広告業界を中心にマスメディア業界に衝撃が走った。共同通信は20日、記事『電通グループ、本社ビル売却検討 3000億円規模、過去最大級』を配信。電通グループが東京都港区東新橋1丁目の汐留シオサイトにそびえる電通本社ビルの売却を検討していると報じた。同記事によると、電通グループでは新型コロナウイルス感染症の拡大によるリモートワークの推進で、約9000人の社員の出社率が2割程度に減少し、余剰スペースが生じていることなどが要因という。同社は共同通信の取材に次のように回答している。以下、同記事から引用する。
「電通は『包括的な事業の見直しの一環として売却を検討しているのは事実だが、現時点で決定していることはない』とした」
1月14~17日にかけて、今年7月に延期された東京五輪の開催に関し、否定的な報道が目立った。そのため週明け18日、電通グループの株価は約3%下落していた。
だが今回の共同通信の報道が買い材料となり、21日午前9時時点での寄り付きは前日比5.6%プラスに転じている。電通グループの時価総額はコロナ禍の拡大と東京五輪の行方が不透明な情勢下で、1兆円の大台をめぐって乱高下を繰り返している。
虎の子の本社ビル売却をほのめかしてきた背景とは
電通グループと競合関係にある博報堂DYホールディングス関連会社社員は次のように驚く。
「シオサイトの本社ビルは電通さんの資産の中でも虎の子です。その切り札をこのタイミングでほのめかしてきたことに驚きを禁じえません。どこの広告代理店もコロナ禍の影響で、業績は苦しいのは確かです。それに加え、電通さんは東京五輪延期の件が少なからず影響をしていると思います。
仮にテレワークで出社率が低くなり、余剰スペースが出ているにしても、その部分をテナントとして他社に貸し出すのならわかりますが、ビルの売却を検討するというのは穏やかではありません。
一方で、電通さんが本気で売却を決めるかどうかについては懐疑的です。ここ数日、東京五輪に関し、自民党の二階俊博幹事長らが躍起になって『絶対開催』を強調しています。結果として、今回の報道も五輪の要である電通に対する『投資家の安心材料』になりました。一時的ではあるものの電通の株価浮揚に役立っています。政府も電通さんも五輪に関する利害は一致していて、『身を切ってでも五輪は絶対開催する』という硬軟織り交ぜたアピールに余念がありません。今回の報道も、そうしたさまざまな動きの一環の可能性もあります。
電通さんには弊社(約3800人)の2倍以上の従業員がいます。報道では本社機能は移転せずに、賃貸して継続的に活用するようですが、いずれにせよ出社する社員はたくさんいらないということになるでしょうね。仮に本社の売却が決定されたのなら、最も影響を受けるのは多数の契約社員でしょう。大規模な人員整理が予想されます」
地方メディアの不動産売却にも影響か
一方、ほぼ電通に広告収入を依存している新聞社なども、今回の報道に不安感をあらわにする。中部地方の地方紙営業職社員は次のように話す。
「汐留シオサイトの電通本社参りをするたびに、担当者の方が本社ビルの立地や機能性に関して自慢気にされていました。精神的な支柱の一つなのだと思っていたので、売却を検討するという報道は衝撃的でした。その電通さんがそれを検討するのだから、経営不振にあえぐ地方の新聞社やテレビ局などの社有不動産の売却が加速する可能性もあります。
広告収入の激減はいうまでもなく、新聞は販売部数の減少に関しても予断を許さない状況です。各社ともに各府県の一等地に所在する本社ビルはまさに虎の子です。『経営に行き詰まったら本社ビルや東京支社、土地を売る。切り札だ』という話は、よく耳にします。
一方で地方新聞はオーナー企業が多く、これまでは経営が傾いていても、経営者一族が本社ビルや土地の売却、利活用に関して首を縦に振らないということが多々ありました。しかし、本当に電通さんが本社ビル売却することになれば、そうした流れも変わるかもしれません」
共同通信の報道によれば、電通グループは「複数の売却先候補があり、今後絞り込む」としている。コロナ禍でのテレワークの普及に伴い、本社ビルなどの不動産を売却する大手企業が相次いでいる。電通本社ビルの売却の行方が、メディア業界全体の構造改革に波及する可能性もある。
(文・構成=編集部)