さまざまな企業やメディアが毎年発表する「住みたい街ランキング」。このランキングに登場する街は周辺の地価や家賃相場が上昇する傾向にあり、その影響力が大きいことでも知られる。
同ランキングにはさまざまな種類があるが、もっとも有名なのがリクルート住まいカンパニーが運営する不動産・住宅情報サイト、「SUUMO」が発表する「みんなが選んだ住みたい街ランキング」だろう。関東版と関西版が毎年発表されており、「2016年関東版」では、それまで5年連続1位だった「吉祥寺」が首位から陥落したことが大きなニュースとなった。
しかし、この首位陥落は、吉祥寺を超える魅力のある街が急に現れたからではない。住みたい街ランキングの上位にランクインしたといっても、実際にはそれほど住みやすい街ではないことに住民が気付き始めたためでもあるのだ。
そこで、実際に住みたいランキング上位の「ブランドタウン」に足を運んで住民たちの生の声を拾い、それぞれの「住みにくさ」を調査した。
4位(同率)「自由が丘」
1980年代頃から、そのおしゃれでハイソサエティなイメージによって、「憧れの街」の名をほしいままにしてきたのが、東京・自由が丘だ。近くには高級住宅街の田園調布があり、東急東横線を使えば渋谷などへのアクセスもいい。「静かに心地よく暮らすには一番」(50代・女性)と、特に富裕層からの人気が高いとされる。
ところが、現地の声を拾ってみると「いうほどおしゃれではない。老人が多い」(20代・男性)、「年季の入った古臭いエリアも多いので、服を買おうとすると『おしゃれかダサいか』の二択を迫られる」(30代・男性)と、住民の高齢化がおしゃれ度に影を落としつつある現状が読み取れる。
なかには、「もともと住んでいる住民には品があるが、休日になると大井町線沿いに住んでいる“田舎者”が押し寄せてきて民度が下がる」(30代・女性)、「街路樹とベンチのある道はきれいだけど、夜は酔っぱらいや若者が寝ていたりして怖い」(20代・女性)など、おしゃれではない人たちがはみ出してしまう傾向にもあるようだ。
そして、自由が丘の住民に最も多かったのが、買い物の不便さを指摘する声だ。
「生鮮品を売っているスーパーが少ないので、毎日の買い物に困る」(30代・女性)、「街が水平に広がっているので、何を買うにもけっこう歩く。駅の反対側に行くだけで一苦労」(40代・男性)と、商業ビルなどがほとんどなく、ワンストップで買い物が済ませられない土地柄は相当不便らしい。
加えて深刻なのは、アクセスの悪さである。「渋谷駅の構造が変わって、乗り換えが本当に不便になった。都心に出る時は、なるべくほかの経路で行くようにしている」(50代・男性)と、東横線の改悪には、多くの住民が不満を漏らしていた。
4位(同率)「武蔵小杉」
神奈川・武蔵小杉は、タワーマンションが立ち並ぶなど、近年大きな注目を集めているエリアである。
駅直結の「武蔵小杉東急スクエア」、三井ショッピングパークの「ららテラス武蔵小杉」、「グランツリー武蔵小杉」と大型商業施設も多く、小さな子供がいる世帯には特におすすめといわれている。
しかし、「単なる地方都市と変わらない」(30代・女性)、「最近住み始めた人ばかりで、人間関係が希薄。そんな現状をどうにかしようと、自治会やご近所付き合いサークルが活発だったりするのが気持ち悪い」(30代・男性)など、ニュータウンならではの荒涼とした雰囲気が漂っているようだ。
また、武蔵小杉は東横線とJRが乗り入れているため交通の便がいいとされているが、JR横須賀線の武蔵小杉~西大井間は、東京の通勤時間混雑率ランキングで第4位に輝く不快エリア。混雑率193%という異常な混み具合で、ここから毎日通っているビジネスパーソンのストレスは計り知れない。
3位「横浜」
栄えあるベスト3は神奈川・横浜からだ。「横浜」と聞くと、多くの人が異国情緒溢れる街並やきらびやかな雰囲気の「みなとみらい」をイメージするだろう。
