリティ対策(ファイアウォール、ゼロトラスト機能など)までが一体的に提供されるケースが主流となっている。
ここで混同されやすいのが「SASE(Secure Access Service Edge)」との関係だ。SASEはネットワークとセキュリティをクラウド上で統合するアーキテクチャを指す概念であり、NaaSはその提供形態の一つと位置付けられる。つまり、NaaSは「どう提供するか」、SASEは「どう設計するか」という違いがある。
なぜ今、NaaSなのか──3つの構造変化
(1)AI時代のトラフィック爆発
生成AIの活用は、ネットワークに新たな負荷をもたらしている。テキスト生成だけでなく、画像・動画・音声といった大容量データのやり取りが日常化し、従来のVPNや固定回線では帯域不足が顕在化している。
NaaSの最大の強みは、この需要変動に応じて帯域をオンデマンドで拡張できる点にある。突発的なトラフィック増にも柔軟に対応できるため、AI活用を前提としたインフラとしての適合性が高い。
ITジャーナリストの小平貴裕氏は次のように指摘する。
「生成AIは“ピークが読めない負荷”を生む。従来のように最大負荷を見越して設備投資を行うとコストが過剰になる一方、抑えればパフォーマンスが落ちる。NaaSはこのジレンマを解消する手段として合理的だ」
(2)深刻化するネットワーク人材不足
経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」を越え、IT人材不足はより深刻化している。特にネットワーク領域は専門性が高く、設計・構築・運用の負担が大きい。
NaaSを導入すれば、こうした運用業務の多くをサービスプロバイダー側に委ねることが可能になる。企業側は、インフラ管理ではなく、ビジネス価値の創出にリソースを集中できる。
(3)ハイブリッドワークとゼロトラストの定着
オフィス、自宅、サテライト拠点など、多様な働き方が定着した現在、従来の「社内ネットワークを境界で守る」モデルは限界を迎えている。
NaaSは、場所に依存しないアクセス制御やセキュリティ機能を標準で提供することが多く、ゼロトラストの考え方と親和性が高い。どこからでも安全に接続できる環境を構築できる点は、企業にとって大きな魅力だ。
導入が進む主要領域
NaaSの導入は、特定の業種にとどまらず広がりつつある。
まず製造業では、スマート工場化の進展に伴い、IoT機器やセンサーを含むエッジデバイスの接続が急増している。これにより、拠点ごとのネットワーク構築・運用負担が増大しており、柔軟に拡張できるNaaSへの関心が高まっている。
金融機関や自治体では、厳格なセキュリティ要件を満たしつつクラウドシフトを進める必要がある。こうした領域では、セキュリティ機能が統合されたNaaSの導入が現実的な選択肢となる。
さらに、多拠点展開を行う小売・サービス業では、新規出店時の回線敷設コストやリードタイムが課題となる。NaaSを活用すれば、短期間でのネットワーク構築が可能となり、ビジネスのスピード向上に寄与する。
専門家が指摘する「戦略インフラ化」の本質
小平氏は、NaaSの本質を次のように分析する。
「従来、ネットワークは“コストセンター”として扱われてきた。しかし、AIやクラウドの時代においては、ネットワークの品質や柔軟性が直接的に事業成果に影響する。NaaSは単なるコスト削減手段ではなく、企業の意思決定スピードを左右する“戦略インフラ”への転換を意味する」
この指摘は、サーバー(IaaS)、ソフトウェア(SaaS)に続く「持たざる経営」の文脈とも重なる。企業は資産を保有するリスクから解放され、変化に応じて最適なリソースを選択する方向へとシフトしている。
普及に向けた課題とリスク
もっとも、NaaSが万能というわけではない。普及にはいくつかの課題も存在する。
第一に、既存のレガシーシステムとの統合である。長年にわたり構築された社内ネットワークとの整合性をどう確保するかは、多くの企業にとって大きなハードルとなる。
第二に、ベンダーロックインのリスクだ。特定のプロバイダーに依存することで、将来的なコスト上昇や柔軟性の低下を招く可能性がある。
「NaaS導入においては、技術的な優位性だけでなく、契約条件やデータポータビリティの確保が重要になる。複数ベンダーの併用や標準化技術の活用など、ロックインを回避する設計が求められる」(同)
NaaSは「標準インフラ」となるのか
市場の成長性については強気な見方が多い。調査会社の予測では、日本のNaaS市場は2030年代前半にかけて年平均20〜30%前後の成長が見込まれている。クラウド化の波がネットワーク領域にも本格的に波及していることは間違いない。
重要なのは、ネットワークが単なる接続手段ではなく、「ビジネスのスピードと柔軟性を決定づける基盤」へと位置づけが変わりつつある点だ。
生成AIの普及により、企業活動はますますリアルタイム性とデータ処理能力を求められるようになる。その中で、固定的なネットワークに縛られることは、競争力の低下に直結しかねない。
NaaSは、こうした時代における合理的な選択肢の一つである。ただし、その導入は単なるIT投資ではなく、経営戦略の一環として捉える必要がある。ネットワークを「持つか、使うか」という問いは、今や企業の将来像そのものを映し出す鏡となりつつある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト)











