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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

地方タワーマンション、低~高層階は誰が買っているのか…その未来は暗い理由

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
地方タワーマンション、低~高層階は誰が買っているのか…その未来は暗い理由の画像1
「gettyimages」より

 タワーマンション(タワマン)というと、東京や大阪といった大都市に建っているというイメージが強いが、最近では地方都市でも数多くのタワマンが供給されている。不動産経済研究所の調査によれば、首都圏および近畿圏以外で供給される階数が20階以上のタワマン戸数は、2022年で15棟2695戸。国全体で供給されるタワマン戸数の32.7%を占めている。

 地方でのタワマン供給は今に始まった話ではなく、13年から22年の10年間で126棟、2万4507戸が売り出されている。今後の供給計画をみても23年以降、判明しているだけで69棟、1万2956戸におよぶ。地方タワマンの供給割合は年々高まっており、今や地方都市でも主要な駅前などを中心にタワマンは珍しい存在ではなくなってきている。背景には全国的に地価と建設費が上昇を続けるなかで、ディベロッパーの多くが都心部での開発をあきらめ、地方でのタワマン開発に精力を注いでいることがある。

地方タワマンの買い手

 販売業者によると、人口減少が続く地方都市で増え続ける地方タワマンの買い手は主に3つの客層に分かれるのだという。高齢化が進む地方都市では、郊外に広がった住宅地から地方都市中心部に人口が回帰する現象が起こっている。これはコンパクト化現象と呼ばれるもので、現役のときに地方郊外に戸建ての家を買い求めた層が、高齢になって車の運転も不自由になり利便性の高い中心部で、家の管理も楽なマンションに積極的に居を移すかたちだ。ただ、地方タワマンは一般的なマンションよりも分譲価格が2~3割高くなる傾向にあるので、価格が比較的割安な低層階の住戸を購入するケースが多い。彼らにとっては普段見慣れた景観を楽しむというよりも、都市中心部に住む利便性を重視しているといえよう。

 もうひとつの顧客層が首都圏や近畿圏に住む人たちだ。最近は二拠点居住、多拠点居住を実践する人たちが増えている。かといってあまり地縁のない場所の戸建て住宅では、家の管理が大変だ。そこで地方のタワマンを買い、週末居住やリモートワークに活用するケースだ。もちろん、大都市圏のマンションに比べれば価格は割安なので、今買って数年後に売却して利益を得ようと考える投資目線があることも含まれる。ある程度の見晴らしが確保できればよく、マンションを起点としてエリア全体を楽しみたい人たちなので、手ごろな価格の中層階の住戸を買い求める傾向がある。また、東京や大阪に転出することなく、地方都市の主に第3次産業の職を得た人が、同じ市内に住む親とは同居せずに利便性の高いタワマンの中層階の住戸を選ぶケースも多いという。

地方タワマンの上層部を買う人々

 それでは地方タワマンの上層部を買っているのは、いったい誰なのだろうか。地方タワマンの物件案内をみると、上層階は部屋が広めに作られているケースが多い。特に最上階はフロアに2戸から3戸程度の住戸しかなく、面積も100平方メートル(30坪)を超えるような仕様になっている。また販売価格も高層階にいくほど高くなり、一戸当たり1億円を超えることも珍しくない。

 ある地方都市に講演のため出張した時の話だ。講演が終わって地元の複数の有力者との懇親会に出席した。この街では最近、大手ディベロッパーが手掛ける地上30数階建てのタワマン分譲が行われる予定で、すでにモデルルームもオープンし、街の話題を独占しているとのことだった。販売は順調との話だったが、地元の人たちの話題はもっぱら、最上階の住戸を誰が買うのかという点だった。

「やっぱり、あの部屋は○○会社の社長が買うのに決まっている」
「いやいや、俺は△△会社の会長が狙っていると聞いたぞ」

 ここで名が挙がるのは、いずれもその地方を代表する会社のオーナーたちだ。オーナーはいずれも地元の出身で、多くは豪壮な邸宅を構えている。わざわざタワマンを買って引っ越すわけではない。彼らが買う目的は、ずばり「天下をとる」ことだ。地方のなかで自分が一番稼いでいる、あるいは地域のナンバーワン、名士であることの象徴としてタワマン最上階を買い求めるのだ。こうした人たちは「地方の豪族」とでも表現できようか。昔から地方の経済界で中枢を占め、政治にも口を出す存在だ。彼らのなかでは地域内における順位があり、それをめぐる思惑や争いが常にあるのだ。したがってタワマンの出現は「お山の大将」を自認する彼らにとっては誰が本当の大将であるかを争う、格好のゲームになっているのである。

 街の中心部にそびえたつタワマンは、いわば本丸天守閣のような存在とでもいえようか。お城の天守閣から街を睥睨して自らのプライドを満たそうとするさまは昔も今も変わらないのかもしれない。

居住ニーズが少ない分、資産価値の下落は激しい

 買った部屋をどう使うのか。彼らにはあまり住むという目的はない。お客様をもてなすための迎賓館、地元の仲間たちを呼んでのパーティー、会社の福利厚生施設としての利用などが中心となっているという。どちらかといえば、今後あまり経済的な発展が見込めない地方都市で、超高額のマンションを買っても、将来大きな利益になるとは思えない。ましてや賃貸で運用しようにも、そんなニーズが存在することは期待できない。それでもかまわないのだ。タワマンという城の天守閣を手に入れること自体に目的があるのだから。

 現在、ディベロッパーが企てるのは、人口が20万人から30万人程度の地方主要都市でのタワマン供給だ。タワマンは概ね人口10万人あたりで1~2棟程度の需要があるといわれている。該当する主要都市に最初に建設の槌音を響かせれば、確実に需要が見込めるというわけだ。そうした意味では、ディベロッパーも地方都市でのタワマン戦争の先陣を切るべく日々戦っているのである。

 だが、建物は有限。地方都市でこれから20年、30年と時代が進む先に待つ未来でタワマンの価値が保たれる保証はない。地方豪族の命も有限である。居住ニーズが少ない分、資産価値の下落は激しく、主を失ったタワマンの廃墟化は意外に早いのかもしれない。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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