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スズキ「ジムニーノマド」受注再開も争奪戦必至…なぜバカ売れするのに販売台数が少ない?

2025.12.26 2025.12.25 23:26 企業
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ジムニーノマド(公式サイトより)

●この記事のポイント
・スズキ「ジムニーノマド」が2026年1月に受注再開する。4日で5万台完売の前回同様、再び争奪戦は必至だ。なぜ爆売れ5ドアを増産できないのか、その背景にあるインド生産と供給制約を解説。
・新車より100万円以上高い中古車が続出するジムニーノマド。転売と熱狂が生む異常な市場は、もはや実用車の域を超えた。スズキが直面する供給責任とブランド価値のジレンマに迫る。
・月産3,300台でも追いつかない世界的需要。ジムニーノマドは「待ってでも欲しい」商品が市場をどう歪めるかを映す鏡だ。抽選販売や転売対策が示す現代ヒット商品の正体を読み解く。

 2026年1月30日、日本の自動車市場は再び、異様な熱気に包まれる可能性が高い。スズキが人気モデル「ジムニーノマド(5ドア)」の受注を再開する予定だからだ。

 記憶に新しいのは、2025年1月の出来事である。日本導入が発表され、受注が始まるや否や、わずか4日間で約5万台もの注文が殺到。これはスズキが想定していた年間販売計画(約1万6,000台)の3倍以上に相当する数字だった。結果、同社は異例のスピードでオーダーストップを決断。「買いたくても買えない」ユーザーが市場に溢れかえる異常事態となった。

 あれから1年。供給体制の見直しを経て、ついに受注再開にこぎ着けた格好だが、市場では早くも「再び争奪戦になるのは確実」「前回以上に混乱するのでは」といった声が噴出している。

 なぜ、ここまでジムニーノマドは“手に入らないクルマ”になってしまったのか。そして、なぜスズキは需要が明らかなモデルを、思い切って増産できないのか。その背景には、日本の自動車産業が抱える構造的な制約が浮かび上がる。

●目次

新車より高い中古車、転売ヤーと熱狂的ファンのカオス

 ジムニーノマドの異常性を最も端的に示しているのが、中古車市場だ。

 新車価格はグレードにもよるが約275万円〜。しかし中古車サイトを覗くと、走行距離がほとんどない車両が400万円超、500万円近い値で取引されているケースも珍しくない。オプションなどを差し引いても新車価格を100万円以上上回るプレミア価格が、すでに“相場”として定着してしまっている。

 背景にあるのが、「納車まで4年待ち」という半ば都市伝説のような噂だ。実際にはそこまでの期間が確定しているわけではないが、「とにかく待つ」というイメージが市場心理を冷やし、かえって中古相場を押し上げる悪循環が生まれている。

「完全に実用車の域を超えています。今のジムニーノマドは、ロレックスや高級ウイスキーと同じ“投機対象”として見られている側面がある」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

 本来、ジムニーは悪路走破性に優れ、アウトドアや降雪地で真価を発揮する道具としてのクルマだった。だが現在は「所有すること自体に価値がある」という、極めて特異な立ち位置に押し上げられている。

なぜ増産できない?スズキの「インド生産・逆輸入」というジレンマ

「これだけ売れるのなら、なぜスズキはもっと作らないのか」というのは、多くの人が抱く素朴な疑問だろう。

 その答えは、ジムニーノマドの出自にある。ノマドは日本生産ではない。製造を担っているのは、スズキの連結子会社であるマルチ・スズキ(インド)だ。インド市場ではジムニー5ドアはグローバルモデルとして位置付けられており、日本向けはあくまで“逆輸入”という形になる。

 現在、ノマドの生産能力は当初の月産約1,200台から、最大で約3,300台まで引き上げられたとされる。しかし、それでも需要にはまったく追いついていない。理由は単純で、日本だけでなく、中東、オーストラリア、アフリカなど、世界中から引き合いが来ているからだ。

「スズキにとって悩ましいのは、日本市場が“最優先”ではない点です。インド工場の生産はグローバル配分が前提で、日本だけに台数を振り向けるわけにはいかない」(同)

 さらに、物流の壁も大きい。完成車を運ぶ専用船の不足、日本の厳しい安全基準や排ガス規制に対応するための追加検査工程などが、ボトルネックとなっている。単にラインを増やせば解決する問題ではないのだ。

「早い者勝ち」から「運試し」へ?販売店の苦悩

 2026年1月30日の受注再開を前に、全国のスズキ販売店は頭を抱えている。

 前回のような「先着順」を採用すれば、アクセス集中によるシステム障害や、クレームの嵐は避けられない。そのため今回は、完全抽選制を導入するディーラーが続出するとみられている。

 加えて、転売対策も大きなテーマだ。すでに一部では、
 ・1年間の転売禁止契約
 ・名義変更の制限
 ・ローン利用を条件とする販売
といった独自ルールを検討する動きもある。

「販売店としては“本当に欲しい人”に届けたい。でも、法的にどこまで縛れるのかは非常に難しい問題です」(スズキ系ディーラー関係者)

 結果として、ユーザーにとっては「早い者勝ち」から「運試し」へとルールが変わりつつある。欲しくても、買えるかどうかは運次第。それが今のジムニーノマドを巡る現実だ。

「ノマド」が映し出す、現代のヒット商品の正体

 ジムニーノマドの争奪戦は、単なる人気車種の話にとどまらない。

 そこには、スズキが直面する供給責任とブランド価値のバランス、そして「待ってでも欲しい」と思わせる商品が生まれたとき、市場がいかに歪むかという現代的なテーマが凝縮されている。

「本来、メーカーは“売れるものを安定供給する”のが理想です。ただ、ノマドはその理想と、グローバル生産という現実が真正面から衝突した象徴的なケースと言えるでしょう」(荻野氏)

 皮肉なことに、ジムニーノマドの唯一無二の商品力が、結果として市場を混乱させている。だがそれは、スズキが長年培ってきた「他社が作らないクルマを作る」という哲学の裏返しでもある。日本のSNSと販売店が再び熱を帯びる日は、もう間もなく訪れる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)