新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって2020年には各地で地価が下落しましたが、21年に入って回復、22年も着実な上昇が続いています。しかし、地価の上がり方は一律ではありません。エリアによって格差が大きくなっているので、マイホームなどの場所選びは、ピンポイントでの見極めが大切になってきそうです。
公示地価もマイナスからプラスに転じる
2022年3月下旬に発表された国土交通省の「地価公示」によると、住宅地の地価は0.5%の上昇でした。21年の「地価公示」では-0.4%だったので、0.9ポイントのアップです。半年ごとの変化をみると、前半の21年1月1日から7月1日までの上昇率が0.4%、後半の21年7月1日から22年1月1日は0.6%のアップで、年間合計1.0%の上昇になっています。
22年4月現在、コロナ禍はまだ続いており、第七波さえ懸念される状況であり、ロシアによるウクライナ侵攻による世界的な政情不安も解決の見通しがたっていません。そんな不安な環境のなかでも、地価は着実に回復しており、最近になるほど上昇率が高くなっているのです。それに伴って新築マンションなどの分譲住宅、中古マンションや中古一戸建てなどの住宅価格も値上がりが続いています。
営業店舗のあるエリアの実勢価格を調査
それでも、「地価公示」は実勢価格に対して半年から1年程度遅れているといわれています。公的指標であるため、調査に時間がかかり、経済・社会をミスリードするわけにはいかないので、慎重な数字になるのでしょう。実際、民間のさまざまなデータでは「地価公示」より早く、20年夏には底を打って、20年後半から上昇が始まり、21年、22年と右肩上がりになっているとする調査が多くなっています。
野村不動産ソリューションズの「『住宅地地価』価格動向」もそのひとつです。これは、野村不動産ソリューションズの仲介店舗の営業エリアにおいて、調査地点を選択、通常取引を想定して実勢価格を査定したものの要約です。そのため、調査地点などに多少の偏りがあるわけですが、市場取引の活発なエリアを中心としているだけに、実勢価格の動向を知る上では、貴重な指標といえるでしょう。
首都圏の住宅地価格は年率7.0%の上昇
それによると、首都圏平均の年間変動率は図表1のようになっています。新型コロナウイルス感染症が急拡大した2020年には地価が下落しました。2020年4月調査ではまだ0.3%のアップだったのが、7月調査では0.5%の下落、10月調査でも0.3%の下落でした。それが、21年1月調査では0.3%の上昇に転じ、その後は4月が1.3%などと上昇率が高くなって、22年4月調査では7.0%まで拡大したわけです。
調査地点ごとの四半期ごとの比較をみると、今回(22年4月)の調査では「値上がり」を示した地点が前回(22年1月)調査の40.2%から42.6%に増え、「横ばい」が56.8%から57.4%に増加、「値下がり」を示した地点は3.0%から0.0%になりました。値下がり地点が解消し、基本的に横ばいか上昇というかたちになったわけです。
埼玉県は21年には年間変動率が二桁台に
首都圏を東京都区部、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県の5地域に分けて四半期ごとの変動率の推移を示したのが図表2です。全体としては先の図表1にあった首都圏平均の年間変動率の推移と同じように右肩上がりになっていますが、地域によって動きにはかなりの違いがみられます。
なかでも最も変化が目立っているのが埼玉県です。図表2の折れ線グラフではブルーのラインですが、特に21年7月、10月調査では突出した上昇率になっています。四半期単位で3%台の上昇ですから、年間にすると二桁台のアップになります。それが22年に入って1%台、2%台に上昇率が小さくなっていますが、それでも他の地域に比べると相対的に上昇率が高い状態が続いています。
東京都区部や神奈川県など地価水準の高い地域に比べると割安感があるなか、浦和、大宮などが各種の住みたい街ランキングで順位を上げるなど、住宅地としての注目度が高まってきたことが上昇圧力になったのではないかといわれています。
(資料:野村不動産ソリニューションズ『「住宅地地価」価格動向(2022年4月1日)』)
20%台の上昇地点がある一方では横ばい地点も
しかし、注目しておきたいのは、埼玉県であれば、どこでも一様に地価が高くなっているわけではないという点です。かつてのバブル時代には、都心発の地価上昇が同心円を描くように周辺に波及して、同じように地価が上昇しましたが、最近ではそんなことはなくなっています。全体としては上昇傾向であっても、場所によって大きく上がる地点、さほど上がらない地点との格差が明確になりつつあるのです。それは住宅価格に影響しますから、これからの住宅地選びにおいては、その見極めがたいへん重要になってきます。
埼玉県の年間変動率の平均値は12.0%ですが、図表3にあるように、20%以上上がっている地点があるかと思えば、年間変動率0.0%の横ばい地点もあるのです。
さいたま市内でも上昇率には大きな差
駅別の具体的な変動率をみると、最も上昇率が高かったのは、JR京浜東北線などの与野駅の22.4%で、JR埼京線の戸田公園駅が21.1%、JR京浜東北線の浦和駅、JR埼京線・武蔵野線の武蔵浦和駅が20.0%と、20%以上の上昇率になった地点が4駅ある半面、0.0%の横ばいの駅が3駅あります。
注目しておきたいのは、同じさいたま市でも、浦和駅や武蔵浦和駅は20%台の上昇率であるのに対して、大宮駅、北大宮駅は0.0%の横ばいと、まったく異なる動きを示している点です。これは、野村の仲介店舗がある比較的土地取引の活発なエリアが調査対象ですから、仲介店舗がないようなさほど取引が活発とはいえないエリアでは、横ばいどころか、下落している地点もあるのではないかと推測されます。
ピンポイントでエリアの将来性を見極める
これは、何も埼玉県だけの動きではありません。最も地価水準の高い東京都区部でも同様です。図表4をご覧ください。22年4月調査で最も年間変動率が高かったのはJR中央線などの中野駅の21.8%で、東急世田谷線の松陰神社駅が21.2%で続いています。中野駅は駅周辺で大規模な再開発が続いており、松陰神社駅は閑静な住宅地ながら、地価がそれほど高くないこともあって、20%台の上昇率になっています。
反対に、年間変動率が0.0%の横ばいの地点も少なくありません。JR総武線の亀戸駅、都営地下鉄浅草線の戸越駅など合計10駅に達しています。住宅地の上昇率は、マンションや一戸建ての相場に大きく影響してきます。マイホームの資産価値を維持するために、どこにマイホームを取得するのか、ピンポイントで将来性を見極める視点が重要になってきます。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)