「タワマン破産」というパワーワードがここ数カ月、ネット上をにぎわしている。きっかけは日本銀行が7月に利上げを決定したことだ。約25年にわたって続いてきた超低金利のなかで、多額の住宅ローンを組んでマイホームを購入した人も多いだろう。しかし、日銀が利上げを決定し、さらに今後も追加で利上げしていく方針を発表したことで、住宅ローンの金利も上がることが懸念されている。実際に住宅ローン金利はいつから、どの程度上がるのか。何か対策はとるべきなのか。ファイナンシャルプランナーに話を聞いた。
1999年頃に日銀が政策金利を0%にして以来、ゼロ金利もしくはマイナス金利が約25年にわたって続き、「お金は借りられるだけ借りたほうがトク」という考え方も広まり、頭金がほとんどなくてもローンを組んで住宅を購入する人が続出した。一部の不動産会社では、20代でもフルローンを組んでマンションを買うことができるとの触れ込みで、貯金がない若者にも住宅を販売してきた。なかには、住宅資金以上の借り入れを行うオーバーローンを組んで購入する人もいる。
賃貸住宅で家賃を払うよりも、同じくらいの返済額でマイホームを購入できるとの謳い文句で営業されることも多く、さらに少ない利息や住宅ローン控除などのメリットも享受できることから、返済できるギリギリの金額設定でローンを組んでいる人もいるようだ。
だが、日銀が7月31日に政策金利の利上げを決定すると、金融市場には大きな動揺が走り、円高・株安が急速に進んだ。8月5日には1987年10月に始まった世界大恐慌の引き金であるブラックマンデーを超える株価の急落を引き起こした。同時に、銀行から融資を受けている企業や住宅ローンを組んでいる人たちの間で、ローン金利の引き上げを懸念する声が続出した。
政策金利が上がったからといって、すぐに翌月からローン金利が上がるようなものではないが、さまざまな物価が高騰するなかで返済額も上がると家計が圧迫され、なかには返済が苦しくなるケースも出てくるだろう。住宅資金は金額が大きいため、わずかな金利変動でも大きな影響を受ける。仮に3000万円を35年ローンで借り入れていた場合、0.1%金利が上がると1500円ほど月々の返済額が増える。日銀としては「2026年度までの見通し期間の後半には、少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが必要」との見解を示しており、ローンを組んでいる多くの家庭で現在より1万円を超えて返済額が増える可能性がある。
「タワマン破産」の連鎖は現実に起こる?
そんななかで、タワーマンションを購入した人々が戦々恐々としているとの声が聞こえてくる。最近のタワーマンションは1億円を超える物件も少なくなく、返済額は大幅に増えることが予想される。
不動産経済研究所によると、東京23区の平均価格は1億874万円で前年同月比18.5%減、平米単価は167.0万円で12.9%減と下落傾向にあるものの、平均で1億超えは続いている。
1億円を超えるとなれば、当然、利上げによって受ける影響も大きい。なかには返済に苦慮し、物件を手放したり、破産したりするケースも出てくるのではないか、と懸念する向きが「タワマン破産」が続出する可能性があるとX上でつぶやいたところ、SNSを中心に大きな注目を集めた。
そこで、ファイナンシャルプランナーの高山一惠氏に、住宅ローン金利の上昇の見通しと、ローンを組んでいる方がとるべき対策について話を聞いた。
――「タワマン破産」というワードが関心を集めています。金利は近いうちに上がるのでしょうか。
高山氏「金利は上昇傾向にありますが、当面、大幅な上昇はしないとみられています。銀行の住宅ローン関係の勉強会などに参加しているのですが、多くの銀行でも政策金利が上がったからといって、急激に金利は上げられないとの見解のようです。それは現在、借り入れをしている方の負担を急に増やすことはできないのはもちろん、新規顧客を獲得するためにも、今までと大きく金利を変えることが難しいという事情もあります」
――急激に上がらないとはいえ、上昇傾向にあるなか、取るべき対策などはあるでしょうか。
高山氏「たとえば、慌てて繰り上げ返済などはしなくていいのではないでしょうか。金利がすぐに大幅に上がるわけではないので、もうしばらく様子を見ても大丈夫だと思います。変動金利にしている場合でも、『5年間は返済額が変わらない』『金利が大幅に上昇したとしても、月々の返済額は、前回の返済額の1.25倍までしか増えない』といったルールがあるので、いきなり何万円も返済額が増えるといったことにはなりません。ただ、5年間返済額が変わらないケースでも、半年に一度、利息の見直しは行われているので、返済期間中に元本と利息の割合は変わっています。しかし返済額が変わらないと、その変化に気づけないというリスクはあります。金利上昇時は、元金の返済に当てられる割合が減り、利息を支払う割合が増えるので、結果として元金の減りが遅くなります。
慌てて繰り上げ返済などは必要ないと申しましたが、いざという時に備えられるように、家計を見直して支出を抑えたり、貯蓄を増やすなど、余力をつくる努力はしておいたほうがいいと思います」
返済能力ギリギリの場合
――返済額を自身の支払い能力ギリギリでローンを組んでいるケースもあると思います。そのような方に対しては、どのようなアドバイスをされますか。
高山氏「家計の見直しで支出を減らせない場合や、そもそも返済額がギリギリの方は、収入を増やすことを模索したほうがいいかもしれません。大幅な金利上昇までは時間があると思うので、その間になんらかの対策を考えるべきでしょう。
夫婦ともに平均収入を超える、いわゆる“パワーカップル”の場合、返済能力も高く、タワマンなど高額な物件を購入しているケースがよくあります。しかし、そのようなパワーカップルの場合、住宅費のみならず、教育費などにも多額の資金を投入していたり、高級車などの資産に対してもお金をかけている傾向があります。もし収入をあまり増やせないのであれば、優先順位をつけて家計を見直し、支出を減らしていくしかありません」
――自分の住居としてではなく、投資用として不動産を購入している場合、売却などを検討したほうがいいでしょうか。
高山氏「エリアによって対策は異なると思います。好立地の物件であれば、とても有利な条件で売り抜けている方も多く見受けます。見積もりをとってみて、高く売れそうなのか、今後価格が上昇するのか、下落するのかなど、確認しておくといいでしょう」
金利が上がるとの情報に慌てるのではなく、今後訪れる金利上昇に備え、家計を見直して支出を抑え、貯蓄を増やしたり、収入を増やすことを模索するといった対策をしておくことが何よりも大切ということだ。
(文=Business Journal編集部、協力=高山一惠/ファイナンシャルプランナー)