スルガ銀行は5月27日の取締役会で筆頭株主である家電量販店大手ノジマ(東証1部上場)の社長で、同行副会長の野島廣司氏(70)が退任する人事を決めた。6月29日開催予定の株主総会の議決を経て正式に決定する。スルガ銀とノジマは資本・業務提携の解消に向けた協議を開始した。スルガ銀の生え抜きで前社長の有國三知男会長(55)も退任する。嵯峨行介社長(56)らは引き続き経営陣にとどまる。
ノジマ、前倒しして野島社長の辞任を発表
ノジマは6月1日、野島社長がスルガ銀の社外取締役副会長を同日付で辞任したと発表した。予定を約1カ月間前倒ししたことになる。複数の取締役の交代を求めたノジマ側の人事案をスルガ銀が拒否したため、野島氏は退任という強権を発動した。5月29日の取締役会は人事の執行部提案を多数決で決めた。全会一致が多い銀行の取締役会で意見が割れるのは異例である。
スルガ銀は経営再建のため、2019年5月、ノジマと業務提携した。ノジマは同年10月、スルガ銀の創業家が保有していた全株式を取得し、18.52%を保有する筆頭株主となった。野島氏は20年6月からスルガ銀の代表権のない社外取締役と副会長に就任していた。
ノジマとスルガ銀はオンラインサービスや金融とITを融合したフィンテック事業の共同展開を進める方針だった。だが、経営再建のスピード感をめぐり溝が大きかった。ノジマは早期の経営立て直しを図るため、人事の刷新・組織のスリム化などを求めていた。スルガ銀の21年3月期連結決算は売上高に当たる経常収益が20年3月期比15%減の997億円。15年ぶりに1000億円の大台を割り込んだ。純利益は15%減の214億円だった。個人向けローンの新規実行額は226億円。ピークの20分の1と低迷を続けている。
法令順守体制の再構築を優先すべきだと考える現経営陣に対して、ノジマは縮小均衡が続けば収益基盤そのものが壊れてしまうと危機感を強めた。今年に入り金融庁がスルガ銀に対する業務改善命令を解除する姿勢を見せ始めたことから転機が訪れた。不祥事発覚の発端となったシェアハウス投資家向け融資の損失処理のメドが付き、経営再建が第2段階に移りかけた、という認識に立っている。
ノジマは再建の加速を担保するため、独自の役員人事案を定時株主総会に諮るべく行動を起こした。経営を支配しなければスルガ銀の再建はおぼつかないと判断したためだ。嵯峨社長を含め現在の取締役の過半数の交代を求める内容だったという。
“自主再建”に自信を深める現経営陣は、ノジマの提案を葬り去った。スルガ銀が不正に走った背景には、創業家が立場を利用して創業家のファミリー企業に資金を供給する“機関銀行化”したことがあると考える関係者は少なくない。ノジマが「第2の岡野家」になることへの警戒感が底流にある、との指摘もある。
ノジマは金融庁にも提携解消の意向を伝えた。スルガ銀がノジマと提携したのは、ノジマを信用回復の後ろ盾としたいとする金融庁の意向が強く働いた面がある。金融庁は「信用不安が再燃する懸念は小さい」として、ノジマの動きを静観することにした。
ノジマの持ち株はどこへ行く
ノジマが野島社長の退任時期を早めたことにより、資本・業務提携の解消に向けた動きが加速する。ノジマが提携を解消した暁にはスルガ銀は新たなと提携先を探すことになる。だが、「ノジマに代わる企業を見つけるのは容易ではない」(首都圏の有力地銀の頭取)とみられている。ノジマの持ち株(18.52%)の行方に関心が集まる。
スルガ銀は静岡県沼津市の相互扶助組織を源流として1895年に設立された。初代頭取以降、岡野家の出身者がトップをつとめてきた。1985年に頭取に就いた岡野光喜前会長(5代目社長)は30年以上にわたって君臨してきた。
シェアハウス「かぼちゃの馬車」やワンルームマンションを対象にした融資で、審査書類の改ざんや契約書の偽造といった不正行為が横行した。不正が疑われる分も含めると不適切融資の規模は1兆円超に達した。2018年10月、金融庁から融資業務の一部停止を含め業務改善命令を受け、岡野前会長ら当時の経営陣は引責辞任した。
その後、スルガ銀では創業家のファミリー企業が融資を受けた450億円の返済が滞っていた。ノジマは19年10月、創業家がファミリー企業経由で保有しているスルガ銀のすべての株式(13%強)を140億円で取得した。ノジマはすでにスルガ銀株の5%弱を保有しており、持ち株比率は18.52%となった。
当初、金融庁がスルガ銀のスポンサー候補とみなしていたのは新生銀行だった。新生銀は今や公的資金を返済できない唯一の大手銀行だ。「新生銀がスルガ銀救済に手をあげているのは金融庁に恩を売って、金融庁との関係を良くしたいとの思惑があるからだ」(有力金融筋)といった見立てが浮上した。
「今や新生銀は実質、ノンバンク状態。普通の銀行は新生銀と組みたくない。同様にノンバンク化したスルガ銀なら親和性がある」(同)。こうした背景もあって、新生銀がスルガ銀の“受け皿”として急浮上した。だが、新生銀に“火中の栗”を拾うつもりはなかった。業務提携はしたが資本提携にまでは踏み込まなかった。
代わってスポンサーとして名乗りを上げたのがノジマだった。ノジマの最大の狙いはカード事業だといわれる。家電量販店は飽和状態になっている。神奈川県が営業地盤の中堅家電量販店であるノジマは新たな収益源を求めていた。なかでもカード事業は有望と考え、以前から売り物を探していた。そこにスルガ銀の経営危機が現出した。ならば銀行ごとと考えた。
しかし、中堅家電量販店のノジマが銀行をまるごと引き受けることには無理があった。資本・業務提携の解消は起こるべくして起こった。では、スルガ銀株を買うのは誰なのか。「第4のメガバンク構想」を掲げるSBIホールディングスが“台風の目”となってきた。かつて北尾吉孝社長は「我々ならスルガ銀行をうまくマネージメントできる」と意欲を燃やしていた。8行目まで資本・業務提携した地域金融機関は増えたが「弱小連合」(前出の首都圏の有力地銀の頭取)と揶揄されている。スルガ銀がSBI陣営に加われば、一定の地歩を築くことができそうだ。
(文=編集部)