また、100以上の病床数を持つ病院ならばまだ経営は回しやすいですが、20~40床程度の中小経営の病院は利益を生み出しにくいのです。19床以下ならば診療所扱いとして当直医を雇う必要がないのですが、20床以上ならば毎日当直医を入れなければなりません。この日当が3~4万円ですので、月間ベースで100万円、年間ベースで1200万円程度は経費がかかります。ほかにも病床数に対して必要な看護師の数も増加したため、こういった人件費は利益のバランスを崩す要因になりかねないのです。また近年では医療過誤訴訟なども行われるので、これに対する備えとして保険会社に毎月支払う保険料もバカになりません。
「定年なし」が医師の唯一のメリットか
–思った以上に過酷な医療業界ですが、医師という職業のメリットも聞かせてください。
富家 大学の医学部の学費が値下げされたことで、医学部を志望する学生は増加しているそうですが、当の学生たちに話を聞いてみると、「老後までしっかり働ける」という点に魅力を感じている人が一番多い印象ですね。というのも、医師には定年退職という制度がないため、開業医でも勤務医でもだいたいは70代後半まで勤続するという方がほとんどです。また昨今は、診療報酬がマイナス改定されてはいるものの、どんな医師でも診療さえすれば一定額の収入が見込めます。現在は年金制度の崩壊も叫ばれていますから、老齢に達しても安定した収入が保証されているということはメリットでしょう。
–ありがとうございました。
医師は年収数千万円レベルの高収入で、それを求めて医師を目指す医学生が多いのかと考えがちだが、実は医学生らは“老後も食いっぱぐれない”という意外な点に魅力を感じていた。多くの医師が極度の貧困にあえいでいるというわけではなさそうだが、やはり収入面ではイメージと現実のギャップは大きいようだ。
(文=牛嶋健/A4studio)