東京都心の不動産市場は活況である。新築マンションはもちろん、個人投資家が狙う「収益物件」と呼ばれる数億円の1棟マンションやアパートも活発に取引されている。価格も上がっており、その分、利回りは落ちている。
不動産業者たちの合言葉は「東京五輪までは上がり続けますよ」。そう言われれば、誰もが「ああ、そうかな」と思ってしまいそうな響きがある。確かに、東京五輪は地球規模の祭典である。それが5年後の東京で開催されるのだから、不動産価格が上がらないわけがない、という漠然としたイメージを抱いてしまいがちだ。
例えば、ロンドンでは五輪開催(2012年)後も一部の不動産価格が上がり続けているという。さらにさかのぼり前回1964年の東京五輪後も、日本経済は高度成長を遂げた。その結果、「地価狂乱」という不動産価格の高騰も招いてしまった。
こうした過去をみても、「五輪開催=不動産価格上昇」というのは、いかにも受け入れやすいイメージだが、本当にそうなのだろうか。
東京五輪建設特需は、不動産業界とは無関係
東京五輪の競技場や選手村の施設建設費は、招致時点で総額4554億円とされていたが、その後、一時はメイン会場となる新国立競技場の建設費だけで3000億円を超える見通しが明らかとなり、計画は一旦白紙になることが決定したが、全体でいったいいくらかかるのか現時点でははっきりしない。施設全体で総額1兆円程度という予測も現実味を帯びる。
もし1兆円なら、建設業界にとっては特需だろう。ただ、これは3、4年に分けて配分されるので、1年だと数千億円。それでも恐ろしい額だ。
しかし、それは建設業界の話であって、不動産業界とは直接につながらない。強いていうならば、今でもひっ迫している建設業界の人手不足が顕著になって、新築マンションやオフィスビルの建築費などは現在のまま高止まりするか、さらに上昇する可能性も考えられる。もっとも、土地やオフィス、住宅の需要が五輪によって増えるわけでもない。せいぜいホテル用地の需要が高まるくらいである。
繰り返されたバブル
不動産の価格というものは、基本的に需要と供給の関係で決まる。特に、中長期でみると、ほとんどこの原則に収斂していく。例えば、前回の東京五輪のあとは日本経済の高度成長期に当たった。工場やオフィスビル、住宅など不動産への需要は高まるばかりで、それに対して供給が追い付いていなかった。当時、大都市圏では住宅を購入する場合はほとんどが抽選だった。なかには何十回も抽選に外れる人もいた。その住宅不足を経験したのは、団塊より少し上の世代。今ではほとんどが後期高齢者に達している。