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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

平屋住宅、なぜブーム…地方では新築戸建の半数、建築費1千万円で利点多数

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
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ポラスの「ときの環 草加松原」の平屋のイメージ(写真提供:ポラスグループ)

 戸建住宅における1階建ての平屋住宅が増えています。注文住宅では、2階建て、3階建てではなく平屋を建てる人が増え、分譲の建売住宅でも平屋住宅を取り入れる分譲地が増えています。いま、なぜ平屋住宅なのでしょうか。ブームの背景を追ってみました。

平屋のシェアは10年間で2倍以上に

 人口や世帯数の減少、少子化、高齢化、建築費の高騰などさまざまな要因が重なって、新設住宅着工戸数の減少が続いています。2008年度までは年間100万戸を超えていたのが、現在では80万戸台に減っており、将来的には年間50万戸、60万戸まで減るのではないかという予測もあるほどです。

 しかし、そのなかで増えているのが1階建ての平屋住宅です。注文住宅として戸建住宅を建てる人のなかに、平屋住宅にする人が増え、新築分譲の建売住宅でも、平屋住宅を採用する分譲地が増えています。国土交通省の「建築着工統計調査」によると、図表1にあるように、すべての住宅のうち、専用住宅の着工戸数は2012年度には45万5613戸で、そのうち1階建ての平屋住宅は3万1217戸で、平屋の占める割合は6.9%だったのが、この10年間で急速に増加し、2022年度には専用住宅が41万5423戸に対して、1階建ては5万7575戸で、その割合は13.9%まで高まっています。平屋の占めるシェアは、10年間で2倍以上に増加しているのです。

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(資料:国土交通省「建築着工統計調査」)

木造住宅に占める割合は14.1%に

 その傾向は、木造住宅だけでみると、さらに強まります。戸建住宅を構造別にみると、木造のほか、鉄骨造、鉄筋コンクリート造などがありますが、なかでも木造住宅については、平屋の割合がさらに高くなっています。図表2にあるように、2012年度には木造住宅に占める1階建ての平屋住宅の割合は7.1%だったのが、2022年度には14.1%まで高まっています。新設着工される木造住宅のうち、実に7戸に1戸程度は平屋住宅になっているのです。

 首都圏や近畿圏などに住んでいると、地価が高いですから、平屋住宅を建てる敷地を確保するのは簡単ではないため、平屋住宅を目にすることはあまりないかもしれませんが、地方に行くと新設住宅のうち半数近くを平屋が占めているエリアもあります。特に九州がそうで、鹿児島県や宮崎県などではほぼ50%近くに達しています。高齢化、少人数世帯化が進んでいること、比較的地価が安く、平屋に適した広い敷地を確保しやすいこと、九州は台風の被害が多く、風に強い平屋が適していること、熊本地震など地震の被害も多いのですが、平屋なら地震に強いこと、鹿児島県では桜島の噴火による降灰が多いため、灰下ろしをしやすいこと――などさまざまな事情があるようです。

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(資料:国土交通省「建築着工統計調査」)

平屋住宅にはさまざまなメリットがある

 このように増えている平屋住宅ですが、なぜ増えているのでしょうか。ここで、平屋住宅のメリットを整理しておきましょう。まず、平屋住宅はワンフロアしかないため、生活動線がシンプルで、コンパクトな生活にはうってつけです。たとえば、洗濯物を干したり、取り入れたりするのに上下動しなければならないといった手間がなくなります。すべての部屋に行きやすく、掃除も短時間ですませられます。階段の昇り降りがなく、バリアフリーな住まいになります。介護が必要なお年寄りがいる世帯だけではなく、いまは元気でも将来のことが心配な年配の世代にとっても安心感が高まります。縦移動ではなく、横移動だけでいいので、どの部屋にも簡単にいくことができ、家族のコミュニケーションをとりやすいのもメリットです。

図表3 平屋のメリットとデメリット

【メリット】
・生活動線がシンプルでコンパクト
・階段がないのでバリアフリー
・家族のコミュニケーションをとりやすい
・メンテナンス費用や光熱費を抑制できる
・地震の揺れや風に強い
・予算の総額が少なくなる

