劇場公開から1年の節目を迎えたアニメ映画『君の名は。』(東宝)の快進撃が止まらない。
『君の名は。』は、2016年8月26日に公開した新海誠監督の長編アニメーション映画。観客動員数は1900万人を突破し、現在もロングラン上映中だ。興行通信社のまとめによると、8月6日現在の興行収入は250億円。邦画では宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(東宝)の308億円に次ぐ歴代2位。公開から9週連続の週末興行ランキング1位は歴代トップタイ。日本を含む7カ国・地域でもランキングでトップに立った。
17年7月26日、『君の名は。』のDVDやブルーレイ・ディスクが発売された。初回の出荷枚数は120万枚。初週の売上枚数は63万枚と出足は好調。目標は150万枚としている。
『君の名は。』は、都会に暮らす男子高校生と田舎の女子高校生の意識が入れ替わる物語で、交流サイト(SNS)の口コミで人気が拡大した。これほどの大ヒットになるとは、誰も予想していなかっただろう。新海監督の前作『言の葉の庭』(東宝)の興行収入は1億円にとどまっていた。新海監督自身が「奇跡が起きた」と話しているほどだ。
昨年、東宝の島谷能成社長が力を入れていたのは、16年7月29日に公開した『シン・ゴジラ』だった。
「米ウォルト・ディズニーにはミッキーマウスがいるが、東宝にはゴジラがいる」
島谷社長が口にする自慢のフレーズだ。東宝が製作したゴジラ作品は12年ぶり。総監督・脚本に『新世紀エヴァンゲリオン』(東映)を手掛けた庵野秀明氏を起用し、日本版としては初めてフルCG(コンピュータグラフィックス)でゴジラを描いた。
『シン・ゴジラ』は、政府や自衛隊の対応を織り交ぜたストーリーが評判を呼び、興行収入は82億円を上げた(興行通信社調べ)。ところが『君の名は。』は、それをはるかに超えるメガ・ヒット作品となった。
『君の名は。』と『シン・ゴジラ』の大ヒットが業績を押し上げる
東宝の17年2月期の連結決算の営業収入は前期比2%増の2335億円、営業利益は23%増の502億円、純利益は29%増の332億円だった。営業利益は3期連続、純利益は5期連続で最高益を更新した。『君の名は。』や『シン・ゴジラ』など利益率の高い、自社で製作した作品が大ヒットを飛ばし、業績を押し上げた。
映画ビジネスは、製作、作品を映画館に卸す配給、直営の映画館で上映する興行の3つに大別される。入場料の取り分は作品ごとに異なるが、一般的には40%が製作会社、10%が配給会社、50%が映画館といわれている。東宝は自社作品の配給に力を入れており、直営の映画館を増やす努力もしている。
製作・配給・興行を自前で管理することで、映画1本当たりの利益の、より多くの部分を東宝が取り込む構図になっている。これが営業利益で過去最高を更新し続けている理由だ。
映画会社では、大ヒット作が出た翌年は、その反動で業績が低下することが一般的だ。ところが、異変が起きた。
7月19日の東京株式市場で、東宝の株価は一時、前日比335円(19.7%)高の3735円に急騰した。その後も高く、8月18日には4125円まで上昇し、株式分割などを考慮した実質的な上場来高値を付けた。3月31日の安値(2951円)の1.4倍だ。
株価上昇の起爆剤になったのは、7月18日の通常取引終了後に発表した18年2月期の第1四半期(17年3~5月期)連結決算が、売上高、利益とも過去最高と好調で、併せて通期の業績予想を上方修正したことだ。
通期見通しでは、営業収入を従来予想の2292億円から2353億円(前期比0.7%増)に、純利益も従来予想の296億円から322億円(同3%減)にそれぞれ増額した。『君の名は。』の大ヒットがあった前期には届かないが、純利益は高い水準をキープする見込みだ。『君の名は。』の反動による業績の落ち込みが懸念されていたが、それを払拭するような数字を公表し、個人投資家の買いが集まった。
興行収入では10億円超がヒットの目安だ。17年3~5月期に10億円を超えた東宝の自社配給作品は7本に上った。『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』67億円、『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』43億円などだ。
映画は確かに“水もの”だが、東宝は映画館の跡地を活用した不動産賃貸事業が全体の25%を占め、業績を下支えしている。個人投資家にとって「買い安心」の側面もある。
(文=編集部)