しかし、時代を経るごとに都市開発事業者は積極的に公開空地に人を呼び込むようになっている。たとえば、東京・西新宿にそびえる新宿住友ビルディングには、広い公開空地が設置されている。ここは、関係者でなくても自由に立ち入ることができる。ランチタイムになると、近隣オフィスに勤務する会社員がお弁当を広げたり、同僚とおしゃべりに興じる姿を目にすることも日常茶飯事だ。また、管理者の住友不動産は近隣の企業とも連携し、イベントの開催スペースとしても活用している。
緑化で物件の不動産価値を高める
公開空地の有用性に目を付けたのは、住友不動産ばかりではない。森ビルも公開空地を積極的に活用する動きを見せている。六本木ヒルズを皮切りに、森ビルは建物づくりから街づくりへと事業の柱をシフトさせてきた。単に高いビルを建てるのではなく、街全体のグランドデザインを描くようになった。
森ビルが、特に公開空地を意識したのが虎ノ門ヒルズだ。ここには公園が併設されていると錯覚するかのような広い公開空地がある。東京のど真ん中とは思えないほど緑がたくさん植栽されており、おしゃれなベンチが設置されている。食べ物や飲み物を持ち込むことも可能だ。
「森ビルが公開空地を積極的につくるようになったのは、2011年に就任した辻慎吾社長の意向が大きく影響しています。辻社長は就任する以前から緑化にこだわりを持っていました。緑化を実現するためには、広い公開空地が必要です。虎ノ門ヒルズの記者発表でも辻社長は緑化を強調しましたが、緑化を推進した結果として、広大な公開空地が生まれたのです」(森ビル社員)
かつて経済効率性の観点から、都市開発事業者は公開空地を「無駄な空間」「不経済」と切り捨ててきた。そうした効率を重視する都市開発の方針が根強かったこともあり、公開空地は拡大しなかった。しかし、土地余りの状況に直面し、そうした意識にも変化が出てきている。森ビルは公開空地を積極的につくり、そこを緑化することで自社物件の不動産価値を高めることに成功した。
森ビルの公開空地の活用と緑化推進に対して、こうやっかむ同業者もいる。
「森ビルが広大な公開空地を設けられるのも、そしてそこを緑化できるのも敷地に余裕があるからだ。その広大な敷地を確保できるのも、莫大な資金があるからだ。森ビルの緑化は、金が金を生み出す “緑の錬金術”」(不動産会社社員)
しかし、森ビルが先鞭をつけた公開空地の活用と緑化への取り組みは、おおむね好意的に受け止められている。それどころか、各社は追随するように公開空地の活用と緑化に取り組み始めた。2013年には、東京建物と大成建設がタッグを組んだ大手町タワーの公開空地に約3600平方メートルの“大手町の森”が造成された。18年には、東京・日比谷に誕生した東京ミッドタウン日比谷でも広大な公開空地を設け、積極的に緑化されている。
大負動産時代を迎える今、不動産業者・都市開発事業者は公開空地と緑化を武器にして、街の活性化を模索している。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)