Aさんは速やかに修正申告書を提出しましたが、税務署が重加算税を賦課決定したため、裁判で争われることになりました。
控訴審では、Aさんは800万円も税金が減少して得をすると説明を受け、メモで架空経費を示され、そのあとにBを紹介してくれた知人にBの税理士資格について確認したことから、Bが違法な手段を用いると想像していたと考えられると判断されました。
しかし、税理士は国が資格を付与し、税法に違反する行為を法律で禁止されている。そのため、納税者は確定申告の煩わしさから解放されると共に、法律に違反しない方法と範囲で節税をすることを期待して税理士に委任するのであり、脱税まで意図していない。
さらに、B税理士による説明は、専門的知識に対する信頼の高さを逆手にとり、Aさんを騙す手段として、「自分に委任すると利益がある」ことを誇張したのが明らかです。25年の長期にわたって悪質な方法による脱税を実行してきたB税理士の真実の姿をAさんは知らず、税務署勤務の経験を有し、資格のある税理士によるものである以上、委任したからといって脱税を意図して行動したと認めることはできない。したがって、重加算税の条件には該当しないといった判決が下り、Aさん側の勝訴となりました。
しかし上告され、最高裁では、AさんはB税理士が架空経費の計上という違法な手段で納税額を減少させようとしていることを知っており、B税理士が不正することをわかっていたと判断されました。そして、AさんとB税理士との間に事実を隠ぺい又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるのであれば、重加算税賦課の条件を満たすとして高裁に差し戻されました。
再度高裁で争われた結果、「AさんとB税理士との間に意思の連絡があったということはできない。また、B税理士による隠ぺいは、Aさんに故意または過失があるとはいえず、重加算税賦課決定処分をすることはできない」と判断されました。
つまり、税理士が恣意的に行った脱税行為と横領が、納税者の責任になるかはとてつもなくデリケートな問題で、たくさん話し合われた結果、納税者に責任はないと判断されたのです。しかし、納税者の責任として重加算税を賦課されていた可能性もあったのです。税理士選びは慎重に行い、あやしいと思ったら依頼を取りやめることも重要です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)