ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 東京・災害リスク高いエリア
NEW

地理学で見る、東京・災害リスク高いエリア…豊洲の埋立地、江戸川区、足立区

取材・文=A4studio、協力=熊木洋太/専修大学文学部教授
【この記事のキーワード】, ,
地理学で見る、東京・災害リスク高いエリア…豊洲の埋立地、江戸川区、足立区の画像1
「gettyimages」より

 近年、全国各地で毎年のように大規模な自然災害が頻発している。甚大な被害を受けた被災地は、いまだに完全な復興を果たしていないところも少なくなく、改めて災害リスクを考え直すタームに入っているといえるだろう。自然災害が起きてしまった場合の対策はもちろん重要だが、住む場所を選ぶ段階で災害を受けにくい地域を精査することもできるだろう。SNSでも災害に備えた部屋探し、住まい探しに関する情報がたびたび議論されている。なかでも少し前にX(旧Twitter)へと投稿された以下ポストが3.8万いいねを獲得し、話題になった。

<大学では地理を専攻していました。先生たちの言葉で一番心に残っているのは「地理を学んだからには災害に強い家を選びなさい。浸水しやすい地域や土砂災害のリスクがある山間部、埋立地のタワマンなんかには絶対住んではいけません」の教え>

 毎年のように山間部では大雨のせいで土砂災害が起きたり、浸水して家が傷んだりするなどのリスクがあるため、住む場所はしっかりと選定する必要がある。なかでも東京都は、実は自然災害のリスクが極めて高く、住まいや経済への多大なるダメージのみならず、大量の帰宅困難者や群衆雪崩が予想されているのだ。数十年以内に発生する確率が高い「首都直下型地震」「南海トラフ巨大地震」は、国家衰退を招くほどの巨大災害として捉えられ、入念な事前対策が課題となっている。そこで今回は、自然災害関係の応用地理学を専門とする専修大学文学部教授の熊木洋太氏に話を聞いた。

大きな河川が多い都内、地震と水害に用心すべし

 東京23区の災害で想定しておくべき災害は地震と水害だと熊木氏は指摘する。

「都内では首都直下型地震の発生が予想されており、とりわけ地盤の弱い地域や築年数の古い建物での被害拡大が懸念されています。軟弱な地盤ですと地震の揺れがより大きくなってしまいますし、液状化現象も起こりやすくなり非常に危険。また現在の建築基準に満たない耐震性の低い建物も都内には少なくなく、大規模な地震が発生すると倒壊の恐れもあるのです。

 そして都内は江戸川、多摩川、荒川と比較的大きな川が流れる地域です。なかでも江戸川は、日本最大の流域面積を誇る利根川を本流とする河川。昔は利根川の本流が江戸湾(現・東京湾)に流れており、古くから江戸の地は水害に悩まされていました。近世に現在の千葉県銚子市のほうまで川の流れを移し替える工事(東遷)が行われ、現在の形になりましたが、今でも利根川中流部で氾濫した場合、都内の広範囲が水に浸かってしまう危険性が考えられます。また近年では、従来あまり観測されなかったレベルの降水量の多い雨がたびたび降っており、中小河川沿いでも小さな氾濫が頻発しているのです」(熊木氏)

下町は地盤が弱く水害の恐れも…木造住宅も危ない?

 地震と水害の危険性がある地域を考える場合、下町は災害リスクの高い地域に該当するという。

「前提として東京23区内は、西側の高台である山の手と、東側の低地の下町に大別できます。JR山手線で上野駅から田端駅の間では、線路の西側に崖がありますが、そこより以西の高台が山の手になっており、以東は低い土地がずっと続く下町になっています。

 下町は基本的に地盤が悪い地域でして、特に月島や豊洲あたりの沿岸にある埋立地はより地震被害のリスクが高まります。埋立地の多くは橋が移動経路となっている人工島なので、仮に地震で橋が通れなくなると、何十万人も孤立する可能性が指摘されています。

 下町は土地が低いので、水害の危険性も高いのです。1947年にカスリーン台風が襲来したときは、利根川が決壊し、埼玉県の一部の地域とともに水に浸かって多数の犠牲者が出てしまいました。現在は当時よりも人口が多く、地盤沈下で当時より土地が低くなっているところもあるので、同じような規模の災害が発生した場合は、被害がより大きくなると考えられているのです。下町のほとんどが浸水の恐れがあり、なかでも江戸川区のハザードマップでは、巨大台風襲来時などでは、区内や隣接区ではなく、東京西部や他県の安全な場所にすみやかに避難するよう求めています」(同)

