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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

火災保険は地震火災は補償対象外、認識薄く…住宅再建費用100%補償の地震保険も登場

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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被災地

 今年は東日本大震災から10年目、熊本地震から5年目にあたる。2月13日には福島県沖で地震が発生したほか、3月20日にも宮城沖で地震が発生し、10年前の大震災を思い起こさせた。

 だが、いまだに「自分のところは大丈夫」と思っている人も少なくない。建築技術が進化して地震に強い家もあるが、地震保険は無用の長物なのか。東日本大震災では1200人を経済的に助けた保険代理店、株式会社Miriz代表取締役(本社:宮城県)の渡辺健一さんの経験を通して、地震保険の必要性を検証する。

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Miriz代表取締役の渡辺健一さん

火災保険の提案

 2011年3月9日、渡辺さんはアメリカのダラス空港で「宮城で地震」という情報を耳にした。「何かの聞き間違えだろうか」と思い周囲を見渡すと、テレビでは三陸を震源としたM(マグニチュード)7.3の地震が発生し大船渡で55cmの津波が観測されたと流れていた。東日本大震災の前震とされる三陸沖地震だ。

 渡辺さんは成田空港に到着して公衆電話に飛びつき、会社も自宅も無事で、お客様にも従業員にも被害はないことを知った。

 東北では、親から子へと地震や津波の怖さが代々伝えられる。宮城県は1978年に発生した宮城県沖地震で、仙台市などで最大震度5(M7.4)を経験しているだけに、危機感を持つ人は多い。渡辺さんは父の代から営んでいる保険代理店の2代目という職業柄もあるが、自身の経験から自然災害への備えの大切さを痛感していた。

 86年、当時小学4年生だった渡辺さんの実家は、「8.5水害」で床上1mまで浸水した。500m先の河川が氾濫したことが原因で、実家は住むことができない状況となった。水害は16都県におよび、死者・行方不明者・負傷者は100人以上、住家・非住家合わせて10万棟以上の被害が出る惨事となった。被災後、当時社長だった父の常男さん(現会長)は、河川から少し離れた場所に自宅を再建して、事務所を兼ねた新居で渡辺総合保険を再スタートさせた。

 その頃の日本は高度成長期にあり、自動車保険の加入者が引きも切らず、損保代理店はそれだけで食べていけるといわれた時代でもあった。しかし、常男社長は「いつ、どんな自然災害が発生するかもわからない。その時に少しでもお客様のお役に立つように」と火災保険の提案にも力を注いだ。

 火災保険は火事の時だけ補償される保険だと誤解されがちだが、国内で発売されている火災保険は火災以外にも風災、水災、雪災、雹災、落雷といった広範囲の損害を補償する。渡辺総合保険は、もともと損害保険だけを取り扱う代理店だったが、2004年に渡辺さんが入社してからは、生命保険も扱うようになった。会社の規模が大きくなり、社員も増え、常男社長が会長に、渡辺さんが代表取締役として経営を担うようになっても、火災保険の提案は親子が先頭に立ち、社員全員で熱心に取り組み続けてきた。

東京海上日動の「超保険」

 渡辺さんの代理店では毎年お盆と年末の2回、すべてのお客様に活動報告や情報提供をするために「ニュースレター」を発送している。11年2月、「1978年に発生した宮城県沖地震(M7.4)から30年以上、大きな地震が発生していない。そろそろ地震が発生してもおかしくはない」と考えた。そこで、すべての契約者に地震保険のチラシを同封して、地震保険をテーマとした「ニュースレター 特別編」を発送した。

 地震保険は、地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没または流失による被害を補償するもので、一般的に単独で契約することはできない。居住用の家屋と家財のそれぞれを対象に補償をつけることができる。補償範囲は各社共通で、火災保険で設定した保険金額の30~50%の範囲内で地震保険の保険金額を設定することが可能だ。上限は建物では5000万円、家財は1000万円となっている。

