2006年に薬学部が6年制となり、2012年に新薬剤師国家試験が実施されてから文部科学省は、「質の高い入学者の確保と教育の質の向上に向けてのフォローアップ」のためとして、薬学部における修学状況等について調査を行ってきた。2021度の調査では、初めて各大学の退学率を公表した。なんと退学率が50%を超える大学もあり、現在の薬学教育に疑問を覚える結果だった。
文科省の調査結果を見ると、退学率が高い大学は国家試験の合格率が低い傾向にある。退学率が高い大学は総じて大学の偏差値が低く、退学率が5%以下の大学は偏差値が高い傾向が読み取れる。
退学率が50%を超える薬学部があることも衝撃だが、30%以上は7学部、20%以上は13学部と、ほかの学部よりも高い傾向といえる。その背景には“薬学部の急増”がある。2002年頃から大学の設置認可の規制緩和が行われ、学生の人気を集めると考えた大学が薬学部を新設した。これにより、2002年度には47校だった全国の薬科大学・薬学部は現在、77校まで増えている。
薬学部の退学率の高さもさることながら、定員割れしている薬学部も増加傾向にある。文部省の発表によると、2020年度の全国の私立大学薬学部・薬科大学の約4割が定員割れしていることが明らかになっている。定員割れを埋めるために、入試教科を「化学」1科目のみとして学生を獲得する大学もある。しかし、こういった対策は学生の質の低下を招き、退学率の増加に拍車をかけることになっていると考えられる。
薬学部の増設が招いたもの
筆者が私立薬科大学を卒業した1992年頃は、退学する学生は非常に稀であった。当時、その稀な退学者に共通していることは、一般教養の勉強についていけずに留年し、専門課程に入る前に退学するというパターンであった。
同様のパターンが、現在の薬学部でも起きていると推察できる。なぜなら、薬学部を新設した以上は、学生を確保しなければ大学の運営がままならなくなる。そういった大学が学生獲得のためにとった対策は、入試のハードルを下げ学生を多く入学させることだった。
こういった流れによって、偏差値35や、合格ラインが設定できないBF(ボーダーフリー)の薬学部が出来上がったが、偏差値35の学力では、薬学部で学ぶべきカリキュラムを修得することは容易ではない。
薬学部のカリキュラムでは一般教養も学ぶが、とりわけ数学や化学、物理に関しては偏差値35で入学した学生がすんなりと理解できる内容ではなく、入学後にもかなりの勉強が必要となるだろう。また、薬学部では授業の出席確認も厳しく、実習も多く、文系の大学に比べて遊ぶ時間は少ない。入学後のハードさにギャップを感じ、さらには勉強にもついていけないとなれば、退学する学生が出てくるのは納得でもある。入学さえすればなんとかなるということはなく、薬学部で学ぶには、基礎学力とさらなる勉強が必要なのだ。
薬剤師のこれから
近年、調剤薬局は歯科クリニックや美容室よりも多く、“乱立”状態といわれている。一部のメディアでは、「薬剤師過剰論」も出ている。しかし、現状では薬剤師は過剰ではなく、薬剤師不足に喘ぐ薬局も多く、薬剤師の需要は高い。しかし、この状況は今後、変化していくと予想される。
2042年に高齢者の増加がピークとなるが、一方で日本の人口は2008年からすでに減少の一途を辿っている。この2つのファクターから考えると、今後10年ほどは、薬局の需要は維持されるが、その先は薬局業務の機械化やAI化が進み、薬剤師の需要は低下していくだろう。
さらに今後、薬局自体も淘汰され、地域医療に貢献する薬局が生き残るだろう。そういった薬局が必要とするのは、“有能な薬剤師”ということになる。果たして、BF薬学部で学び、有能な薬剤師になることができるのだろうか。薬剤師を志す学生には、慎重に大学を選んでほしい。
【各薬学部の退学率・国家試験の合格率】
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)