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日向咲嗣『「無知税」回避術 可処分所得が倍増するお金の常識と盲点』(8月5日)

家賃は崩壊している?「平均的な家賃」のウソ 不動産業界のいびつな情報流通構造

文=日向咲嗣/フリーライター
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家賃は崩壊している?「平均的な家賃」のウソ 不動産業界のいびつな情報流通構造の画像1「Thinkstock」より
 7月30日付当サイト記事『簡単に家賃を下げる人が続出?家賃崩壊の実態と背景 1万円台、あふれる空室、大家受難…』の記事を読んで「家賃が劇的に下がっているなんて聞いたことない」と思った人もきっと多いはず。では、こんな重大なトレンドが、なぜ世間一般に知られていないのか。そのナゾを解くカギは、不動産業界のいびつな情報流通構造にある。

 家賃の下落がマスメディアで報じられることはほとんどない。駅前の不動産屋に行っても、激安物件には、なかなかお目にかかれない。賃貸住宅の家賃は、ほかの消費財のように派手なセールが打たれることがないため、一般人が知る機会は極端に少ない。

 家賃に関する定期的な調査は、地価と同じく、下げているにもかかわらず「下げ止まりつつある」「下落地点が前回より減少」など、巧妙な表現を使ってマイナスイメージを最小限にとどめている。

 要するに、不動産に関する情報の出所は、ほとんどが供給側の利害関係者であるため、消費者本位の情報が流通されにくい構造が出来上がっているのだ。おおげさに言えば、まるで第二次世界大戦中の大本営発表のごとき情報操作がまかり通っているのである。賃貸サイトのお役立ちページに掲載されている地域別の家賃相場などはその典型で、多くの地域においては、およそ実情と掛け離れた数字しか出てこない。

 試しに、あなたが住んでいる地域の家賃相場を賃貸サイトで調べてみてほしい。その相場家賃と、同じ地域の新築の家賃とを比べてみると、相場家賃のほうが高いケースが目立つ。1日も早く満室にしたい新築物件のオーナーは、家賃を割安に設定する傾向があるとはいえ、いちばん高くてもおかしくない人気の新築よりも、さらに高い額を「相場」と呼ぶのは、利用者をミスリードするイカサマ行為といわれても仕方ないだろう。

相場家賃が高くなるカラクリ

 家賃の相場データが高めに表示されるのには、いくつかの理由がある。

 第一に、「最多価格帯」ではなく「募集データの平均」を取ると、どうしても高いほうに引っ張られてしまうからだ。一世帯当たりの平均貯蓄額が1500万円との調査結果に接して、多くの人が違和感を抱くのにも似ていて、家賃も平均値を取ったとたんに実情を表しているとはいえなくなるわけだ。

 東日本レインズによる東京23区の平均家賃をみてみると、2014年1~3月時点では、9万7000円(32.90平米)である。ピークだった08年7~9月期の12万3000円からすれば、2割以上下落していることがわかり、この推移をみるだけでも、家賃崩壊現象がまさにこの数年に起きている現実が如実に見て取れる。

 しかし、家賃の絶対額は依然として高く、「平均的な家賃」と呼ぶには違和感がある。

 それは、「表参道の1DK、18万円」と「南千住の2DK、5.3万円」も一緒くたにして計算しているからであって、東京23区に住んでいる人は、みんな9万円くらい払っているわけではない。

 参考になるのは、いま自分が住んでいる部屋と同じ条件の物件がいくらの家賃で募集されているかだけであって、それ以外の平均値などは、なんの意味も持たないのである。

 第二に、表面家賃と実質家賃の違いが挙げられる。

 家賃を一定期間(1~3カ月)無料にする「フリーレント」と呼ばれるオプションを付ける物件が最近目立って増えてきたが、それは実質的には家賃の値引き行為にほかならない。それにもかかわらず、なぜかその値引きは統計データに一切反映されない。

 例えば、家賃12万円で募集している部屋に、2カ月のフリーレントが付いている場合、2年間の契約期間の総額でみると、通常より24万円安くなっている計算。1カ月当たりにならせば1万円安くなっているのだから、家賃11万円にしたのと同じことである。

 ならば、どうして最初から家賃を11万にしないのかというと、家賃を安くしてしまうと、すでに入居しているほかの部屋の人から「うちも安くして」と要求されかねないからだ。一定期間無料で、家賃は1円も値引いてないフリーレントであれば、そんな心配は一切ない。

 また、収益物件として転売するときに、家賃を安くしてしまうと、「利回り」と呼ばれるその物件の収益性を計る指標が低くなるが、フリーレントであれば収益性をより高く見せることができる。

 従って、大家はできるだけ家賃は下げずに、目に見えないところで実質的な値引きをしたがるのだが、表面に出てこないために、実質的な家賃は下がっているにもかかわらず、調査データなどでは、高いまま表示されがちなのである。

実情を把握して不動産屋と交渉すべし

 しかし、そういった“大本営発表”の情報が、徐々に通用しなくなった。

 かつては駅前の不動産屋に行って、希望条件に合った物件を紹介してもらうしかなかったため、高い仲介手数料を取れる物件や自社の管理物件を優先して紹介されるなど、借り手は不動産屋のいわれるままだったが、いまは自ら主導権を握ることも難しくなくなってきた。

 スマートフォンで賃貸サイトを検索するだけで、いつどこにいても一瞬にしてめぼしい物件を検索することができるようになったからだ。その気になって調べれば、自分がいま住んでいるアパート・マンションの隣の部屋やほかの階の家賃すらわかってしまうわけだから、これは非常に画期的なことである。長年、プロの業者だけで独占されてきた市場の情報が一般にもオープンになっているわけだが、その情報を有利に活用できる人と、そうでない人とでは、大きな差が出てしまう。

 いまのところ、家賃崩壊が始まっていることに気づいて、値下げ交渉をしたり、安い部屋に引っ越したりした人だけが家賃デフレのメリットを享受できているわけで、「家賃が下がるはずはない」と思い込んでいる無知な人は、いくら世間相場が安くなっても1円の利益も得られない構造になっている。

「もう“無知税”なんて払いたくない」と思う人は、いますぐ理論武装すべきである。
(文=日向咲嗣/フリーライター)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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