1月から入居が始まった東京・中央区晴海の巨大マンション群「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。分譲マンションの販売の抽選倍率が最高で266倍となるなど人気が沸騰したが、現在、夜になると全住戸のうち2~3割くらいしか明かりが灯っておらず“ゴーストタウン”と化していると話題になっている。いったい何が起きているのか、専門家の見解を交えて追ってみたい。
東京オリンピック・パラリンピックの選手村を改修するかたちで建てられた晴海フラッグは、約18haの広大な敷地に4145戸の分譲住宅(「SEA VILLAGE」「SUN VILLAGE」「PARK VILLAGE」)、1487戸の賃貸住宅街区(「PORT VILLAGE」)の計5632戸の住宅に加え、各種商業施設や公園、保育施設を擁する一つの街を形成する。三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、野村不動産など計11社と東京都が提携して開発した一大プロジェクト。三方を海に囲まれ、都心のビル群やレインボーブリッジ、東京湾を眺望できる好立地ながら、東京都が都所有地を破格の低価格で販売したため、一住戸あたりの販売価格は周辺相場より3割ほど低く設定され、最初に販売されたSUN VILLAGEの第1期、第2期では販売価格は2LDKが4990万円から、3LDKは5790万円から。そのため2021年11月の販売開始当初から人気が殺到し、SUN VILLAGEの第1期、第2期では抽選の平均倍率が8.7倍、最高倍率が111倍となり、その後の販売でも高水準の倍率が続いていた。
運用目的の購入者が多い
そんな晴海フラッグだが、入居開始から5カ月が経過した今も大半の住戸は“人が住んでいない”状況だと話題になっている。背景に何があるのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。
「先日NHKでも、もっとも多い棟では住戸の4分の1以上が、所有者が法人名義になっていると報じられていましたが、実需ではなく、転売で利益を得るためや賃貸に出して家賃収入を得るといった運用目的の購入者が多い状況となっています。実際に仲介サイトでは、購入時に坪単価300万円ほどだった住戸が坪単価500万円ほどで数多く売りに出されており、利ザヤを狙った動きが確認できます。また、賃貸にも多数の住戸が出されており、一時的に賃貸物件として運用してみようと考えている保有者も一定数いるようです」
一方、賃貸住宅街区である「PORT VILLAGE」も、いまだに3分の2ほどが空きのままだという。月の家賃は1LDKタイプは15万円前後、3LDKは30万円からとなっているが、やはり人気がないか。
「業界内では『まったく引き合いがないようだ』という話を耳にします。東京23区内には同水準の家賃で借りられる物件はいくらでもあり、最寄り駅(勝どき駅)まで20分もかかるなどアクセスが悪い晴海フラッグに、わざわざ賃貸で住もうと考える人が少ないということでしょう。家族で住むにも賃貸で30~50万円というのはハードルが高いですし、好アクセスの四谷や小石川あたりにも同じ金額で借りられる物件は普通にあり、会社のお金を使える経営者なども『そっちのほうがいいよね』と考えるのは自然です。利便性に難がある立地の物件にこの価格帯で出したところで需要が高いとは考えにくいです」(牧野氏)
問われる東京都の責任
では、やはり晴海フラッグの分譲住宅は「買い」とはいえないのか。
「周辺の晴海や月島、豊洲のタワーマンションは概ね坪単価600~650万円くらいが相場なので、それらと比べると晴海フラッグの坪単価500万円というのは高い水準ではありません。ただ、駅まで距離があるなどの立地を勘案すると“低めのストライク”という印象です」(牧野氏)
前述のとおり晴海フラッグはもともとは東京都の都所有地が売却された土地に民間企業が建設したものであり、現状のようにマネーゲームの道具と化している点は議論を呼ぶ余地がある。
「通例として自治体が所有地を住居建設用途として民間企業に売却する場合、完成したマンションなどの住居販売について以下の3点を条件とします。
・一定期間の転売禁止
・法人への売却禁止
・サブリース用途の購入者への販売禁止
これは、市民の税金で整備されてきた土地を安く民間企業に販売するため、できるだけ公平なかたちで安価に市民に住宅を供給しようという公共的観点に基づくものです。ですが今回の東京都による五輪選手村跡地の売却では、こうした制約が課されないまま相場の3割も安い価格で売られました。その理由はわかりませんが、結果として、多くの企業が転売などの運用目的で住居の購入に走り、抽選倍率266倍という狂乱的な現象が生じています」(牧野氏)
(文=Business Journal編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)