ある不動産鑑定士のX(旧Twitter)ユーザが少し前、<人間関係の構築が苦手な人で、事務所で誰とも喋らず、黙々と作業するのが得意な人は開業鑑定士に向いてます><役所からも案件が降ってくるんで、営業しなくてもある程度は食えます>とポストし、一部で話題を呼んでいる。不動産鑑定士とはどのような仕事内容で、どのような魅力があるのか。そして、自発的に仕事を獲得する努力をしなくても食べていける資格だというのは本当なのか。現役の不動産鑑定士は「開業してすぐに年収1000万円になるのは、それほど難しくない」と言うが、その実態を追ってみたい。
司法試験、公認会計士と並び文系の3大資格とされる不動産鑑定士。土地や建物などの不動産の価値について鑑定評価を行い「不動産鑑定評価書」を作成するのが主な業務。不動産鑑定評価書は、国土交通省が公表する地価公示のほか、相続税路線価・固定資産税路線価の算出、再開発のための土地収用、自治体による道路用地の買収、競売などで必要となる書類で、法律により作成は不動産鑑定士だけに認められている独占業務となっている。
「地方の場合は不動産鑑定士の絶対数が少ないため、基本的には行政機関から受ける仕事だけで十分な収入が得られるといわれています。一方、東京や大阪など都市圏は不動産鑑定士の数が多いため、行政から受ける仕事に加えて銀行、信託銀行といった金融機関や弁護士、税理士などからも仕事を受けるのが一般的です。弁護士から依頼される業務としては、物件の貸主と借主が賃料をめぐり係争となった事案で不動産の鑑定を行ったり、税理士からの業務としては、贈与税・相続税対策の案件で鑑定を行ったりといった内容です。このほか、大きな案件としてはREIT物件の評価がありますが、信用力が求められるため大手の不動産鑑定事務所が手掛けるケースが多いです」
不動産鑑定士になるには
不動産鑑定士試験の難易度は高い。資格取得に必要な勉強期間は最低1~2年とされ、短答式試験、論文式試験、実務修習の修了考査の3つに合格する必要がある。短答式試験の出題科目は「不動産に関する行政法規(行政法規)」「不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)」の2つでマークシート式。合格率は例年30%台。論文式試験の出題科目は「鑑定理論」「民法」「経済学」「会計学」の4つで、合格率は例年10%台と低い。大手資格スクール「TAC」の公式サイトによれば、論文式試験の合格の目安は得点率60%以上、受験生の上位15%以内であり、各科目で一定水準の点数が取れなかった場合は足切りされてしまう可能性があるという。論文式試験合格後は1~2年の実務修習を修了する必要があり、講義、基本演習、実地演習を経て修了考査に合格する必要がある。
不動産鑑定士試験の特徴は合格者の少なさにある。ここ数年の論文式試験の合格者は130~140人台。合格科目が5科目に達して資格を取得する者が年間600人程度の税理士と比較しても圧倒的に少ない。令和5年4月時点における日本不動産鑑定士協会連合会の会員数は5022人であり、約8万人いるとされる税理士と比較しても絶対数の少なさが際立つ。
「短答式・論文式試験の難易度は低くはなく、実務修習も含めると資格取得まで非常に時間がかかるものの、何年も勉強しても合格できないケースも珍しくない司法試験や公認会計士試験と異なり、きちんと勉強すれば基本的には合格できると思います。銀行や信託銀行、不動産会社の社員が業務上の必要から取得を目指すケースや、不動産に興味がある異業種の方が受験するケースなどがあります」(浅井氏)
対人的な煩わしさが少ない
不動産鑑定士という資格の魅力とは何か。
「不動産鑑定士の人数が少なく希少性があり、不動産鑑定士しかできない業務が多いため仕事を得やすく、開業のハードルが低い面はあると思います。その点は、人数が多くて競争が激しい税理士などとは異なる点でしょう。先ほど東京などの都市圏では弁護士や税理士、金融機関とのコネクションづくりを行う必要があると申しましたが、不動産鑑定士が求められる場面は多いため取引先を確保するためにものすごく苦労するということは少ないと思います。
また、個人顧客から直接、業務を受けるというケースは非常に少なく、取引先は行政機関や金融機関、弁護士事務所などがメインとなるので、やりとりにおいて対人的な煩わしさやトラブルが生じることも少ないです。自宅で業務ができるので、子育て中の女性などにも向いている資格だと個人的には感じます」
気になるのが収入面だ。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2019年発表)によると、不動産鑑定士の平均年収は約754万円となっている。
「締め切りに厳しい業界のため、時期によっては多くの業務をこなさなければならず長時間労働になることもありますが、開業して年収1000万円というのは難しくはありません」(浅井氏)
(文=Business Journal編集部、協力=浅井佐知子/浅井佐知子不動産鑑定事務所代表)