住友生命「Vitality」、驚異的ヒットの秘密…健康増進、買い物等で特典・割引も豊富
住友生命保険「Vitality(バイタリティ)」が2018年7月の発売以来、累計販売件数で70万件を超えるヒットを飛ばしている。足元の2021年度第1四半期の販売件数も同社の過去最高となる9.7万件を記録した。一般的に保険商品は発売から2年も経過すると、販売ペースは落ち着く。しかしVitalityは、発売3年経過後も右肩上がりに件数が増え続けている。このヒットの裏には、行動経済学に基づいた仕組み以外に、保険業界にいまだかつてなかった新しいムーブメントがある。ヒットの秘密を探る。
商品の概要から説明する。Vitalityは、リスクに備えながら、健康増進活動への取組みを応援する各種特典(リワード)や保険料の割引が受けられる、まったく新しい概念の保険だ。
【リスクに備えるとは?】
リスクに備える生命保険契約として「死亡保障・高度障害保障」「生活障害収入保障特約(=就労不能・介護保障)」「認知症保障」「医療保障」から必要な保障を選んでオリジナルの保障を組み立てることができる。これに「Vitality健康プログラム」をセットしたものが「Vitality」となる。
【リスクを減らすとは?】
リスクを減らすと期待されているのが、Vitality健康プログラムだ。保険契約にVitality健康プログラムをセットし、3つのステップを継続することで、顧客の健康増進活動につなげる役割を担う。なお、Vitality健康プログラムの利用には、保険料とは別に、Vitality利用料として標準プランは月額880円(税込)・家族プラン(※)は月額440円(税込)を支払う必要がある。
※家族プランは、すでに標準プランを利用している人の家族専用のプランであり、家族の健康増進に必要な特典(リワード)を厳選することで低廉な利用料となっている。
・ステップ1:健康状態を把握する
まずは、自身の健康状態を把握するため、オンラインチェックを実施したり、健康診断を受けたりすることでポイントが獲得できる。
・ステップ2:健康状態を改善する
日々の生活の中で健康的な活動を意識するため、いつもより多く歩くことを心がけたり、スポーツイベントに参加したりすることで、ポイントが獲得できる。
・ステップ3:特典(リワード)を楽しむ
獲得した累計ポイントで判定されるステータス等に応じて、モチベーションアップに繋がるさまざまな特典を受けることができる。
Vitality健康プログラムでは、取り組みに応じてポイントが付与され、年間の累積獲得ポイントに応じて、ブルー、ブロンズ、シルバー、ゴールドの4つのステータスが用意されている。保険料は契約1年目から一律15%の割引率が適用されるが、2年目以降は、ステータスに応じて保険料が変動し、割引率は最大で30%に達する。
しかし、いくら「健康増進活動につながる」「保険料が安くなる」と言われて運動を始めても、3日坊主が関の山だ。それを解消するために次の仕組みが構築されている。
続けさせる仕組みとは何か
(1)1週間ごとに運動目標が設定され、目標を達成すれば、スターバックスやローソンで指定のドリンクと交換できるチケットがもらえたり、あるいは日本対がん協会に寄付を行うことが可能。1週間という短い区切りで目標設定し、達成に向けたインセンティブを用意することで飽きさせずに続けられるような仕組みとなっている。
(2)先に紹介したように、加入後2年目以降の保険料がステータスに応じて変動する。
(3)Hotels.comのオンラインで宿泊予約を行うと、ステータスに応じた特別会員価格(ゴールド40%割引、シルバー20%割引、ブロンズ15%割引、ブルー10%割引)でホテル・旅館などが利用できる。
(4)イオン対象店舗で対象の果物・野菜を購入すると、毎月購入金額の最大25%相当のVitalityコイン(所定の電子マネーギフト等に交換できる、住友生命が独自に発行・管理する仕組み)を獲得できる。
(5)その他にも、特典(リワード)を提供する提携先企業が毎年増加しており、今後も増えていくことが期待できる。
・提携先企業(令和3年8月現在)
Vitality会員同士の交流
とはいえ、住友生命が健康増進の仕組みを構築したり、特典を増やしても、運動を自主的に継続できる人というのは、もともと運動の習慣が身についていたり、強い動機があるという方が多いのではないか。運動習慣がなかった人が、本当に運動を継続して習慣化できるものだろうか。この疑問を紐解くと、Vitalityの販売が右肩上がりになっている理由がみえてくる。
理由の一つが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う健康意識の高まりにある。年齢に関係なく重症化したり死亡する現実を知り、健康の大切さを痛感する人が増えた。同時に、多くの企業がテレワークやリモートを行い、運動量が低下して、“テレワーク太り”になる人も珍しくない。そんな人にとって、リスクに備えながら、健康増進を掲げるVitalityの商品コンセプトがマッチしたことが考えられる。
第2の理由は実績データにある。住友生命ではVitalityの加入者に加入後の健康増進の状況についてアンケート調査を実施、その結果を今年7月6日に発表した。加入時の健康診断の各項目が基準外であった会員について、44%の人は血圧が、31%の人は血糖値が、39%の人はLDLコレステロールが下がっている。健康診断の結果改善に貢献しているといえるのではないか。
第3の理由が、営業職員の力だ。リモートでも活動できる今、Vitality会員に進捗状況を聞くほか、励ましたり支えることを怠らないという。一人では続けることが難しい時でも、身近な応援団は確かに心強い。
第4の理由が、従来の保険業界になかったムーブメントだ。それは、Vitality会員同士のコミュニティが誕生したことだ。同社のHPには「Vitality部」という加入者同士が交流することができるサイトが設けられている。このサイトでのコミュニケーションもモチベーション維持に一役買っている。
さらに、特記すべき第5の理由がSNSの存在だ。Vitality会員が自主的にSNSを通じて出会い、共感し合っている。これは保険業界ではかつてない新たな潮流だ。
Vitalityのヒットや会員が自主的にSNSアカウントを立ち上げる様子に触れるにつれ、保険はリスクを軽減させるという役割から、健康を増進させ、楽しむ機会を提供する相乗効果を生み出すものに変容する新時代に突入していることを実感させられた。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)