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黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

高齢者の医療費自己負担がこっそり上昇…突然、月4万から17万円に増の例も

文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー

大腸がん罹患後に社長を勇退。その後、肝転移が発見

 田村圭子さん(仮名・71歳)は、2016年4月、68歳の時に人間ドッグで大腸がんが見つかった。その当時、圭子さんは介護ビジネスの会社を経営しており、社長として多忙な日々を送っていた。幸いなことに、手術とその後の抗がん剤治療がよく効き、予後は安定していた。

 ただ、これまでとは同じように働くのが難しいと感じた圭子さんは、翌年、社長職を甥の田村健一さん(仮名・49歳)に譲り、自分は会長職に就くことにしたという。

 現在も週4日は出社しているが、圭子さん曰く「仕事人間だったから、急に働かなくなると、認知症になっちゃいそうで(苦笑)。でも、元気なときに会社を引き継げたせいか、安心して仕事ができます」。

 1,000万円以上あった報酬は、約400万円に減額。ただ、独身の圭子さんに扶養すべき人はいない。住宅ローンなどの借金もなく、年金や不動産収入、預貯金なども含めると、とくに贅沢をしなければ十分やっていける。これまで忙しくてできなかった、趣味や習い事を再び始めようかと思っていた矢先、半年に1度の定期検診で、肝転移と診断を受け、2018年10月から再び抗がん剤治療をすることになった。

2015年1月以降の高額療養費改正の影響を受ける

 長年、社長業をやってきただけあって、体力も気力もある圭子さんは、前向きに治療に取り組んでいるが、やはり悩みは医療費の高さである。

 最初にがんが見つかった時にかかった費用は、約100万円(手術のための入院費用<10日間>約55万円<差額ベッド代含む>とその後の抗がん剤治療約35万円<6カ月>、通院のための交通費、ウイッグ代など10万円)。罹患当時68歳だった圭子さんの医療費の自己負担割合は3割で、高額療養費の上限額の区分は、【図表1】のイに分類される。

 タイミングの悪いことに、発症する前年2015年1月以降、70歳未満の高額療養費の改正があったばかりで、応能負担の観点から、所得区分が3区分から5区分に細分化されたのだ。改正前であれば、仮に圭子さんの総医療費が100万円だった場合、病院窓口での支払いが8万7,430円を超えれば、超えた分が戻ってきたものが、改正後だったため、17万1,820円を超えないと適用が受けられない。要するに、適用のハードルがぐっと上がったのである。結局、圭子さんが高額療養費の適用を受けられたのは入院時のみだった。

【図表1】70歳未満の高額療養費の自己負担限度額

高齢者の医療費自己負担がこっそり上昇…突然、月4万から17万円に増の例もの画像4
※出所:厚生労働省「高額療養費を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
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