8月27日に5年に1度行われる政府の財政検証がようやく公表された。経済が順調に成長すれば、2047年以降も現役世代の収入の50%が確保される見込みだというが、マイナス成長になった場合は、所得代替率は50%を割ってしまう。
その数カ月前に話題となったのが、金融庁の報告書に端を発する老後2,000万円問題。われわれFPにも直結してくるテーマだけに、お客さまからのご相談やメディアからの取材の申し込みも急増し、一時は特需のような騒ぎだった。FP同士でも集まると、この話題について触れることもあるが、みな何を今さらという感じである。
あの“2,000万円”は、統計から高齢者無職世帯(夫65歳、妻60歳以上)の毎月の収支の不足分5.5万円を平均余命(30年間)で掛け算しただけのシンプルな数字だ。FPにとって、あのように試算すること自体、目新しい手法ではなく、最新データで試算したり、ねんきん定期便などの個人のデータを利用したりすれば、当然金額は増減する。
ただ、筆者の知る限り、国(厚生労働省)は、年金問題でさんざん批判されてきた経緯もあってか、老後の赤字が膨れ上がるようにみえる「月の収支不足×残りの人生」を単純に掛け算しただけの数字を発表することはなかった。それを現政権に“忖度”しなかった金融庁が、掛け算してしまい、大きな問題となったのではと推測している(そもそも、報告書の目的は国民に投資を促すことであり、この数字がどれだけ取り扱い厳重注意のセンシティブな性質を持つものかを推し量れなかったのかもしれない)。
ただ、今回の報道は、2,000万円という金額がどれだけのインパクトを与えるものか、改めて認識する良い機会となったと考えている。しかし、徒に不安を煽るつもりはないが、あの不足分には、大きな病気やケガをした場合など、万が一のときの臨時支出は、ほとんど考慮されていない。
さらに、注意すべきは本格的に医療費や介護費が増加するのは70歳以降という点だ。厚生労働省の統計によると、生涯医療費(平成27年度推計、男女計)は2,700万円で、このうち70歳以降にかかる医療費が50%を占める。しかも、70歳以上に対しては、近年、高額な医療費に関する改正が行われ、負担増の仕組みが導入されたことに多くの人は気づいていない。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回は、70歳以上の高額療養費制度(以下、高額療養費)に関する改正と、それにまつわる注意点についてご紹介しよう。