通勤や通学の利便性、生活のしやすさ、地域の治安、そして物件のスペックなど、マンション選びの判断材料は人によって異なる。
人それぞれのマンション選びについて、著書『マンションは学区で選びなさい』(小学館)で「人気学区」と「世帯年収」の相関関係を明らかにしたのが、不動産コンサルタントの沖有人氏だ。
年収の高い地域の小学校は学力が高い?
本書は「学区と世帯年収の相関関係」について書かれた本だ。
小学校就学前の子どもを持つ親が読めば「年収の高い地域に住まいを移したい」と思うかもしれないし、すでに小学校に子どもを通わせている親からすれば、「うちが住んでいるエリアは世帯年収が低いのか」と憤るかもしれない。いずれにせよ、本書は誰が読んでも興味深い内容になっている。
「公立小学校の人気度は、これまで口コミに頼るほかありませんでした。そこに『学区年収』という指標を導き出して紹介したのが、この本です」(沖氏)
たとえば、第二章の【学区と年収の相関関係】では、東京23区それぞれの年収上位校が紹介されている。千代田区を例に挙げると、1位が番町小学校(平均世帯年収1151万円)、2位が麹町小学校(同1108万円)、3位が九段小学校(同1032万円)という具合だ。ちなみに、23区全体のトップは港区立南山小学校(同1409万円)で、2位が千代田区立番町小学校、3位が渋谷区立神宮前小学校(同1067万円)となっている。
やはりというべきか、有名で人気の高い公立小学校に通っている家庭ほど世帯年収も高い。ただし、見るべきポイントはそこだけではない。世帯年収の高い小学校は教育水準が高いということも、沖氏の調査で明らかになっている。
「各地域の学習塾には、それぞれの小学校の学力レベルをランク付けしたデータがあります。それを独自に入手し照らし合わせてみると、世帯年収の高い小学校ほど学力レベルが高いことがわかりました。子どもにより良い教育環境を与えたいのであれば、『学区年収』という材料がいかに重要かがわかると思います」(同)
これまで、多くの人がなんとなく抱いていたであろう「お金持ちの多い地域=優秀な小学校がある」というイメージが、本書によって立証されたわけだ。
子どもの教育のために引っ越す「公立小移民」
希望する公立小学校に通わせるために当該学区内に引っ越す世帯のことを、「公立小移民」と呼ぶ。本書でも触れられているが、沖氏自身も子どもの就学を考えて引っ越しを決めた公立小移民のひとりだ。
「目当ての小学校に入れるために引っ越しをするのは、今や珍しいことではありません。公立小移民の予備軍は年間1~2万人いると推測されています。また、子どもの教育環境のために引っ越したものの、『住んでみたら、すごく住み心地が良かった』というケースもよくあります。その地域には考え方が似ている人が集まっているわけで、当然といえば当然かもしれません」(同)
『マンションは学区で選びなさい』 「公立小移民」という言葉を知っているだろうか。人気公立小学校の学区に引っ越す家族のことを指し、子どもによりよい教育環境を与えたい「孟母三遷」な親ならでは選択と言える。これまで人気学区は口コミに頼る部分が多かったが、「学区と世帯年収」という新たな指標を与えるのが本書だ。人気学区のマンションは多くの場合、需要が供給を上回るため、資産性が高い。“教育環境がよいほど資産性が高くなるマンション格差の法則”をひもとく一冊。