最大震度7の「令和6年能登半島地震」で幕を開けた2024年。被害に遇われた皆さまには心よりお悔やみ、お見舞い申し上げます。そこで改めて考えておきたいのが、地震保険への加入です。調べてみると、今回の被害が最も大きかった石川県の地震保険世帯加入率は2022年現在で30.2%と3割程度にとどまり、全国平均の35.0%より低い水準です。地震後の生活再建のためにも地震保険の存在を見直してみる必要があるのではないでしょうか。
世界各国の首脳が声明を出すほどの被害
1月1日の午後4時10分に発生した大地震。気象庁が「令和6年能登半島地震」と命名するほどの大きな被害を出しています。地震の規模を示すマグニチュードは7.6で、石川県志賀町では最大震度7を記録し、気象庁によると石川県能登地方で観測した地震としては記録の残る1885年以降では最大の規模だそうです。
気象庁では、大きな災害を起こした自然現象について名称を定めることとしています。地震の場合、陸域でマグニチュード7.0以上、海域で7.5以上としており、マグニチュード7.6の今回の地震は命名の対象になったわけです。命名するのは、災害発生後の応急・復旧活動の円滑化を図るとともに、当該災害における経験や貴重な教訓を後世に伝承することを期待してのことだそうです。後世の人たちに伝える必要があるほどのたいへんな災害ということでしょう。
今回の地震の被害の深刻さは、海外からの反響の大きさにも表れています。アメリカのバイデン大統領は、ハリス副大統領とともに、今回の地震について国家安全保障チームから説明を受け、即座に次のような声明を出しました。
「恐ろしい地震の被害を受けた日本の人びとのために祈っている。アメリカは日本の人びとに必要な支援を提供する用意がある。緊密な同盟国として両国は深いきずな共有しており、この困難な時期に私たちの思いは日本と共にある」
アメリカだけではありません。イギリスのスナク首相、カナダのトルドー首相、フランスのマクロン大統領が声明を出し、アジアでも台湾の蔡英文総統が日本語でお見舞いのメッセージをSNSに寄せています。あの北朝鮮の金正恩総書記もお見舞いを寄せるほどですから、事態の深刻さを痛感させられます。1月1日に発生してから1月5日に至っても、交通や通信の遮断によって、まだ被害の全容が判明しないのが現状ですから、倒壊家屋数、死者数などがどこまで膨らむのか想像を絶するものがあります。
地震による被害は火災保険ではカバーされない
そんななか、気になったのが、地震保険への加入率です。周知のように、地震によって引き起こされる家屋の倒壊や津波、火災などによる被害は地震保険に加入していないと補償されません。火災保険だけではカバーされず、火災保険に付帯する地震保険に加入していないと保険金は出ない仕組みです。
ところが、その地震保険の加入率が、今回の震災のあったエリアはかなり低くなっています。図表にあるように、2022年の全国平均の火災保険世帯加入率は35.0%ですが、最も被害の大きかった石川県は30.2%にとどまっています。3割ほどの世帯しか地震保険に入っていないのです。周辺各県も同様です。福井県は35.0%と全国平均並みですが、新潟県は26.7%、富山県は27.0%にとどまっています。
能登半島は、東日本に位置する北米プレートと、西日本に位置するユーラシアプレートとの境界付近にあり、この境界付近は地震が多いことで知られています。にもかかわらずたいへん低い水準にとどまっているのです。
宮城県の地震保険加入率は50%台に
北陸地方では、1948年に「福井地震」が発生、戦災からの復興途上にあった福井市を直撃、死者は3769人に達し、全壊した家屋は3万6000戸にのぼりました。また、新潟県でも、1964年の「新潟地震」では死者26人、全壊家屋1960戸を出し、2004年の「新潟県中越地震」では、死者68人、全壊3175戸の被害を出しました。そうした地震の巣といってもいいエリアなのですが、地震保険加入率は低い水準にとどまっているのです。
それに対して、2011年に東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で大きな被害を受けた宮城県では、2010年度まで30%台だった世帯加入率が、11年度には40%台になり、13年度には50%台まで上がっています。東日本大震災が発生したのは2011年3月11日ですから、被害の深刻さを受けて、急遽加入した人が増えたわけです。
