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なぜ2億円で買ったビルが17億で売れた…事業より不動産投資のほうが儲かる?

文=Business Journal編集部、協力=長谷川高/長谷川不動産経済社代表
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「gettyimages」より

 ある事業家が過去に東京・原宿に2億円で購入したビルを売却したところ、17億円の値がつき、数十年かけて営んだ事業の利益を大幅に超える利益を得ることになったというエピソードがX(旧Twitter)上にポストされ、一部で話題を呼んでいる。このように不動産の売却で想定外の大きな利益を得るケースというのは多いのか。また、このポストを受けて「下手に新規事業をやるより不動産投資をしたほうが儲かる」といった主旨の反応もみられるが、現実的にはどうなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 まず、2億円で購入したビルが17億円で売れるというケースは珍しくないのか。不動産コンサルタントで長谷川不動産経済社代表の長谷川高氏はいう。

「非常に珍しいケースだといえますが、可能性としては2つのパターンが考えられます。昭和30~40年くらいまでの原宿は閑静な住宅街で、現在のようなオシャレな商業施設が立ち並ぶ繁華街ではありませんでした。その当時、たまたま(40~50年くらい前に)ビルを購入し、原宿エリアの発展に伴う地価上昇により、価値が上がったというパターンが一つ目です。

 もう一つは、1990年代前半のバブル崩壊で土地の価格が暴落した時期に買っていたというパターンです。ここ10~20年ほど地価は上がっていますが、それだけの要因で不動産価格が8倍にはなりません。例えば、ビルの土地だけの評価で考えますと、仮にビルの土地面積が約40坪だとすると坪単価4250万円で売れた計算になりますが、それでも10年、20年ではこれだけ高騰することは考え難いです。可能性として考えられるのは、このビル自体は大きな表通りには面していないものの、例えば、表参道や明治通り、竹下通りなどメインストリートに面する商業施設等の再開発があり、その商業施設の開発にこのビルの土地を取得することにより土地の形状が良くなるといった開発業者側に大きなメリットあるケースです。ディベロッパー側が『表通りに面する土地と同等の価値がある』と評価して高い価格で買い取ったといったパターンです。不動産業界の言葉でいえば、地上げ、又は権利調整に組み込まれたというケースです。

 取得価格の8倍の価格で売るというのは狙ってできることではなく、たまたま運が良かったといえると思います」

 また、冒頭の内容をポストしたXアカウント名「鑑定投資家のまーさん」はいう。

「あくまで、ある事業主の方から聞いた話なので、その前提でお話しをしますと、購入したのはバブル崩壊後のもっとも地価が下がっていた2000年代前半で、さらに、ほぼ叩き売り同然で売りに出されていた古い物件を購入したということなので、非常に安い時期に、そのエリアの相場よりも低い価格で買ったと考えられます。

 一方、そのビルがあるエリアは賃料の上げ下げが非常に激しく、売却したタイミングがちょうど賃料が高値のときで、さらにここ5年ほどは一般の人々の間でも不動産投資の熱が高まっている関係で収益物件の価格が高騰しており、結果的にさまざまな要因が重なり高値のなかの高値で売れたようです。私の知る範囲でも、購入価格と売却価格の差がここまで大きい事例は他になく、極めて異例のケースだといえます」

今から不動産を購入して大きな利益をあげるのは可能か

 現在、地価は上昇傾向にある。国土交通省「令和6年地価公示」によれば、東京圏の地価は全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率も拡大。地価上昇や人件費・建築資材費の上昇、投資マネーの底堅さから全国的に不動産価格の上昇が続いている。マイナス金利解除により不動産取得コストの一つである借入金利は上昇基調であり、東証REIT指数(東京証券取引所に上場している不動産投資信託<REIT>全銘柄を対象とした時価総額加重平均型の指数)は下落基調ではあるものの、不動産市場における投資熱に目立った変調はないとされる。

 このようななか、今からビルなどの不動産を購入して大きな利益をあげるということは可能なのか。

「これだけの値上がり益を得るのは、ほぼ不可能といっていいと思います。現在の都心の不動産マーケットにおいては地価及び建設費が上昇しており、今買うということは賢明とは思えません」(長谷川氏)

 また、「鑑定投資家のまーさん」はいう。

「不動産投資は株よりはコントロールしやすく、予測もしやすいですが、今、収益物件を購入すると“高値掴み”になる可能性が高いです。ですので、あと1~2年ほどは売り場が続くと考えたほうがよさそうです」

 では、今、不動産投資をやるとすれば、どのような選択肢が現実的となってくるのか。

「株式投資ですとNISAやS&P500、オルカンなどの長期投資で10~30年先の値上がりを狙ったり、毎年配当を得るというかたちが一般的でしょうが、同じような感覚で、購入した物件を賃貸に出して毎月の家賃収入を得るというスタイルが現実的かつ安定的でしょう。不動産を購入して賃貸で回すと相続税対策にもなります。家賃収入を得ることと相続税対策の2つの目的で行うのであれば検討してよいかもしれませんが、それ相応の専門家のアドバイスを得て行う必要があるでしょう。仮にビルを買うことで数年後に何倍かで売却できるといった単純なことが起こり得るのであれば、東京都内の不動産会社が皆買っているでしょう」(長谷川氏)

新規ビジネスより不動産購入のほうが儲かる?

 冒頭のX投稿をめぐっては、一定の資金があるのであれば新規ビジネスに手を出すより不動産を購入したほうが確実かつ大きな利益を見込めるのではないかという声も寄せられている。たとえばエイベックスは2020年度に東京都港区の本社ビルを約700億円で売却し、290億円の特別利益を計上したが、同社創業者で現会長の松浦勝人氏はかつてSNSで「俺が社長時代に一番儲けたのは不動産ってことになる」「俺、社長やっている間、アーティスト作れなかった。でも、代わりに不動産屋やっていたんだ」と語っている(21年5月10日付「デイリー新潮」記事より)。

 大手ディベロッパー社員はいう。

「老舗の大手企業のなかには本業の低迷を不動産事業の利益でカバーしているところは少なくないが、そのような企業は昭和の戦後やバブル景気の前から不動産を保有していて、たまたま今になって金を生む道具になっているというかたちが一般的。また、本業が成功して稼いだ多額のお金を元手に、経営者本人の趣味や周囲からのアドバイスをきっかけに不動産投資に注力して儲けているというケースは意外に多い。ただ、商業施設ともなれば開発や取得に数十億~数百億円レベルの資金が必要なので、個人でやるのは現実的ではない。

 個人でやるとすると、数億円の資産がある人がマンションを住戸単位で買うか一棟買いして家賃収入を得るというのが現実的な方法になってくる。立地や物件の状態によるが、安定的にそれなりの収入を見込めるものの、起業のように巨額の上場益を得るというドリームは起きない。一方で不動産投資はしっかりと勉強と情報収集をして堅実に行えばリスクは少ないというメリットはあり、一概にどちらのほうがよいとはいえない」

(文=Business Journal編集部、協力=長谷川高/長谷川不動産経済社代表)

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。
大手デベロッパーにて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わり、バブルの絶頂期からその崩壊と処理までを現場の第一線で体験。 1996年に独立。
以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の立場で不動産と不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。また、取引先企業と連携して大型の共同プロジェクトを数多く手掛ける。
自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける一方で、メディアへの出演や執筆、講演活動を通じて、難解な不動産の市況や不動産の購入・投資術をわかりやすく解説している。
長谷川不動産経済社

Twitter:@hasekei8888

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