官邸が政界工作のターゲット
税の主導権は、党税調ではなく官邸へ移ったと判断した新浪氏は、政界工作のターゲットを党税調から官邸に替えた。
その象徴が、16年10月24日のホテルニューオータニでの会合だった。この日の会合に党税調最高顧問の野田氏の姿はなかった。代わって税調の重鎮として記者団に囲まれたのは、税調に送り込まれた首相側近の甘利氏だった。
新浪氏の安倍首相への接近方法は、他の財界人のようにゴルフ交流のワンパターンではなく、芸術的関心もくすぐっている。
「午後5時37分、東京・赤坂のサントリーホール着。同39分から同55分まで、サントリーホールディングスの佐治信忠会長夫妻、新浪剛史社長夫妻。同6時5分から同7時54分まで、サントリーホール30周年ガラ・コンサートを鑑賞。同57分、同所発」(16年10月1日付時事ドットコム「首相動静」より)
新浪氏は、安倍首相との間合いを確実に縮めていった。
16年12月8日、政府・自民党は17年度税制改正大綱を正式決定した。10年後にビール系飲料などの税額を統一する。
10年というタイムラグを設定させたのは「サントリーの政治力」(業界筋)とみられている。サントリーが主催するホテルニューオータニでの会合の効き目は絶大だった。
ビール業界には10年先延ばしに異論噴出
現在のビール系飲料の税額は350ミリリットル当たり、ビールが77円、発泡酒は46.99円、第3のビールは28円となっている。20年10月から3段階で、それぞれの税額差を縮め、26年10月に54.25円に揃える。ビールの税額は下がり、逆に発泡酒と第3のビールは上がる。
税額の統一に合わせて、第3のビールという区分をなくす。財務省は、税額統一でビールの価格は6缶パック商品で1本当たり180円程度から150円台に値下がりするが、発泡酒は130円程度で変わらないと試算する。
ビール系飲料の税額を10年かけて統一することに業界からは異論が噴出した。
ビール比率が高いアサヒグループホールディングスとサッポロホールディングスには、税額統一は間違いなく追い風だ。ビールの売り上げ構成比率は、アサヒが60%、サッポロが60%弱だ。数量効果もあってアサヒが絶対的に有利だが、10年先延ばされたことには納得がいっていないようだ。
アサヒの小路明善社長は「早期に下げてほしい」と求めた。税額を下げる時期が遅れるほどメリットを生かしにくくなるからだ。また、サッポロの尾賀真城社長は「減税額は満足できる水準ではない」として、ビールのさらなる減税を求めた。早期に店頭価格が下がれば、ビールの販売を伸ばせるという期待があるからだ。