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加速するアマゾン離れ、EC戦略に大きな変化…205億ドル市場に膨らむAI購買

2026.04.11 05:55 2026.04.11 00:59 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト

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●この記事のポイント
米国でAIエージェント「Buy for Me」やPerplexity訴訟を契機に、アマゾンを経由しない購買「アマゾン飛ばし」が加速。エージェント型コマースは2026年に米国だけで205億ドル規模へ急拡大。日本でもD2C市場が3兆円に達し、EC市場の権力構造が転換期を迎えている。

「アマゾンで検索して買う」という、これまで当たり前だった消費行動が崩壊を始めている。

 米国ではOpenAIやPerplexityといったAI企業が、アマゾンの検索窓を経由せず、直接ブランドから商品を購入する機能を次々と実装。この「AIエージェント」による購買代行は、既存のEC王者が築き上げた検索連動型広告モデルを根底から揺るがしており、シリコンバレーでは法廷闘争へと発展している。

 翻って日本でも、D2C(Direct to Consumer)市場が2025年には約3兆円規模に達すると予測され、SNSからブランドの世界観に直接触れ、自社サイトで購入する流れがZ世代を中心に定着した。もはやアマゾンは「唯一の入り口」ではなく、数あるチャネルの一つ、あるいは単なる「物流インフラ」へとその役割を縮小させつつある。

 本稿では、米国の最新データと日本国内の構造変化を重ね合わせ、「アマゾン一強時代」の終焉と、その先に待つEC市場の新たな覇権争いを分析する。

●目次

米国で起きていること――AIがアマゾンを”迂回”する

 きっかけとなったのは、日本経済新聞も報じた米国の最新動向だ。米テック業界では今、「Amazon Bypass(アマゾン迂回、アマゾン飛ばし)」という言葉が現実味を帯びている。

AIエージェントが購買の入り口を塗り替える

 2025年、主要なAI企業は「エージェント型コマース」の基盤を完成させた。OpenAIはChatGPTに直接チェックアウト機能を埋め込み、ユーザーが「キャンプ用のテントを探して、予算3万円以内で一番評判の良いものを買っておいて」と指示するだけで、複数のサイトを比較し、決済まで完了させる仕組みを整えた。

 特筆すべきは、OpenAIがTargetやInstacartといった大手小売と直接提携したことだ。これにより、消費者はアマゾンの広大な検索結果からスポンサー広告をかき分けて商品を探す手間から解放され、ChatGPTのチャット画面を一度も離れることなく買い物を完結できるようになった。

「アマゾン飛ばし」の核心は広告モデルへの打撃

 なぜこれがアマゾンにとっての死活問題なのか。その答えは収益構造にある。アマゾンの2024年〜2025年の広告売上は年間約600億ドルから700億ドル規模に達しており、その大半は「検索結果の上位に表示させる」ための検索連動型広告だ。

 しかし、AIエージェントは人間のように画面上の広告を視認しない。AIは裏側のデータを読み取り、純粋にユーザーの要望に合致する「最適解」だけを抽出する。アマゾンがPerplexityに対し、コンテンツの不正利用やスクレイピングを巡って厳しい姿勢を見せている本質的な理由は、自社の検索エコシステム(=広告収益の源泉)がバイパスされることへの強烈な危機感にある。

自らも「飛ばし」に参入するアマゾンの矛盾

 一方で、アマゾン自身も防衛策として奇妙な行動に出ている。「Shop Direct」や「Buy for Me」といった機能の試験運用だ。これはAIが他社のECサイトから商品を勝手に探し出し、アマゾンのインターフェース内で購入を完結させるもの。

 しかし、2025年後半には独立系セラーから「自分のブランドサイトの商品が、許可なくアマゾンのAIにリストアップされ、マージンを抜かれている」という告発が相次いだ。「他者がアマゾンを飛ばすのは提訴するが、自らが他社サイトを飛ばして吸い上げるのは許容する」という二重基準は、王者の焦りの表れとも取れる。

「現在起きているのは、単なる検索エンジンの交代ではなく『購買意思決定の主権争い』です。これまではアマゾンのアルゴリズムが消費者の目に触れる商品をコントロールしてきましたが、AIエージェントの登場により、そのコントロール権がユーザーの手元のAIへと移りました。これは20年続いたプラットフォーム・ビジネスの前提を崩すパラダイムシフトと言えます」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

データで見るエージェント型コマースの規模感

 この変化は一時的な流行ではない。数字がその深刻さを物語っている。

成長速度は想定を超えている

 米国の調査会社eMarketerの最新推計によれば、AIエージェント経由の小売EC取引額は2026年に200億ドルを突破する見通しだ。マッキンゼー・アンド・カンパニーはさらに強気で、2030年までに世界のエージェント型コマースは3兆〜5兆ドル規模に達すると試算している。

