ロシアによるウクライナ侵攻は、すでに「戦争」といってよい状況です。どちらも有利な状況で停戦合意したいため、長引くことが懸念されています。戦争の経済に与える影響は、当事国にとってはマイナスです。多額の軍事費を使い、多くの人命や生産設備を破壊するのですから、その負担はのちのちまで続きます。当事国ではない国にとっては、需要が増えることでプラスに働く場合もあります。第一次世界大戦中や朝鮮戦争中の日本はこの恩恵を受けました。しかし、今回の「戦争」について見る限り、世界中の多くの国にとってマイナスとなりそうです。
国際通貨基金(IMF)が4月に世界の経済見通しを公表しました。1月時点での予想に比べて、多くの国で下方修正となっています。
ウクライナ侵攻を受けて、ロシアへの経済制裁が行われましたが、制裁をするほうも大きなダメージを受けます。下方修正の程度は、ロシアへの資源の依存度によって異なります。アメリカはロシアからのエネルギー輸入が少ないため、影響は限定的です。それに比べて、ヨーロッパ各国はかなりの影響を受けます。日本もある程度のダメージを受けます。ロシアからは天然ガスや石炭などを輸入しており、これを止めると今後、電力価格に影響してくることでしょう。
確かにアメリカは、ロシアへの経済制裁によるダメージは少ないのですが、今の好景気がこのまま続くというわけではなさそうです。アメリカ自体が不安を抱える状況になりつつあります。
新型コロナウイルスの感染拡大による経済の落ち込みから回復したアメリカは、2021年にはGDP(国内総生産)成長率が5.7%にもなりました。景気の急回復で物資不足、人手不足となり、物価の上昇が顕著になっています。2021年後半から物価上昇が激しくなり、今年3月の消費者物価の上昇率は前年同月比8.5%と41年ぶりの水準になっています。ここまでになると、相次ぐ値上げに不満の声が出てきます。
アメリカの中央銀行に相当する連邦準備理事会(FRB)は、昨年までは「物価上昇は一時的なもの」と静観していましたが、ここにきてあわてています。3月に政策金利を0.25%引き上げましたのを皮切りに、今後も物価を抑えることを主眼に、金融引き締め政策を続けていきそうです。金利引き上げのペースが“徐々に”であれば景気を冷やす心配はそれほどありませんが、“急速に”ということになると、景気の足を引っ張ることになりかねません。金利が急に上がると、設備投資や住宅投資が落ち込むためです。
そして物価上昇は一度火がつくとすぐに収まるものではありません。ロシアからの輸入が少ないとはいっても、エネルギー資源の国際価格が上昇するとアメリカにも影響が及ぶでしょう。物価上昇が続くと消費の落ち込みが心配されます。今のアメリカは、物価と金利の上昇という、2つの懸念材料を抱えています。好景気が続き、物価と金利が上昇して景気後退に陥るというのは、景気変動の典型的なパターンです。
日銀、低金利政策を継続していくと明言
一方、日本は現状ではそれほどの物価上昇は起きていません。3月の消費者物価の上昇率は前年同月比で0.8%となっています。しかし、為替が円安ドル高に大きく推移していることもあり、今後は年率で2.0%程度まで上昇すると見られています。ロシアへの経済制裁の影響が加わると、さらに上昇する懸念があります。
ただ金利については、日本銀行は依然として低金利政策を継続していくと明言しています。金利面から投資がしにくくなるという心配は少ないでしょう。為替は円安ドル高が続くことが考えられます。円安は、輸入品の上昇につながりますので、物価には悪影響を及ぼしますが、日本からの輸出がしやすくなりますので、景気にはプラス面もあります。この状況が続くと、海外に移転した生産を国内にシフトする動きが出てきます。
IMFの見通しでは、2023年の経済成長率は、アメリカも日本も2.3%となっていますが、景気の勢いは日本に分がありそうです。資産運用においても海外から日本へのシフトする動きが出てくるのではないでしょうか。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)
<参考資料>