家庭の事情により塾などの学習機会が少ないが、成績上位で学習意欲が高く難関高校などへの進学を目指す中学3年生を対象に無料の塾「足立はばたき塾」を開くなど、以前から教育に力を入れている自治体として知られる足立区。その足立区は今年1月上旬から2月末までの間、返済の必要がない給付型奨学金の第1期奨学生20名を募集。その給付金額の多さから話題となっている。そこで本稿では足立区の担当者に取材。奨学金の仕組みなどについて話を聞いた。
上限最高額3600万円…奨学金の金額と要件とは
足立区の給付型奨学金の給付金額の上限は、私立医科・歯科系大学等に入学する場合、入学料162万円と授業料・施設整備費年額573万円が上限として給付される。この金額を6年間でかけ合わせると162万円+3438万円=3600万円となる。これ以外の大学等でも入学料38万円と、授業料・施設整備費年額198万円×4年で830万円を上限として支給される。
奨学生の募集要項によると、応募資格には(1)在学要件、(2)成績要件、(3)年収要件、(4)居住要件の4種類の要件を「すべて満たす場合に応募できる」としている。具体的には(1)大学、短大、高専(4年次~5年次)、専修学校(修業年限2年以上の専門課程)のいずれかに入学予定または在学していること、(2)申込時までの成績が5段階平均(評定平均)4.0以上、(3)世帯年収が基準以下であること、(4)奨学金を受けようとする者の生計維持者が申請日に足立区内に直近3年以上居住していることが必要となる。
なお、(3)の基準額は、本人や生計維持者の「税額控除前の区市町村民税所得割」が22万7100円以下。奨学金を受け取る本人とひとり親といった2人家族の場合は750万円、本人と中学生、無収入の親と収入のある親の4人家族、いわゆる「専業主婦」の家庭等では800万円が年収の目安だ。ただ足立区は「あくまでも目安」であり、「世帯構成や障がい者の有無、各種保険料の支払い状況等により、目安の金額を上回っていても対象になる場合や、下回っていても対象にならない場合がある」としている。
負債を負わない奨学金が人気…区長も「全額給付に舵を切る」と強調
足立区の担当者は、貸与型ではなく給付型の奨学金を初めて創設した理由について、次のように話す。
「もともとは貸付の奨学金を創設して募集していたものの、応募者数は年々減少している。近藤やよい足立区長も会見で述べていたが、子育ての費用について心配している現状がある」
足立区の資料によれば、大学生等へ無利子で貸付を行う制度の奨学金については、利用実績が令和元年度から3年度にかけて58件、42件、29件と減少している。加えて、国の奨学金には保証人や居住要件不要等の要件があるが、後述の「足立区育英資金検討委員会」では国の奨学金の方が足立区で運用されていた奨学金よりも使いやすいとの声があったという。
担当者によると、足立区が立ち上げた「足立区育英資金検討委員会」のなかで貸付を受けている人々に対しアンケートを実施したところ、「(足立区の奨学金以外に)他の奨学金も借りており、将来、返済することが負担となる。そのため、負債を負わなくてもいい給付型がいい」との意見が多かったことも、給付型奨学金の創設に関係しているとした。
近藤区長は昨年の11月22日、定例会見のなかで給付型奨学金制度の創設について発表し、
「例えば、大学を卒業するときに平均で300万円程度の育英資金の貸付、つまり借金を背負って世の中に出ていく。一部では500万円を超える借金を抱えているという話もある。実際に生活が厳しい家庭だと、理系に進みたくても今の育英資金制度では理系は諦めざるを得ないとの話も足立区の育英資金検討委員会のなかから出ている。それならば貸付型は全撤廃して、今後はすべて全額給付型で行こうと舵を切っていく」
と強調した。担当者によると奨学金の財源は「寄附と23区での競馬組合(特別区競馬組合)の分配金」で成り立っており、「足りない分は国の給付を受けてもらう形になる」と語る。特別区競馬組合によると、組合は議会の議決に基づいて利益金の一部を特別区分配金として各区へ分配している。昨年9月に開かれた「第3回特別区競馬組合議会定例会」にて、1区あたり6億円(前年度比1億円増)を23区に配るため、総額は138億円(同23億円増)を配ることとなり、過去最高額となっている。
この奨学金について担当者は「区民からは、義務教育ではなく大学の入学者という一部区民世帯に限定して多額のお金を支給することから、『学力が高い学生を過度に優遇することにつながる』との批判も寄せられている」と実情を説明したうえで、「こちら(区)としては(学生が)置かれた環境でどれだけ勉強できるのかを重視したい。そのような(努力できる)学生を選びたいという狙いもある」と話していた。
足立区によると、今年3月1日から4月14日まで新しく第2期の奨学生を20名募集するという。厳しい環境に置かれた学生を1人でも多く救うことができるよう、心から祈っている。
(文=小林英介)