「新型コロナウイルスの感染防止のために、1年以上も実家に帰っていない」という人は少なくないでしょう。高齢の親の場合、1年で想像以上に老化が進んでいる場合があります。電話やインターネットのテレビ電話では、「元気でやっている」と言っていても、介護が必要な状態になっていることもあります。久しぶりに実家に帰ったら、生活の様子を観察してみましょう。
身体的な衰えの場合は比較的わかりやすいのですが、歩き方をよく観察しましょう。高齢者は、少しの段差でも転んでしまうことがあります。家の中での転倒事故は少なくなく、注意が必要です。
認知機能の衰えはすぐにはわかりづらい面があり、工夫が必要です。認知症になったのかどうかを気にする人が多いのですが、他の病気のように病気であるのか否かではっきりと区別されるものではありません。認知機能の衰えは徐々に進んでいきますので、様子がおかしいことに早めに気付くことが大切です。
実家に帰ったら、冷蔵庫に同じものがたくさん入っていないか(買ってあることを忘れて再び買ってしまう)、ゴミが溜まっていないか(曜日の認識ができなくなると、ゴミ出しができなくなる)、などをチェックするとよいでしょう。また、認知症の兆候はもの忘れだけではありません。気分の変化が激しい、自己中心的、無気力なども認知症の症状である可能性があります。
介護が必要になっても、実家が遠いとたびたびは介護に行くことはできません。なかには仕事を辞めて実家に戻る人もいるのですが、介護が終わった後のことを考えるとお勧めできません。自分の仕事や生活を犠牲にして介護をしていると、その無念さがイライラとなって出てしまうことがあります。身内が直接介護をしていても、親子ともに不幸な状態になりかねません。できれば介護にはいろいろな仕組みを活用し、親子の関係は良好に維持したいものです。
介護休業制度
介護のために活用する仕組みのメインは、公的な制度である介護保険です。介護保険では、介護が必要な人が、原則1割の自己負担で介護サービスを受けられます(所得によって2割、3割の場合もあります)。利用できるサービスの限度は、介護が必要な程度によって異なりますので、まずは「要介護認定」を受けます。申請は市役所でもできますが、「地域包括支援センター」に行くとよいでしょう。
「地域包括支援センター」は介護に関する無料相談所ともいうべき所で、介護が必要になる前から利用できます。場合によっては、自宅まで様子を見に行ってくれることもありますので、遠隔地に住む子にとっては心強い存在です。
要介護認定で介護が必要な状況だと判断されたら、ケアマネージャーと相談しながら、利用する介護サービスを選び、ヘルパーの派遣や通所での介護などを利用します。ケアマネージャーは、介護サービスの利用手続きだけでなく、いろいろな相談にも対応してくれます。本人(親)だけでなく、子も相談して、たびたび実家に行けないなどの状況を話しておくとよいでしょう。ケアマネージャーは多くの担当者を抱えていますので、遠慮していると事務的なことしかしてくれません。遠慮しないで相談するとよいでしょう。
介護のために仕事を休まざるを得ない人のために、介護休業制度があります。介護をする親族1人につき、最大93日まで取得することができます。親や配偶者はもちろん、配偶者の親なども対象で、同居か別居か、扶養しているか否かは関係ありません。「他に介護ができる家族がいない」ということも条件になっていませんので、兄弟などと同居している親の介護のためにも利用することができます。
介護休業の期間は無給となることが多いのですが、その間は雇用保険から介護休業給付金が支給されます。介護休業を開始した日前2年間に雇用保険の被保険者期間が12カ月以上ある人が対象です。金額は介護休業開始時の賃金の67%ですが、有給の場合は合計額で賃金の80%までとなっています。
それでも「93日は短い。3カ月で介護が終わるわけはない」と思うかもしれません。そのとおり、介護は何年も続きます。介護休業は「介護をするための期間」というよりは、「介護の体制を整えるための期間」なのです。介護保険サービスを利用して日常が落ち着くまで休みを取って、実家で過ごすのに利用します。あるいは老人ホームなどに入居するために、施設を選び、入居の手伝いをするのに利用するとよいでしょう。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)