地震保険は火災保険金額の最大50%まで
地震保険加入率が低い水準にとどまっているのは、保険に入っていても、被害額が100%補償されるのではないことが影響している面もあるかもしれません。地震保険に入っていたからといって、それだけで保険金によって倒壊した住まいを建て直し、再建できるわけではないのです。
地震保険で補償されるのは建物については、火災保険金額の30%から50%までで5000万円が上限、家財についても火災保険金額の30%から50%までで、1000万円が上限となっています。たとえば、火災保険の保険金額を時価評価の5000万円として設定した場合、火災保険はその50%まで、2500万円までの保険金額が上限になります。大規模な地震が発生した場合、補償しなければならない件数が膨大になり、保険会社の負担が多すぎるため、最大でも50%までに抑えられているのです。しかし、支払額が膨大になるからといって、保険会社が倒産するようなリスクが発生しないような仕組みがつくられています。ですから、地震保険に加入していても、大地震時には保険金が支払われないのではないかという心配はいりません。
保険金の支払いは日本国政府が保障している
地震保険は損害保険会社だけで対応するのではなく、各社が集めた地震保険契約の全部を日本地震再保険株式会社に集め、保険料の一部を政府に再保険料として支払っています。それをもとに政府も災害時の準備金を積み立てており、万一の場合には政府が支払いを保障し、大災害時でも確実に保険金が支払われる仕組みになっています。いわば、地震保険は政府が保証人になっているわけで、いくら大規模な地震が発生したからといって、支払いが行われないということはあり得ません。事実、あれだけの大きな被害を出した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、東日本大震災でも地震保険に加入している世帯に対しては、キチンと保険金が支払われています。政府がある限り、地震保険は必ず支払われるので、心配する必要はありません。
地震保険に入っていないとマイナスからの出発に
とはいえ、最大でも火災保険金額の50%までですから、地震保険から下りる保険金だけで、被害を受けた住まいを建て替えられるわけではありません。しかし、建替えに当たっての生活再建の大きな手助けになります。地震保険に加入していないと、住まいや家財などのすべてを失って、火災保険に加入していたとしても保険金は出ないため、支払っていた保険料は掛け損になります。すべて自力で資金を用意して建て直さなければならず、いわば、マイナスからの出発になります。それが、地震保険に加入していれば一定の保険金が出るので、マイナスではなくゼロから、あるいは若干のプラスからの再出発が可能になるかもしれません。
なお、最近ではソニー損保の「地震上乗せ特約」で、最大では火災保険金額の100%まで補償される商品が発売されています。地震による損害が全損または半損であれば、地震保険金と同額の保険金が上乗せされる仕組みです。全損被害と認定されれば、最大でそれまでの住まいと同様の住宅の建設が可能な補償額を得られます。
保険料は建物の構造やエリアによって異なる
地震保険の保険料や特約上乗せ額などは、建物の構造、地域などによって異なります。地震に強い、強固な建物、たとえば鉄筋コンクリート造などの住まいは木造住宅より安くすみ、地震のリスクが高いエリアでは保険料が高くなり、リスクの小さいエリアは比較的安く設定されています。
地震はいつ、どこで発生するか分かりません。たとえば、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた神戸市は、関東に比べて地震の少ない関西のなかでも、ほとんど地震のないエリアとして知られていましたが、実際には大きな被害を出す地震に見舞われました。自分たちが建てようとする住まい、取得しようとする住まいのエリアはどうなのか、事前に確認した上、ぜひとも加入するようにしていただきたいものです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)