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武蔵小杉タワマン、修繕積立金の運用で多額利益、追随すべき?高いリスクと障害

文=Business Journal編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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「Getty Images」より

 神奈川県川崎市のタワーマンションの管理組合が、住民の修繕積立金を運用し、2億4000万円の利益を出したと報じられ、話題になっている。修繕積立金を運用する例は極めて少ないが、運用するためのハードルは高いのだろうか。専門家は、乗り越えるべき障壁について、「住民の合意を取ること」と語る。

 朝日新聞出版のニュース・情報サイト「AERAdot.」は8月16日付記事で、神奈川県川崎市のタワーマンション「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」が、修繕積立金を運用して巨額の利益を出したと報じた。

 記事によると、同マンションは敷地内駐車場を「外部貸し」するなどの実物資産運用と、修繕積立金を原資とした金融資産運用による利益を合わせ、15年間で約2億4000万円の利益を出したという。

 分譲マンションを購入すると、建物の壁や屋上、エントランスなど共用部分を維持・修繕するために定期的に行われる大規模修繕等に要する資金として、毎月一定額を積み立てるのが一般的だ。だが、昨今の建築資材や設備機器、人件費の高騰を受けて、多くのマンションが積立金では修繕費をまかないきれないといわれている。

 そんななかで、積立金を運用して利益を出した事例は、他のマンション組合にも少なからず影響を与えそうだ。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏は、武蔵小杉ミッドスカイタワーのような資産運用は異例だと話す。

「武蔵小杉ミッドスカイタワーのように積立金を運用して大きな利益を出すのは、極めて異例です。だからこそニュースとして報じられたのだと思います」(牧野氏)

 あまり例がないということは、運用するためのハードルが高いのだろうか。

「積立金の運用について、管理規約に特段の定めがない限りは制約があるわけではないのですが、住民の方々から管理組合が毎月徴収するものなので、万が一損失を出すようなことがあると大変です。そのため、多くの管理組合では低金利でも普通預金や定期預金に置いている、というのが実態です」(同)

積立金を運用するために乗り越えるべきハードルとは

 積立金を運用して利益を出すという事例が生まれたことで、追随する動きは出てくるのだろうか。または、ゼロ金利政策が解除されたことで、銀行に預けたままにしようとするのだろうか。

「ゼロ金利政策が解除されたとはいえ、金利が低いことに変わりはないので、武蔵小杉ミッドスカイタワーに触発されて運用してみようという動きが出てくる可能性はあると思います。国土交通省が5年に1回、マンション総合調査を行っておりますが、令和5年の調査結果によると、77%が普通預金、35%が定期預金、住宅金融支援機構のす・まいる債への運用が19%となっています(複数回答)。

 建築費が高騰していることは周知のとおりですが、合わせてマンションなどの修繕費用や工事を担当する人件費なども大幅に高くなっています。さらに、設備を更新するための費用も値上がりしています。たとえば、エレベーターは30年ほどで取り換えるのですが、なかには交換をあきらめる組合も出てきています。積立金の増額を検討すると同時に、運用も検討しないといけない状況になってきています」(同)

 運用して元本割れした場合などについて、どのようにリスク管理すべきだろうか。

「武蔵小杉ミッドスカイタワーのようなタワーマンションの場合、戸数が多く、まとまった金額の積立金があるので投資対象が多く、投資をしやすいという事情はありますが、一般のマンションでは投資して多額の利益を出すのは難しいでしょう。低リスクの投資であればリターンも小さくなりますし、株式などハイリターンの投資先であればリスクも高くなるので積立金をつぎ込む先としてはふさわしくないでしょう。修繕をする時期に確実に利益を手元に残すということを考えると、投資先は必然的に絞られてきます」(同)

 今後、運用を検討しようとする際に、管理組合が乗り越えるべき障壁としてはどのようなことが考えられるだろうか。

「まず住民の合意をどのように取るか、という点が大きいでしょう。個人で株式運用などをしている方もいれば、投資についてまったく経験や知識がない方もいるでしょう。そのようななかで、リスクを理解してもらって合意を取るのは、やさしくないと思います。たとえば、運用することについて合意がとれたとしても、運用しているなかで相場が悪くなってきた場合に、投資先を変えるといった判断を誰がするのかといったことについて、住民の合意を取るのは難しいのではないでしょうか」(同)

 そうすると、武蔵小杉ミッドスカイタワーで2億円超の利益がでたからといって、簡単にマネできるものではないのだろうか。

「投資は慎重になるべきですが、今のところほとんどのマンションの管理組合で、投資ルールはフリーの状態といえるわけで、たとえば投資コンサルタントを名乗る人物が投資詐欺をもちかけるようなケースが考えられます。そこで、行政に対策を立ててほしいところです。

 今年6月、国土交通省が安定的なマンションの長期修繕計画のためとして、修繕積立金に関するガイドラインを示していますが、個人的には“運用のガイドライン”も設けるべきではないかと考えています」(同)

 資材や人件費が高騰し、多くのマンションで積立金の不足が想定されていることから、社会問題になる前に、国や自治体が運用に関してガイドラインを示すべきなのは確かだろう。

(文=Business Journal編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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