30~40代ともなると、何もしなければ体形がどんどん崩れ始める。この世代には、体を鍛えるためにジムに通ったり食事に気をつけたりしている人も多いはずだ。
そうしたトレーニングやダイエットをしている人に向けて、高タンパク・低カロリー・低糖質の料理に特化して提供しているのが「筋肉食堂」である。2015年に1号店が東京・六本木に誕生すると話題を集め、昨年11月に東京・水道橋に2号店をオープンするなど、高い人気を誇っている。
体形維持に気を使う人たちは、なぜ筋肉食堂に行くのか。また、どんなメニューが提供され、効果はどれくらいあるのか。実際に店を訪れた。
食事を変えないとトレーニングも無駄になる
六本木ミッドタウンの向かい側、細い路地を入った少し先に「筋肉食堂 六本木店」がある。訪れたのは土曜日の午後。表通りに比べると目立たない場所にありながら、店内はランチ客で賑わっていた。評判通りの人気ぶりだ。
話を聞かせてくれたのは、マネージャーの谷川俊平氏。以前は、アスリートらが通う有名ジムで10年間にわたってパーソナルトレーナーを務めていたという。
「以前の職場では、会員さんに対してトレーニングの作法と食事のアドバイスを行っていたのですが、みるみるうちに体が変わる人もいれば、すごくがんばっているのにあまり変わらない人もいました。その違いは何かといえば、結局は『食』。肉体改造は8~9割が食事で、そこにトレーニングを組み合わせることにより効果が増します。やはり、食事を変えないと劇的な効果は表れないのです」(谷川氏)
もちろん、谷川氏は会員に対して、筋肉をつけるために「こういうものを食べてください」とアドバイスをしていた。しかし、トレーニング後にそうした食事を摂ろうにも、なかなか条件に合った店が見つからないのが現実だ。
「トレーニング後の30分から1時間以内は『ゴールデンタイム』といって、一番栄養の吸収がよくトレーニング効果が増す時間帯です。その時間帯に効果的な食事が摂れないことはストレスになり、非常にもったいないという思いが常にありました」(同)
そうした経験から着想を得てオープンさせたのが、筋肉食堂である。同じように「トレーニング後に効率のいい食事が摂れない」という悩みを持つ人は多かったようで、筋肉食堂の評判は口コミで広がっていった。
筋肉食堂、来店客の8割程度は“ヘルシー志向の人”
もっとも、筋肉食堂を訪れるのは本格的に体を鍛えている人たちばかりではない。「そうした人は、全体の1~2割。主な客層は20~50代と幅広く、男女比は6対4ぐらいです」と谷川氏。一般の人たちが筋肉食堂を訪れる理由として、トレーニングにおける食の大切さを理解する人が増えたことが大きいという。
「たとえばダイエットの場合、少し前までは『サラダを食べておけば大丈夫』といった偏った考え方をする人が目立ちましたが、最近は『肉も食べなければダメ』ということがやっと理解されてきたようです」(同)
痩せるには「代謝を上げる」必要があるが、代謝を上げるためには、トレーニングによって壊れた筋肉をタンパク質を補給して修復(=筋肉がつく)しなければならない。それによって初めて代謝が上がるのだという。
谷川氏によれば、人間が1日に必要とするタンパク質の量は「体重1kgにつき1g」。たとえば、体重が65kgの人なら最低でも65gのタンパク質を摂らなくてはならないわけだ。当然、トレーニングやダイエットなど、なんらかの体づくりをしている人の場合は、もっとタンパク質を摂る必要が出てくる。
「筋肉をつけて代謝を上げたい場合、タンパク質の摂取量は『体重1kgにつき2g』。体重65kgの人ならタンパク質を120~130g摂らないと筋肉が回復しません。極論をいえば、いくらトレーニングをがんばっても、壊れた筋肉の修復に必要な量のタンパク質を摂り続けないと、筋肉は全然つかないということです」(同)
本格的にトレーニングに取り組んでいる人はともかく、一般の30~40代でそうしたことをきちんと理解している人は少ない。自己流でトレーニングやダイエットに励み、「今日はがんばったからビールを飲んでもいいか」などとやっていたら、一向に成果は出ないわけだ。そのため、筋肉食堂のニーズが高まっているのである。
フルコースでも牛丼以下の低カロリーなのに満腹
代謝のいい体をつくるための食事として、徹底的に考え抜かれた同店のメニューは、どれも筋肉食堂の名にふさわしいものばかりだ。
たとえば、ハンバーグは小麦やパン粉を使ってこねているものの、肉と卵のみでつくられていて、糖質はほぼゼロ。また、各メニューにはカロリーのほかにプロテイン(タンパク質)の含有量、脂質、糖質などが表示され、それぞれの目的に合った食事を選べる工夫が施されている。
そこで、筆者も筋肉食堂のメニューを実食。せっかくなので、デザートとドリンクもつけてフルコースを注文した。頼んだのは、以下のメニューだ。
「鶏ささみと卵白のホワイトオムレツ(210kcal)」
タンパク質19.0g、脂質5.7g、糖質6.2g
「築地宮川のささみスティック(150kcal)」
タンパク質34.5g、脂質1.2g、糖質0.0g
「プロテイン シフォンケーキ(98kcal)」
タンパク質8.3g、脂質11.8g、糖質14.0g
「プロテイン グリーンスムージー(146kcal)」
タンパク質17.0g、脂質3.6g、糖質17.0g
「鶏ささみと卵白のホワイトオムレツ」は、黄身のないオムレツにやや物足りなさを感じたが、食感が“ふわとろ”で問題なく食べることができた。
「築地宮川のささみスティック」は、ずっしりした肉感でありながら、高齢者でも問題なくかめそうなくらい、しっとりやわらかい。温かいうちに食べれば、さらにおいしく味わうことができるだろう。「ささみだけでは飽きる」と思うかもしれないが、ケチャップ、マスタード、わさびなど調味料や薬味が用意されているので、それぞれの味を楽しめば最後まで飽きることはない。
最後の「プロテイン シフォンケーキ」「プロテイン グリーンスムージー」を食べ終えると、さすがにおなかがパンパンになった。ところが、筆者が苦しそうにしていると、「これでもけっこう軽いほうなので、すぐにおなかが空くと思いますよ」と谷川氏。
実際、これだけ食べてもカロリーは吉野家の「牛丼並盛(669kcal)」より65kcalも少ない。筋肉食堂のメニューがいかに考え抜かれたものか、よくわかるだろう。
もっとも、アスリートのような気分で同店を後にしたのも束の間、谷川氏が言うように夕方ごろには空腹を感じ始め、またヘルシーな食事の反動からか、無性にジャンクなものを食べたくなる……。結局、20時ごろにカツ丼を食べ、深夜にはカップ焼きそばを食べてしまい、己の意志の弱さを恥じるばかりだった。
(文=青柳直弥/ライター)