 被災した場合の政府による被災者への補償もある。災害により住宅が全壊するなどした世帯に、基礎支援金と加算支援金の最大合計300万円が支給される「被災者生活再建支援制度」がある(単身世帯はそれぞれ4分の3の金額となる)。内訳は基礎支援金(住宅の被害に応じて支給)と、加算支援金(住宅の再建方法に応じて支給)で、次のようになっている。

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 しかしながら、自宅を地震や津波で失い、家を再建するのに3000万円必要だとした場合、地震保険から補償されるのは最大で50%となる1500万円、国の補償の300万円を加算しても、1200万円が不足してしまう。

 こうした背景を受け、大手損保では東京海上日動火災保険から「地震危険等上乗せ補償特約」が発売された。これは、地震保険の保険金が支払われる場合に、地震保険の保険金と同額を支払う特約で、「地震危険等上乗せ補償特約」をセットすることで、地震・噴火またはこれらによる津波による損害に対して最大100%まで補償されるものだ。ただし、これをセットするには、東京海上日動の「超保険」(生命保険と損害保険がセットになった商品)の火災保険に加入することが必須だ。

 当時、この特約は他社になく、業界で画期的だと評されていたものの、お客様からは「補償がいいのはわかるが、保険料が1万円以上、上がるんでしょう? いつか地震が発生するといわれているけど、来ないじゃない」といった反応もあり、提案が難しい商品だともいわれていた。

地震保険の重要性を訴える

 そんななか、渡辺さんは「地震危険等上乗せ補償特約」の必要性を熱心にお客様にお伝えした。それには、知人のAさんの実家が阪神・淡路大震災で被災していた影響があった。Aさんの実家は神戸の対岸に位置し、被害に遭った。しかも被害はAさんの実家と斜め前の家の2軒だけで、その2軒は全壊、Aさんの実家は修理費用が800万円かかった。しかし、行政からはお見舞い金と称して7万円が支払われただけだったという。「周囲一帯で被害が発生していないなかで、そんな信じられないことが起こる」という話を聞かされ、住宅ローンが残った家が全壊して家を建て直した場合に二重ローンに陥ってしまう悲劇を知った。

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Mirizの社員

 渡辺さんはAさんから渡された資料や書籍を読み、社員全員にも読んでもらい、ミーティングを実施した。その結果、「地震も津波も起こってほしくはない。けれど、島国の日本では、いつ、どこで地震が発生してもおかしくはない。すべてのお客様に『起こる可能性は低い』ではなく、『可能性は低くても、発生しても困らないように』とお伝えするのがプロではないか」と意見が一致した。以降、地震保険は従来にも増して丁寧に説明した。

 たとえば、地震や津波の発生時は火災を伴う確率が高いが、「地震保険を契約しておかないと、火災保険では補償されない」と伝えると、お客様は一様に驚かれるという。また、「もし自分の身の上に起こったら」とリアルに想像してもらえるように、保険会社に協力を仰ぎ、各地の被災状況を聞いたり、知人から被災地の資料や写真を提供してもらい、被災地の実態や被災者の苦労を伝えるよう工夫を凝らした。

 11年3月9日の三陸沖地震後、ニュースレターを見て地震保険の加入を希望する連絡が何本も入った。

「その時なぜか、不安を感じているお客様に、急いで安心をお届けしなければ、という思いに駆られ、社員総動員で、契約を希望するお客様と面談して、契約手続きを進めました」(渡辺さん)

 3月11日の午前中にも地震保険の契約が完了したお客様がいた。そして同日午後2時46分、東日本大震災が発生した。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

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【渡辺健一】

株式会社Miriz(ミライズ)代表取締役

本社所在地:

〒989-1225
宮城県柴田郡大河原町字広表29-14 TEL/ 0224-52-6818

仙台本店:

〒980-0811
宮城県仙台市青葉区一番町2-1-2 NMF仙青葉通りビル8F TEL/ 022-393-9650

1977年1月11日生まれ 宮城県柴田郡大河原町出身

趣味 ひとり旅(47都道府県 海外42カ国訪問)

特技 アームレスリング東日本大会優勝

   2005年から10年まで全国大会出場 全日本選手権5位

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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