 また下町地域の建物も不安点だらけだそうだ。

「足立区、荒川区、墨田区などでは、建築年数が古い木造住宅が密集している地域が多い。昔の建築基準で建築されているため、耐震性が低いのはもちろん、火災が起きた際には一気に燃え移る可能性もあります。道幅が狭いところが多く、消防車も立ち入るのが困難で火災の被害が深刻化してしまう恐れもあります。

 また、沿岸部の埋立地にはよくタワーマンションが建てられていますが、建物自体は耐震性があり、大きな被害が生じる可能性はとても低いです。ただし災害で電気、ガス、水道が止まるとなると、一気に生活ができなくなる恐れはあります。タワマンともなると、ひとつの建物にかなりの人数が住んでいるでしょうから、支援物資などをきちんと届けられるかも課題になるでしょうね」(同)

引っ越しする前に旧地名、古地図を確認すべき

 熊木氏いわく、東京23区内の山の手のエリアは、災害に比較的強い地域だそうだ。

「下町に比べて高台に位置しており、なおかつ平らな土地となっているので地震にも水害にも比較的強い。都心部のように広い道路が整備されている地域なら、被害の拡大も抑えられます。ただし,山の手エリアでも神田川をはじめとする中小河川が流れていて,その周辺の若干土地が低めの地域では、小規模な水害の可能性もあるので注意すべきです。

 それと都内に住むことにこだわりがなければ、神奈川県、千葉県、埼玉県に住むという選択肢もありです。地盤条件はさほど変わらない場所でも、郊外になればなるほど人口密度が低くなりますので、災害時の避難がしやすいというメリットがあります」(同)

 災害に対して強い、弱い地域は大まかにわかるが、住む場所によって事情は異なってくるだろう。災害リスクが低い地域を選ぶコツ、探し方について教えていただきたい。

「雨が降ったときに引っ越し希望地の様子を観察してみるとよいでしょう。水はけがよくきちんと排水できているような場所であれば、浸水する可能性も低いです。また土地の高さも重要で、明らかに周辺の地域よりも低い土地にある場合には、水害、地震災害ともリスクは高まりますので推奨はできません」(同)

 ほかにも旧地名や昔の地図を調べるという方法もおすすめだとか。

「地名は、その土地の性質を表したり、過去にどんな災害があったりしたのか端的にわかるようになっているケースが多いのです。地名に『池』『沼』『谷』が入っている地域は水害のリスクが高く地盤も軟弱であるところ,『砂』がつく場合は砂地盤で液状化のリスクが高いところかもしれません。注意すべきことは、本来の意味の漢字から別の漢字に置き換えられている地名も少なくないことです。たとえば新宿区『大久保』の『久保』は、窪地の『窪』という字を置き換えたものですね。また、住居表示などによって地名やその範囲が大きく変わってしまったところも多いので,昔の地図を使って古い地名を調べることを勧めます。

 そして現在の都内は、宅地開発が非常に進んでしまったため、元の地形からかなり変化してしまった土地も多い。埋め立てや盛土、切土によって地盤が変化しており、多摩地区の丘陵地では土砂災害のほかに盛土地の変形が起こる恐れもあります。開発前の古い地図を見ると元々の土地を知ることができるので、災害対策にとっては有効な資料なんです。なお宅地開発は戦後の高度成長期から急激に進んだので、それ以前の地図を参考にするとよいでしょう。地名を調べる場合は、できるだけ古いものまで調べましょう。現在の国土地理院やその前身の機関が発行した精度が確かな地形図は、東京周辺なら明治初期までさかのぼって閲覧、入手できます。どうしても土地探しに困ったときには、古い地図を活用することを覚えておいてください」(同)

(取材・文=A4studio、協力=熊木洋太/専修大学文学部教授)

熊木洋太/専修大学文学部教授

熊木洋太/専修大学文学部教授

自然災害関係の応用地理学が専門。東京大学理学系研究科修了後、建設省/国土交通省国土地理院,建設省九州地方建設局,国土庁,科学技術庁に技官として勤務。2007年より現職。著書に『防災・減災につなげるハザードマップの活かし方』(分担執筆、岩波書店、2015年)、『地図の事典』(分担執筆、朝倉書店、2021年)など。
専修大学の公式サイト 熊木洋太教授の紹介ページ

地理学で見る、東京・災害リスク高いエリア…豊洲の埋立地、江戸川区、足立区のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!