【デメリット】
・広い敷地が必要で、固定資産税が高くなる
・水害時には家全体が水浸しになりやすい
・外部から侵入されやすい、プライバシーを守りにくい
・周辺環境によっては日当りや風通しが悪くなる
・単位面積あたりの工事費用が高くなる

平屋なら地震や台風などの災害にも強い

 平面ですから常に家族がどこにいるのか気配を感じることができ、簡単に集まることができます。リビングを中央に配して、その回りに居室や趣味の部屋、ワークスペースなどを設置するにしても、自然と家族が顔を合わせる機会が増えて、良好な関係を築きやすくなるのではないでしょうか。2階がないので、エアコンなどを多数設置する必要がなく、光熱費を抑制することができ、メンテナンス費用も抑えることができます。さらに、1階だけですから、暴風時にも風への抵抗力が強く、2階建て、3階建てなどに比べて地震の揺れにも強くなります。平屋住宅は災害にも強い住まいということができます。先にも触れたように、台風などの災害が多い九州で平屋住宅が多くなっているのも、理由のないことではないのです。

ポラスは分譲地のなかには平屋街区を

 こうしたメリットが広く知られるようになって、平屋住宅に関心を持つ人たちが増えていることに対応して、大手住宅メーカーを筆頭に、平屋住宅の商品を増やし、積極的に販売活動を行うところが増えています。一定の土地を持っている人であれば、2階建て以上に比べて、建物に関する建築費を少なくすることができます。大手住宅メーカーの1棟単価は4000万円、5000万円と高くなっていますが、平屋であればその半分、2000万円前後で可能ですし、中堅メーカーや地場の工務店などでは1000万円前後の商品を用意するケースも増えています。

 さらに、最近は建売住宅の分譲地のなかに、平屋住宅を建築して販売する事例も増えています。たとえば、ポラスグループの「ときの環(わ) 草加松原」は全25戸の建売住宅ですが、そのうち7戸を平屋住宅として販売しています。分譲地全体を「木の街区」「石の街区」「平屋の街区」の3街区に分け、それぞれに特徴をもたせた街づくりが行われており、平屋の住まいも順調に販売が進んでいるそうです。「ときの環 草加松原」の平屋街区の人気の高さを受けて、ポラスでは、注文住宅においても平屋住宅にいっそう力を入れ、分譲住宅でも平屋の比重を増やしていきたい意向です。 

平屋のデメリットにも十分な注意が必要

 ただ、そうはいっても、いいことばかりだけではありません。平屋には1階建てならではのデメリットもあるので、その点も十分に理解した上で選択しないと、建ててから、買ってから「こんなはずではなかった」ということになりかねないので、注意が必要です。

 まず、平屋ですから、総2階の住まいなどと違って、一定の床面積を確保するためには、それなりの広い敷地が必要になります。地価の高いエリアでは土地代と建築費の合計予算が高額になりますし、建ててからの固定資産税などの税負担も重くなってしまいます。メリットとして台風や地震などに強い点を紹介しましたが、1階しかないため、水害については要注意です。豪雨時には、垂直避難といって、浸水を避けるため、2階、3階に逃げることが勧められますが、平屋住宅ではそれができないので、その点は少し気がかりですから、ハザードマップを確認して、水害の心配のない場所を選ぶ、万一に備えて避難場所、避難方法などを理解しておくことが大切です。

2階建て同様に必要な設備なども多い

 また、1階だけですから、防犯システムを確立しておかないと、外部から侵入されやすいという問題がありますし、外から見えやすいのでプライバシーが気になるかもしれません。さらに、周辺環境によっては、日当りや風通しなどが悪くなる可能性があります。当初は隣接地に高い建物がなくても、将来的には建ってしまうこともあり得るので、頭に入れておきたい点です。

 最後に気になる費用面ですが、メリットの部分で触れたように、1階だけですから、建築費全体は安く抑えることができるものの、単位あたりの工事費用が高くなりがちです。平屋住宅といっても、2階建て、3階建てと同様にコンクリート基礎が必要ですし、屋根も必要です。門扉や塀、植栽などの外構が必要な点も2階建てなどと変わりません。キッチン、バス・トイレや住宅設備についても、2階建て、3階建て同様に必要なものが多く、平屋だからといって安くすむわけではありません。そのため、実際に見積もりをとってみると、意外に物入りだったりするので、慎重に計画を立てるようにしましょう。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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