2025年サイバーウィークの衝撃

 2025年の年末商戦(サイバーウィーク)では、オンライン注文全体の約20%が何らかの形でAIの推奨やエージェント機能の影響を受けていたことが判明した。小売サイトへのAIチャットボットからのトラフィックは前年比で約7倍(670%増)という驚異的な数字を記録しており、消費者の「探し方」は不可逆的な変化を遂げている。

日本への波及――「一強崩壊」か「役割の縮小」か

 米国で起きた地殻変動は、時間差をおいて日本市場にも押し寄せている。しかし、そこには日本独自の力学が働いている。

D2C市場の本格離陸と「脱プラットフォーム」

 日本のD2C市場は2026年に約3兆円規模に達すると見られている。かつては「アマゾンに出さなければ売れない」と言われたが、現在はSNSでファンを囲い込み、自社サイト(Shopify等)へ直接誘導するモデルが完全に市民権を得た。

・事例1:Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ) 徹底した世界観の構築とSNSでの話題化により、アマゾンや楽天に頼らずとも「限定感」を武器に自社ECだけで爆発的な売上を記録。顧客データを自社で完全に把握し、LTV(顧客生涯価値)を高める戦略の成功例だ。

・事例2:MEDULLA(メデュラ) パーソナライズシャンプーを展開する同社は、診断というプロセスを通じてユーザーと直接つながる。プラットフォームの画一的な検索結果では伝えきれない「個別の悩みへの解決策」を提示することで、アマゾンでの比較検討の土俵から降り、独自の経済圏を築いている。

日本特有の「ポイント経済圏」という壁

 ただし、日本においてアマゾンが即座に没落することはないだろう。楽天経済圏やPayPay経済圏といった、強力な「ポイントの引力」が消費者をプラットフォームに繋ぎ止めているからだ。

 米国が「AI vs プラットフォーム」の構図であるのに対し、日本は「AI・D2C・ポイント経済圏」が三つ巴となり、用途に応じてチャネルを使い分ける「購買の分散化」が進むと予測される。

物流という最後のお堀

 アマゾンには、AIがどれだけ進化しても代替できない「物理的な強み」がある。翌日・当日配送を実現する物流網だ。AIが最適な商品を見つけても、配送に3日かかるサイトより、1クリックで数時間後に届くアマゾンを「決済・配送インフラ」として選ぶバイアスは依然として強い。

EC市場の「次の競争軸」とは何か

 今後のECビジネスにおいて、企業はどのような戦略を立てるべきか。鍵は二つのキーワードにある。

(1)SEOから「GEO(生成エンジン最適化)」へ

 これまではGoogleやアマゾンで検索上位に食い込むSEO(検索エンジン最適化)が重要だった。しかし、これからはAIエージェントに「選ばれる」ためのGEO(Generative Engine Optimization)が不可欠になる。AIが商品データを正確に認識し、ユーザーへの推奨リストに載るための構造化データの整備が、企業の命運を分けることになる。

(2)ブランドの「自社チャネル」保有価値

 アマゾンが中小ブランドの商品を「Buy for Me」で勝手にリストアップするリスクは、プラットフォーム依存の危うさを改めて浮き彫りにした。顧客との直接の接点(ファーストパーティデータ)を持ち、ブランドストーリーを自ら発信できる企業だけが、AIによる「価格とスペックだけの比較」から脱却できる。

「今後のECは『便利さはプラットフォーム、体験は自社サイト』という二極化が加速します。アマゾンはコモディティ(日用品)を供給する水道や電気のような存在になり、一方で情緒的な価値を持つブランドは、AIを介して直接消費者のポケットに飛び込んでいく。もはや『どこに出店するか』ではなく『どうAIに認識され、どうファンと繋がるか』が勝負の分かれ目です」(同)

「アマゾン飛ばし」が問うもの

「アマゾン飛ばし」の本質は、単なるツールの変化ではない。それは「誰が消費者との接点を握るか」というEC市場における権力構造の転換である。

 AI企業がコンシェルジュとして君臨し、SNSがインスピレーションを与え、D2Cブランドが熱狂を作る。この多層的な構造の中で、アマゾンはかつての「全能の神」から、一階層の「高度な物流業者」へと変質を迫られている。

 日本市場においても、2026年はその趨勢が決定的になる年だろう。企業はプラットフォームをインフラとして賢く利用しつつも、AIに選ばれるデータ戦略と、プラットフォームに依存しないファンベースの構築を同時に進めなければならない。

 アマゾンを”飛ばす”時代。それは、ブランドが再び消費者と直接向き合う、真の「個の商い」の時代の幕開けなのかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト)

公開:2026.04.11 05:55