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なぜ成城ブランドは凋落したのか?高級住宅街の地位陥落、賃貸アパート乱立の理由

文=中村未来/清談社
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なぜ成城ブランドは凋落したのか?高級住宅街の地位陥落、賃貸アパート乱立の理由の画像1世田谷区成城の成城大学(「Wikipedia」より/Seijokoho)

「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/2018年2月3日号)に、「成城ブランド」に関する興味深い記事が掲載された。

 世田谷区成城といえば、小田急小田原線の「成城学園前」を最寄り駅とし、古くからお屋敷街として知られる高級住宅街だ。静かで落ち着いたエリアには豪邸が立ち並び、有名人も多く住むといわれている。

 ところが、記事によると、その高級住宅街に不釣り合いな賃貸アパートが複数建設されているという。それも、小さい部屋なら居室面積がわずか2畳半という極小アパートなのだ。

 成城で今、何が起きているのか。不動産コンサルタントの青山一広氏に話を聞いた。

もはや「高級住宅街」の地位から陥落した成城

 成城は、高級住宅街としての歴史とブランドを誇ってきた街だ。しかし、青山氏は「今もそのブランドが保たれているかというと、決してそんなことはないと思います」と指摘する。

 そもそも、一見ふさわしくない狭いアパートの建設が進んでいるのも、成城が「高級住宅街の地位から陥落したのが原因」(青山氏)という。

 たとえば、成城ブランドの凋落の一端がわかるのが地価だ。都内には高級住宅街と呼ばれる地域がいくつもあるが、国土交通省の最新の地価公示(2018年)を見ると、都内の住宅地でもっとも地価が高いのは港区赤坂1丁目14番地。以下、港区白金台、港区南麻布、港区元麻布、渋谷区恵比寿西、目黒区青葉台などが続き、世田谷区成城は上位50にも出てこない。

 世田谷区内に限っても、三軒茶屋2丁目28番地、等々力6丁目13番地に続いて、成城6丁目32番地がようやく3位に食い込んでいる。しかも、1平方メートル当たりの価格は三軒茶屋と比べて文字通りひとケタ違うのだ。

 成城や大田区田園調布などの住宅街の地価が高かったのは、「都心から少し離れた閑静な住宅地」という点に価値があったからだ。しかし、今の社会で増えているのは単身世帯で、そうなると成城などよりも都心から近い港区のタワーマンションのほうが利便性は高い。

 つまり、「高級住宅街」という概念自体が時代によって変わっていくということだ。

「そうはいっても、世間的にはまだ成城のイメージは抜群で、治安もいい。それなのに土地が安かったら、どうなるでしょうか? 不動産業者がそこにアパートを建てるはずです。高級なイメージがある場所に安く住めるのなら、『そこに住みたい』というニーズが当然高まります。成城に2畳半のアパートが建てられている背景には、そういう事情があるのでしょう」(同)

 不動産は、区画を細かく切るほどうまみが増すビジネスだ。同じ坪数の土地なら、4部屋ではなく10部屋のアパートを建てるほうが家賃収入は上がる。問題になった女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」も、この “細切れアパート”の典型的なケースだった。

 もっとも、実際の入居率については「はっきりいって未知数です」と青山氏は語る。

「『かぼちゃの馬車』のトラブルは運営会社のずさんな経営方針が招いたものだと思いますが、入居率が予想よりはるかに低かったことも、破綻を早めた一因でした。どんなに利便性が良くイメージのいいエリアであっても、狭い部屋に何年も住み続ける人は多くありません。学生の間だけ、あるいは上京して就職が決まるまでの数カ月間限定など、短期間の住まいにする人がほとんどです」(同)

高級住宅街の頂点に君臨する芦屋の六麓荘町

 一方、2畳半アパートの建設によってブランド価値を脅かされている成城では、住民たちが反対運動を展開している。成城には「成城憲章」という町内会独自のルールがあり、これを盾に賃貸アパートの乱立に反対しているのだ。

 しかし、青山氏によると、この反対運動の効力については疑問が残るという。

「成城憲章は単なる町内会の決めごとにすぎず、法的にはなんの効力も持ちません。地域住民には気の毒な話ですが、いくら反対しようと、法律違反にならなければ基本的には無視しても問題はないのです」(同)

 もはや成城ブランドの凋落になす術がないといった状況なのか。前述したように、この時代の移り変わりによる概念の変化はすべての高級住宅街に当てはまる。

 ただし、唯一の例外といえるのが兵庫県芦屋市の六麓荘町。青山氏は「日本で今、高級住宅街として認められるのは六麓荘町だけと思われます」と指摘する。

 高級住宅街として全国的に知られる芦屋のなかでも、六麓荘町はその頂点に君臨する別格のエリアだ。六麓荘町には独自の建築協定があり、住宅はすべて戸建て、それも400平方メートル以上でなければならない。

 新たに家を建てる際は地域住民を集めた説明会を開催する必要があり、住民になれば町内会の入会賛助金として50万円が必要だという。なぜ、六麓荘町にはそんな決まりが存在するのだろうか。

「六麓荘町では、昔から住民たちが率先して町づくりを行ってきました。景観を損なうような信号や電柱は一切なく、営業活動を排除するため、コンビニや商店街もありません。こうしたルールはすべて条例として定められているので、勝手に信号をつくるのは法律違反になります。高級住宅街というカテゴリを条例で守っているのは、日本では六麓荘町のほかにないと思います」(同)

 実は、海外では高級住宅街の景観が厳格な条例によって守られるのは珍しいことではない。日本でも京都が景観維持に努力しているが、京都は住宅地ではなく、あくまでも観光地だ。

 つまり、今は高級住宅街として人気の南麻布や広尾にも、こうした条例がない以上、成城のように2畳半のアパートが建てられる可能性があるというわけだ。

「住宅地としての価値を本気で維持していきたいと思うなら、地域住民が自主的かつ積極的に行政などに働きかける必要があります。それができないなら、やはり時代の変化を受け入れて生活していくしかありません」(同)

 街の価値は、時代やライフスタイルの変化によって刻々と変わっていく。それなら、変化に抵抗することにエネルギーを注ぐより、「変化をどう受け入れるか」という点を考えたほうがいいのかもしれない。
(文=中村未来/清談社)

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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