三菱UFJ信託銀行コンサルティング部が2023年9月12日、「2023年度上期デベロッパー調査(首都圏マンション・戸建)」をリリースしました。それによると、首都圏のマンションは今後も年間1割程度の価格上昇が見込まれるという結果になりました。こんなに高くなっているのに、さらに上がれば、いよいよ買えなくなってしまいそうです。
首都圏マンションは1年前に比べて1割アップ
三菱UFJ信託銀行コンサルティング部では、半期ごとにデベロッパーを対象に、事業戦略や販売・仕入状況、相場観などについて調査を行っています。これからマンションや戸建住宅の購入を考えている人にとっても、有益な情報がありそうです。「2023年度上期デベロッパー調査(首都圏マンション・戸建)」は2023年7月末時点で実施、マンションデベロッパー26社、戸建デベロッパー11社から回答を得ました。回答数はあまり多くない印象ですが、首都圏で活動するベロッパーや建売住宅のデベロッパー自体がさほど多くありませんから、これでも十分に今後のトレンドを探る上で参考になるのではないでしょうか。
まず、マンション市場に関して、販売価格の実績と予想を聞いたところ、現在を100とした指数でみると、図表1にあるように1年前は6000万円以上のマンションが90.7、6000万円未満のマンションが91.1という結果でした。つまり、1年前に比べて価格帯にかかわらず23年7月末の価格は1割近く高くなっているということです。1年後の予想は、6000万円以上のマンションで108.3、6000万円未満のマンションで107.7という結果でした。価格帯によって若干の違いはありますが、1年後にはともに1割近く上がるとしています。依然としてマンション価格は上がり続けるとするデベロッパーが多いわけです。
戸建住宅の高額物件は1年後には下落見通し
マンションは1年後も1割近く上がるだろうというご託宣ですが、それに対して、戸建住宅(建売住宅)の市況はやや弱含みのようです。先の図表1をご覧ください。23年7月末を100とすると、1年前は6000万円以上の戸建住宅が100.8、6000万円未満が98.6です。マンションに比べると、戸建住宅は1年前と比べて、6000万円未満では若干上がっていることになりますが、それもわずかな上昇にとどまっていて、全般的にみれば価格水準に大きな動きはないとするデベロッパーが多いようです。1年後の予想に関しては、6000万円以上の戸建住宅が96.0、6000万円未満が100.4となっています。戸建住宅のなかでも6000万円未満の物件については、1年後の2024年もほとんど変わりはないだろうということですが、6000万円以上の高額価格帯については96.0ですから、若干下がるだろうとするデベロッパーが多いわけです。
マンションと戸建住宅では購入層が異なる?
マンション、戸建住宅にかかわらず、土地の取得費は高騰しており、建築資材や人件費も上がり続けています。ですから、販売に当たってはそうした原価アップを価格に転嫁したいところですが、マンションについては、価格転嫁して価格を上げてもある程度まで消費者はついてくるだろうと判断するデベロッパーが多いものの、戸建住宅については必ずしもそうではないようです。なぜなのでしょうか。
国土交通省の「住宅市場動向調査」によると、マンションと戸建住宅では購入層が大きく異なります。購入した物件形態別に平均年収をみると、新築マンションは960万円に対して、建売住宅は750万円です。平均年収には200万円以上の差があり、それが購買力に反映され、戸建住宅では高額になるとついていけなくなる消費者が多いのではないかという判断につながるのでしょう。このようにマンションと戸建住宅によって見通しがかなり異なっているので、マンションか戸建住宅かと迷っている人は、こうした価格見通しを参考にしてはどうでしょうか。
都心6区のマンションでは1億円超が好調
ところで、ひとくちにマンションといっても、価格の動向などはエリアによって大きく異なってきます。そこで、この三菱UFJ信託銀行の調査では、エリア別に、売れ行きが好調な価格帯を聞いています。その結果が図表2です。マンションは、都心6区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区・文京区)では、9000万円台から1億6000万円程度が売れ筋で、平均は1億2516万円でした。都心では1億円超えが当たり前として定着しているわけです。都心6区以外の23区の売れ筋価格帯は6000円から1億円で、平均すると8167万円でした。それが23区周辺になると売れ筋の平均は6355万円、郊外では5109万円となっています。都心と郊外では売れ筋価格帯には2.5倍近くの差が発生しています。どこに買うかで必要な予算が大きく異なってくるわけです。
世田谷区などの売れ筋戸建住宅の平均は1億円台
同様に戸建住宅について売れ筋好調な価格帯をみると、図表3の通りです。一見して分かるように、マンションに比べると価格帯レベルは若干低くなります。人気が高く、物件数も比較的多い世田谷区などの城南方面では、9000万円から1億2000万円強の範囲が売れ筋で、その平均は1億719万円でした。練馬区などの城西方面では、売れ筋の平均が7500万円で、都区部周辺は6694万円、郊外が4736万円となっています。マンションに比べるとエリアによる価格差はやや小さくなっています。世田谷区などの城南方面と郊外エリアを比べると倍率は2.3倍ほどで、マンションが2.5倍近い差であるのに対して、差が小さくなります。ただ、物件数が少ないためにここでは都心の戸建住宅については対象になっていませんから、それを含めると、ひょっとするとマンション以上の差になるかもしれません。
用地の取得に苦戦するデベロッパーが大半
今後の市場の見通しについて、土地の仕入れ状況を聞くと、マンションでは「ほぼ計画通り」が14%で、「苦戦している」が86%と、必ずしも順調ではないとするデベロッパーが大半でした。その要因としては、「用地価格が検討可能水準以上に高騰しているため」「用地情報が少ないため」などが挙がっています。戸建住宅についてはもっと厳しく、「ほぼ計画通り」とするデベロッパーはゼロで、「苦戦している」が100%でした。その要因はマンションとほぼ同様です。
つまり、今後はマンションにしろ、戸建住宅にしろ、新規の販売戸数の増加を期待しにくいわけで、物件数の減少が懸念されます。特に人気エリアではマンションや戸建住宅の分譲が極端に減少、希少性が高まり、その結果、価格がますます上がるという、消費者からみれば、負のスパイラルが強まりそうな予感のする調査結果といっていいのではないでしょうか。
今後の市場については懸念材料が目白押し?
今後の市場の懸念材料を聞いたところ、マンションでは「資材価格・労務費の上昇」「金利水準の動向」「用地費の上昇」などが上位に挙がり、戸建住宅では「消費者の購入意欲低下」「用地費の上昇」「資材価格・労務費の上昇」などが挙がっています。どちらも懸念材料が多いのですが、戸建住宅についてはマンションに比べて消費者の購入意欲の低下を挙げるデベロッパーが多い点が注目されます。ライフスタイルの変化などによって、戸建住宅からマンションへのシフトがますます進むのではないかと考えるデベロッパーが多いのではないでしょうか。加えて、先に触れたようにマンション購入層と戸建住宅購入層では、年収に大きな違いがあることが、購買力に関係しているとみるデベロッパーが多いのかもしれません。
いずれにしても、そうした懸念材料が、1年後のマンション価格は1割程度上がるものの、戸建住宅については下がる見通しもあるといった具合に、価格見通しの違いにも反映されているのでしょう。今後のマイホームの購入を考える上では、こうした価格動向も念頭に置きながら検討を進めるのがいいでしょう。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)