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なぜ「賃貸併用住宅」を選び続けるのか…「買える家」より「持ち続けられる家」

2025.12.25 2025.12.25 00:27 企業

なぜ「賃貸併用住宅」を選び続けるのか…「買える家」より「持ち続けられる家」の画像1

●この記事のポイント
・賃貸併用住宅は主流ではないが、SHiTENは「はたらくおうち」として主力展開。住宅を売るのではなく「持ち続けられるか」を軸に、住居と賃貸収益の両立を重視している。
・土地選定から設計・施工、賃貸管理までを一貫対応。住宅単体ではなく建物全体の収支と長期運用を基準に判断し、一般的な戸建では選ばれない土地も成立させる。
・売買仲介時代に見た「無理な住宅取得」の反省から事業転換。短期利益を追わず、オーナーの資産形成を長期で支える賃貸併用住宅をあえて主戦場にしている。

 不動産業界において、「賃貸併用住宅」は主流の選択肢とはいいがたい。オーナーの住居と賃貸部分が同一の建物内にあるこの住宅形態は、条件次第で住宅ローンを活用しながら賃貸収入を得られる一方、建売住宅やマンション販売と比べると、積極的に扱う事業者は多くない。

 そうしたなかでSHiTENは、「はたらくおうち」というブランド名で賃貸併用住宅を主力事業として展開してきた。土地選定から設計・施工、完成後の賃貸管理までを一貫して手がけるという、業界の中ではやや独自の立ち位置を取っている。

 なぜ、より収益性の高い事業モデルが存在するなかで、この分野を選び続けているのか。その背景には、住宅を「売る」ことではなく、「持ち続けられるかどうか」を起点に事業を考えてきた経緯がある。

●目次

賃貸併用住宅とは

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SHiTEN社長 沖村鋼郎氏

 賃貸併用住宅とは、オーナーの住居部分と賃貸部分が同一建物内に配置された住宅のことを指す。一般的には、オーナー住居が3LDK、賃貸部分が1DKや1LDKといった構成で、賃貸住戸は1戸あたり30〜40平方メートル程度。1棟の中に2〜3戸の賃貸住戸を設けるケースが多い。

 SHiTENが主に手がけるエリアは首都圏1都3県で、土地込みの総額は6,000万円台から1億5,000万円程度と幅がある。価格帯としては、同エリアの一般的な戸建住宅と比較すると、1.5倍前後になることが多い。

 この住宅形態の特徴は、戸建住宅とは異なる評価軸で土地を捉える点にある。貸併用住宅では、「住むための住宅」と「収益を生む賃貸部分」を一体の建物として設計・計画するため、住宅単体とは異なる判断基準が用いられる。

 一般的な戸建住宅では、道路条件や敷地内駐車場の有無が土地選びの重要な判断基準となる。一方で賃貸併用住宅では、建物全体として収支が成立するか、長期的に安定した運用が可能かといった観点が優先される。

 その結果として、必ずしも敷地内に駐車場を設けることを前提としないプランも成立する。周辺の賃貸需要や家賃水準、建物配置を踏まえれば、戸建住宅では検討対象になりにくい土地であっても、賃貸併用住宅として成立するケースがある。

 これは条件を妥協しているという意味ではなく、住宅単体ではなく建物全体の成立性を基準に土地を捉えている、という考え方の違いによるものだ。

販売から管理までを手がける

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 SHiTENの事業の特徴は、販売にとどまらず、土地選定、設計・施工、完成後の賃貸管理までを一体で手がけている点にある。不動産会社、設計会社、管理会社の機能を分業せず、建物全体を一つの事業として捉えている。

 賃貸併用住宅は、土地条件、建物配置、間取り、遮音性、設備仕様など、検討すべき要素が多い。特に土地選定の段階で適性を見誤ると、完成後に収支が合わなくなる可能性もある。

 また、戸建住宅を専門に扱う設計会社が賃貸併用住宅を設計した場合、動線や音環境など、賃貸運用を前提とした配慮が十分でないケースも見られる。そのため同社では、賃貸併用住宅として成立するかどうかを起点に土地を判断し、設計段階から長期運用を前提とした計画を行う。

 オーナーがすでに土地を所有している場合でも、その土地が適していないと判断すれば、売却を含めた別の選択肢を提示することもある。

以前は普通の不動産屋だった

 SHiTENは2007年に創業した。当初は賃貸仲介を中心に事業を行い、その後、より収益性の高い売買仲介へと事業の軸を移している。

 売買仲介を重ねるなかで、住宅を購入したものの数年後に売却を余儀なくされるケースや、将来設計と合わない住宅取得に直面する事例を見る機会が増えていった。そうした経験を通じて、「住宅として売れるかどうか」ではなく、「購入後も無理なく持ち続けられるかどうか」を基準に事業を見直す必要性を感じるようになった。

 その結果、住まいとしての機能と将来的な収支の両立を前提に考えられる賃貸併用住宅に、事業として注力する判断に至った。現在は、販売後も賃貸管理を通じてオーナーと継続的に関わる事業モデルを採用しており、その過程で、次の投資物件に関する相談や提案につながるケースもある。結果として、オーナーの資産形成を長期的に支える関係が築かれている。

 SHiTENは、短期的な利益を追うのではなく、建物全体として成立するかどうかを基準に事業を設計している。収支が合わない土地を無理に提案することはせず、自社として納得できる前提のもとでのみ計画を進める姿勢を取っている。

賃貸併用住宅という立ち位置

 高年収層が不動産投資を始める際には、タワーマンションや一棟アパートといった選択肢が注目されることが、近年の傾向として見られる。

 一方で、賃貸併用住宅は事業としての扱いが難しい面もあり、不動産業者が積極的に取り上げるケースは多くない。その結果、大きく宣伝される機会も限られ、一般にはあまり知られていないのが実情だ。

 賃貸併用住宅は、今後も投資市場の中でマイナーな存在であり続ける可能性がある。それでもSHiTENは、この分野を主力事業の一つとして位置づけ、継続して手がけていく考えだ。

(取材・文=山口伸/ライター)

山口伸/ライター

山口伸/ライター

化学メーカーに勤めながら副業でライターをしている。本業は理系だが趣味で経済関係の本や 決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記 、ファイナンシャルプランナー。

X:@shin_yamaguchi_