オリンパスは顕微鏡など科学事業を分社する検討を始めた。祖業だが消化器内視鏡などの医療機器に経営資源を集中させるため本体から切り離す。2022年4月1日付で100%子会社とする方針だ。収益基盤の強化に向けて事業再編や人員削減など構造改革を進めてきた。
21年3月期の連結決算(国際会計基準)は売上高が20年3月期比3%減の7305億円、営業利益は11%減の819億円、純利益が75%減の129億円だった。22年3月期の売上高は21年3月期比10%増の8060億円、営業利益が54%増の1260億円、純利益は6.9倍の890億円を見込む。営業利益、当期利益とも18年3月期に国際会計基準に移行後の最高益となる。今期配当は前期比2円増の14円とする。
自己株式の消却も実施。発行済み株式の5.22%に当たる約7162万株を6月4日付で消却した。発行済み株式数を減らし、株価を引き上げるのが狙いだ。新型コロナウイルスまん延で延期されていた病院での検査や治療が本格的に再開するのを受けて、内視鏡や治療機器の販売が急回復する。21年3月期に発生した映像事業譲渡関連の費用や社外転進支援制度関連の経費が減る。
内視鏡が全社の営業利益の96%を稼ぐドル箱に
【主力3事業の21年3月期実績と22年3月期見通し】
売上高 営業利益
内視鏡事業 4195億円(▲1%) 1047億円(▲4%)
4450億円(6%) 1210億円(16%)
治療機器事業 2060億円(▲5%) 246億円(▲6%)
2390億円(16%) 390億円(59%)
科学事業 959億円(▲9%) 49億円(▲50%)
1080億円(13%) 110億円(2.2倍)
(上段は21年3月期実績、下段は22年3月期見通し。カッコ内は前の期比の増減率、▲はマイナス)
21年3月期は各部門とも減収減益に沈んだが、22年3月期は、いずれも増収増益に転換する。全体の営業利益率は21年3月期の11.2%から22年3月期は15.6%にアップする。主力の内視鏡は先端キャップ着脱式十二指腸内視鏡、気管支内視鏡の拡販が貢献する。内視鏡の営業利益率は21年3月期の25.0%から27.2%へと一段と向上、内視鏡が全社営業利益の96%を稼ぐドル箱である。
治療機器も手術の症例数が回復するほか、今年2月に272億円で買収したイスラエルの医療機器メーカー、メディテイトの売り上げが寄与する。メディテイト製の患者の負担が少ない前立腺肥大症の治療器具を取り込み、泌尿器科分野を強化する。治療機器の営業利益率は21年3月期の12.0%から16.3%に高まる。
分社化する科学事業は産業用の顕微鏡や工業用内視鏡、非破壊検査装置が主なアイテムだ。関連人員は約3550人で国内が約1380人。21年3月期は航空産業等での設備投資の減速で減収、大幅な減益となった。
科学事業も22年3月期は市場環境の回復と中国の生物顕微鏡や工業用顕微鏡の売り上げ増で大幅増益となる。科学事業の営業利益率は21年3月期の4.7%から22年同期は10.2%に回復する。
それでも内視鏡や治療機器の収益力に比べると見劣りする。オリンパスが掲げる営業利益率20%に遠く及ばない。赤字の映像事業ほどではないにしても、魅力的な事業とはいいがたい存在だ。
事業再編や人員削減を加速
今年に入り事業再編や人員削減を次々と断行してきた。1月、不振が続いていたデジタルカメラなど映像事業を日本産業パートナーズ(JIP、東京)に売却する手続きを終えた。スマートフォンなどの台頭によりデジタルカメラの世界的な需要減少が続き、直近10年は営業黒字が一度だけ。累積損失は1000億円に達し、市場関係者から「売却してはどうか」との要求が強まっていた。
2月、国内従業員の約6%に当たる844人が早期退職に応募した。3月、再生医療子会社、オリンパスRMS(東京・八王子市)をロート製薬に譲渡した。オリンパスRMSは軟骨細胞を用いた関節治療の研究をしている。ロート製薬は再生医療に注力しており、オリンパスRMSをテコに再生医療の領域を拡大する。買収後、社名をインターステムに変えた。
100%子会社のオリンパスシステムズ(東京・渋谷区)の全株式を経営・ITコンサルティング会社アクセンチュア(東京・港区)に売却する手続きを8月末までに終える。オリンパスシステムズはオリンパス本体向けに製品の在庫管理や保守などのITサービスを提供してきた。連結対象から外すことでITの基盤まわりの固定費の削減につなげる。
オリンパスには主力の医療領域から遠く、成長力や利益率の向上が期待できない事業や子会社が多く存在する。科学事業の分社化について現時点では「事業売却や人員整理を検討しているわけではない」と説明している。
だが、内視鏡と外科領域に特化する事業再編の動きからみて、「科学事業の分社化は事業売却の布石」(精密機器担当のアナリスト)との受け止め方が多い。22年4月の子会社化を前に事業の売却が発表される可能性が高いとみられている。