しかし、そうしたエリアは横浜のごくごく一部でしかない。それ以外の横浜には、労働者が多く住む下町か取ってつけたように開発されたニュータウンが広がっている。
「観光地以外はおしゃれ感はなく、どこも殺伐とした雰囲気」(20代・女性)、「大型商業施設はたくさんあるけど、似たような店ばかりで飽きる」(30代・男性)と、大型化した街ならではの乾いた印象が強いようだ。「近づくとヤバいエリアがけっこうある」(20代・女性)、「夜は真っ暗」(30代・男性)など、治安の悪さを指摘する住民も多い。
「観光地から離れたところに住んでいるのに、友達が来るたびに中華街やみなとみらいを案内しなきゃいけなくて面倒」(40代・男性)と、観光地ならではの面倒くささもあるという。やはり、観光地には、住むのではなくたまに遊びに行く程度がちょうどよさそうだ。
2位「吉祥寺」
5年連続で1位に選ばれた東京・吉祥寺だったが、今年は2位に陥落。とはいえ、庶民的な商店街と井の頭恩賜公園という2大セールスポイントは健在で、トップランクの「住みたい街」であることには変わりない。
しかし、住民の声を聞くと、「庶民的なのはいいが、家賃が高い」(20代・男性)、「安い物件を探すと、ボロボロの木造アパートしかない」(30代・男性)と、街の雰囲気にくらべて家賃が高騰していることに不満を持つ住民が多い。吉祥寺のファミリータイプの新築マンションの相場価格は8000万円ほどで、これを妥当と感じられるかどうかがポイントだ。
「友達には『吉祥寺に住んでる』と言っているけど、駅からバスや自転車に乗らないとたどり着けない距離」(20代・女性)という“なんちゃって吉祥寺”住民も多かった。
また、吉祥寺といえばアクセスも便利に思えるが、メインの足はJR中央線で、中野~新宿間は乗車率194%で混雑ランキング3位だ。しかも、「『人身事故』ですぐに止まったり遅れたりするので、急いでいるときはあてにならない」(30代・男性)と、中央線そのものも評価が低い。
さらに、「休日になると商店街も公園も人があふれるので、土日は外に出ないようにしている」(40代・男性)など、まさに本末転倒である。
1位「恵比寿」
今年、吉祥寺から首位の座を奪い取ったのが東京・恵比寿だ。おしゃれで商業施設も充実し、美食も集まるということで、特に30代以上の支持を集めた。渋谷の隣駅で交通アクセスも充実と、まさに憧れの都会暮らしを叶えてくれる街なのだ。
それだけに家賃相場も都内トップクラスで、実にワンルームマンションの平均家賃は11万8000円。そもそも住居自体が少ないので、自分好みの物件を選ぶのも難しいという。
そして、「買い物も不便だし、住むには向いてない街」(30代・男性)、「マンションに住んでいるが、ほかの住民は何をしているかわからない怪しい人ばかり」(20代・女性)と、「恵比寿」というブランドに引き寄せられる人も限定されるようだ。
なかでも多く聞かれたのが、「代官山も近いけど歩くには遠いし、交通機関を使うにも中途半端な距離なので行かなくなる。渋谷も同様の理由で行かない」(30代・男性)、「用がないので、住んでから一度も恵比寿ガーデンプレイスに行ってない」(40代・男性)など、どこからも近そうで、その実、微妙に距離がある場所ということ。こうした事情も、住んでから気付く人が多い。
そもそも、このランキングは関東圏在住の20~49歳の男女にアンケートを取って集計したもの。多くの人は、実際に自分が住むことを考えてアンケートに答えたわけではないと思われる。つまり、「住みたい街ランキング」といいながら、その実態は、単なるイメージ調査になってしまっているのである。
最後に、今回の現地調査で住民たちから一番よく聞いたのが、「遊びに行きたい街と住みたい街は違う」という声だったことを付記しておく。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)