もちろん、高度成長期には不動産価格がみるみる上昇した。「土地の値段は下がらない」という「土地神話」も生まれた。しかし、そこにはきちんとした不動産への需要があった。ある意味、価格が上昇しても当然だったのである。
その「土地神話」は、1991年のバブル崩壊で潰えたが、根底には「需要を満たしきった」という需給条件の変化があったはずだ。
その後、2005年頃から「不動産ミニバブル」という、主に大都市圏での不動産ブームが起こった。このきっかけとなったのが、外国からやってきた投機マネーだったので、別名「ファンドバブル」ともいわれている。このとき、日本国内ではちょうど団塊ジュニア世代がマイホーム購入適齢期に達していた。いってみれば、かすかには需要があったのである。しかし、このミニバブルも08年のリーマンショックで一気に弾けてしまう。
地域限定バブル
そして今、筆者が「地域限定バブル」と呼んでいる不動産ブームが起こっている。「地域限定」と名付けるのは、不動産価格が上昇しているのは極めて限られたエリアだからだ。おそらく、日本の総面積の2%未満の地域かと推定される。
その2%がどこかというと、東京の山手線とその周縁、城南、湾岸エリアと川崎市の武蔵小杉駅周辺。横浜のみなとみらい地区、そして京都市の御所近辺と仙台市。ただ、このうち仙台市は震災復興という実際の需要で価格が上昇していると思われる。
今回の地域限定バブルの特徴は、購入の大半が実需ではなく投資であるという点。そして、組織ではなく個人単位。さらにいうならば、東アジア系の外国人がそのうちの何割かを占めている、ということだろう。このバブルを支えている彼らも「五輪までは東京の不動産価格は上がり続ける」と信じているようだ。実際に、筆者のところに不動産の購入相談にみえる方のほとんどは、「五輪まで」というフレーズを口にする。
五輪は世界的な祭典で華やかこの上ないが、それによって東京の人口や世帯数が増えるわけではない。さらにいえば、五輪開催のためにつくられた東京都中央区晴海エリアの選手村は、五輪後に6000戸規模の住宅エリアとなる。人口にして2万人くらいを収容できる大きさだ。東京都中央区の人口が現在約14万人だから、5年後には一気に約14%も増えなければならないことになるが、果たしてそんなに需要があるのか。1998年に長野で冬季五輪が開催されたが、人口が増えたとか不動産価格が上がったという話は聞かない。